上 下
32 / 70
第三章 思惑

第三十二話 鎮火して……

しおりを挟む
 オクタヴィアンは暗闇の中にいた。
 足元さえ見えないくらい真っ暗闇。そしてやたら寒く、空気が肌に刺さるような痛さがある。
 その寒さのせいか、オクタヴィアンは心細く、不安な気持ちになっていった。

 ここはどこだ……?

 すると暗闇の中から喝采とも言える明るい声と拍手が複数聞こえてきた。

「オクタヴィアンおめでとう~!」
「これで君も私達の仲間だ!」
「でもちゃんと自分で人間を狩らないと、これから大変になるよ♪」
「明日はちゃんと人間達を殺して、世の中を我々で支配しようね~♪」

 オクタヴィアンは少し恐くなった。

 人間を狩る? 我々で支配? 何をこの暗闇の連中は話してるんだ?
 そんな恐ろしい事、ボクが加担する訳ないじゃないか!

 しかしオクタヴィアンの想いとは裏腹に、闇の声は話しかけてくる。

「オクタヴィアン……君はまだ、吸血鬼になって一日しか経っていない。これからどんどん学習して本能が出て、吸血鬼らしい吸血鬼になるんだ。だって君は目の前で家族も見殺しにしたじゃないか」

 え?

 オクタヴィアンはひるんだ。
 
 み、見殺しって……ボクだって二人は助けたかった……。でもあまりの速さに手も足も出なかったんだ……。

「そういうのを見殺しって言うんだよ」
「ほら、この二人も悲しんでいる」

 この暗闇の言葉とともに、目の前に炎に巻かれて目の前で絶命した妻のエリザベタと娘のヨアナが現れた。しかもその二人は今にも呪いそうな、恐ろしい形相をしている。

「あなた……あなただけ助かるなんて、ありえないわ」
「パパ……何で助けてくれなかったの?」

 目の前の二人はそう言うと、みるみる炎に包まれた。
 オクタヴィアンは焦った。

「ま、待て! ど、どうすれば助けられるんだっっ! エリザベタ! ヨアナ!」
 
 オクタヴィアンは何も出来ないでおろおろとしている間に、二人はボオボオと勢いよく燃え、目の前でオクタヴィアンを睨みながら灰になっていった。

 オクタヴィアンは大粒の涙を流しながら、何もまた出来なかった自分を責めた。

「エリザベタ……ヨアナ……」


 
 ………………

 オクタヴィアンは暗闇の中で目を覚ました。

 とんでもなく嫌な夢を見た気がする……。あまり覚えていないが、二度と見たくない、そんな夢だった気がする……。
 
 そんな事よりも……ここはどこだ?

 そうだ! 昨日、エリザベタとヨアナが死んで……、ローラを助けたけど……それで……

 オクタヴィアンはその時を思い出した。

 

 もう……疲れた……

 ローラに別れを告げられ、屋敷も全て燃え尽きて全てを失ったオクタヴィアンは、その場で崩れ地面に大の字になると、朝焼けの空を眺めた。

 ……ボクももう逝くよ……待ってて、ヨアナ、エリザベタ……

 オクタヴィアンはじっくりと目を閉じてその時を待った。

 しばし静寂が……

「ダンナ~……」

 ん? 何やら声がする……気のせいかな……何か、呼ばれているような……

「ダンナ~! ダンナ~! ハっ、ハっ、ハっ」

 ……これは気のせいじゃないな。と言うか、すんごく近くにいないか? 鼻息も荒いしっっ。

 オクタヴィアンは何となく分かっていながらも薄目を開けた。

 そこにいたのはアンドレアス!

「ダンナ~! やっぱり生きてた~! こんなトコで横になっちまったら焼けちまいますぜっっ! 何処かに隠れましょうっっ!」

「いいんだよ! ボクはもう何もかも失ったんだ! ここで朝日を浴びて、屋敷共々灰になるんだ!」

「え~っと地下の隠し通路は~……あそこですぜ! さ、入りましょう!」

「人の話を聞けよっっ!」

 こうして大の字になっているオクタヴィアンは、大の字のまま無理矢理アンドレアスに身体を引っ張られて、まだ火の粉の飛び散る本館の隠し通路の入口まで連れて来られた。

「熱い熱いっっ!」

 アンドレアスは火の粉を避けるが、オクタヴィアンはそんなアンドレアスを見て、全く熱さなど気にもせず仕方なく起き上がった。

 そして仕方なくアンドレアスに連れられて階段を降りた。

 そんな地下の隠し通路には火事の被害がなく、入口こそ燃えカスなどでボロボロになっているが、中に入ればとてもキレイな状態であった。

「ささ、ダンナ! ここで横になって、とりあえず今日のところは寝てくだせえっっ」

 アンドレアスは何にも敷いていない、ただの通路の床を指差してオクタヴィアンを促した。

 オクタヴィアンは当然、イヤな顔をした。

 しかしアンドレアスに連れて来られて死に損なった身としては、どこで寝ようと同じか……

 そう思いながらもアンドレアスに質問をした。

「何でボクを助けたんだよっっ」

「ヘイ、ダンナ! テスラ様が助けろとおっしゃってたんで助けました!」

 アンドレアスはケロっと答えた。

 なるほど……テスラに言われたからか……まだ死ぬなって事なのか……

 オクタヴィアンはそう思いながらその場所で横になった。
 するとビックリくるくらいすぐに意識を失った。

 そして目を覚ましたのだ。


 つまりここは……隠し通路。昨日の事……夢じゃないのか? いまだに信じられない……

 オクタヴィアンはヨアナとエリザベタを失い、ローラが去り、屋敷と屋敷のみんなも全て失った事が全く信じられず、本当に起こった事だと思えなかった。

 しかしそう思いながらも、目線を横に向けると、案の定アンドレアスがいっしょになってぐっすりと寝ていた。

「……夢じゃないのか……」

 オクタヴィアンは何の因果かアンドレアスに殺されそうになったのに、今回はアンドレアスに命を救われた事に何とも奇妙な気持ちになった。

 そして上半身を起こすと、ゆっくりと周りを見てみた。
 隠し通路はまっすぐの一本道なので、城との境界の出口も見る事が出来る。

 その城の出口側は、荷物が置けるように少し広くなっているのだが、どうやら松明が灯してあるようだ。

 何の気なしに見ていたオクタヴィアンだったが、そこに何か違和感のある者が立っている事に気がついた。

 屍食鬼! ウソだろ?

 オクタヴィアンは慌てて起き上がると、アンドレアスの身体をゆすった。

「おい! アンドレアス! 逃げろ! 屍食鬼がいる! キミは危ない!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

外れスキルで始める、田舎で垂れ流しスローライフ!

Mr.Six
ファンタジー
「外れスキル」と嘲笑され、故郷を追放された青年リクト。彼の唯一のスキル「垂れ流し」は、使うと勝手に物が溢れ出すという奇妙な能力だった。辿り着いたのは、人里離れた小さな村。荒れた畑、壊れかけの家々、そしてどこか元気のない村人たち。 役立たずと思われていたスキルが、いつしか村を救う奇跡を起こす。流れ出る謎の作物や道具が村を潤し、彼の不器用ながらも心優しい行動が人々の心を繋いでいく。畑を耕し、収穫を喜び、仲間と笑い合う日々の中で、リクトは「無価値なスキル」の本当の価値に気付いていく。 笑いと癒し、そして小さな奇跡が詰まった、異世界スローライフ物語!

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

処理中です...