27 / 70
第二章 吸血鬼初心者
第二十七話 まさに地獄絵図
しおりを挟む
屋敷の本館に三人が入った後に、ローラは一人で中庭に降りたった。
ローラはヨアナが心配でしょうがなかった。
しかしそれと同時に、ローラに嫌われた気がして、どう接したらいいのか分からなくなっており、ローラはヨアナの行き先が分かってはいたが、中庭から奥に入る事が出来なかった。
「これが屍食鬼だ。よく見ておくといい」
階段の踊り場から二段下がった手すりのところでテスラは冷静に言った。
オクタヴィアンはその光景にショックを受けた。
数日前にいっしょに夕飯を食べて笑い合った使用人のバロとアナ。
しかし今はまるで違う。
目はほぼ白目、眉間にしわが集まり固まっているようだ。
そして口は裂けて歯は全てが犬歯になり、しかも一本一本が独自に動いている。
口が裂けた分だけ頬のシワが深く刻まれ、顔は恐ろしいほど醜く、かすかに二人の痕跡が残っているくらいの風貌になっていた。
その二人が倒れている死体に食らいついて血だらけで血を吸っているのである。
しかもその地獄絵図には娘のヨアナもしっかり加わっているのだ。
満面の笑顔で死体の太ももをかじっている。
ヨアナがその太ももをかじる度に血しぶきが少しずつ吹き、ヨアナの顔や踊り場や死体を真っ赤に染めていく。
それは二体の屍食鬼にも同じ事で、死体も屍食鬼もヨアナも全てが真っ赤に染まっていったのだった。
しかしオクタヴィアンが驚いたのはそこではなかった。
なんて楽しそうなんだ……そしてこの血の香り……たまらない! ボクも加わりたい……加わって、あの真っ赤な血を飲みたい……
そうなのだ。
オクタヴィアンもその残酷なショーに加わりたくなっていたのだ。
そんな気持ちが持ち上がった事に、オクタヴィアン自身も驚き、自分の気が違ってしまったのではないかと思った。
「おまえも加わりたいんだろ?」
すっかりオクタヴィアンを見透かしたテスラは笑みをこぼしながら言った。
オクタヴィアンは我慢の限界。
「ふむ。加わればいい」
このテスラの一言で、オクタヴィアンのタガが外れた。
本能のままに血を目指したオクタヴィアンは、二人の使用人を力任せに死体からどかし、娘のヨアナすらどかすとその死体に勢いよくかぶりついた。
その死体はまだほのかに暖かく、その暖かい血が自分の口から入り、喉を通っていく。まるで生き返るような快感!
なんて美味しいんだ! こんな美味しい飲み物が世の中にあったのか!
オクタヴィアンは夢中でその死体から血を飲み続けた。
しかし先に貪っていたのに、オクタヴィアンに邪魔をされた二人の屍食鬼化した使用人は、自分達もとばかり、また死体に向かい始めた。ヨアナだって黙っていない。
そしてオクタヴィアンを払いのけようと、ものすごい力でオクタヴィアンを死体から引き離そうとした。
しかし理性を失ったオクタヴィアンもそれを許さない。
怒りに任せたオクタヴィアンは左手を、使用人達の首目掛けて手刀のように振り上げた。
するとその手刀は、まるで鋭い日本刀のように、元使用人のバロの首をスパンと切り落とした。
その首は足元にゴロンと落ち、バロの胴体は首から血をビュービュー吹き出しながらその場で崩れ落ちた。
するとその崩れ落ちたバロにむかってもう一人の屍食鬼化したアナがかぶりつき、血を飲み始めた。
ヨアナもバロの胴体にかぶりつき始めた。
オクタヴィアンは何も考えずに、血を飲んでいる。
そこに肩をポンポンと叩かれた。
また邪魔をするのか!
オクタヴィアンはまた手刀を振り上げた。しかしその手は空を切り、その代わり顔に思いっきりビンタがとんだ。
オクタヴィアンは我に返った。
目の前には自分の目線までしゃがみ込んだテスラがいる。
「満足したか?」
オクタヴィアンは冷静になって周りを見た。
足元には屍食鬼化したが首をなくしたバロの身体に、血だらけでその首元にかぶりついている屍食鬼化したアナと、そのお腹にかぶりついている血まみれのヨアナ。
その横には狂った顔のバロの首がゴロンと転がっている。
そして自分が覆いかぶさっていたのは服はボロボロ、身体中噛みつき後で穴だらけになって生き絶えている食料管理のアウレルだった。
オクタヴィアンは段々と自分がなにをしたのか理解してきた。
ボクは今、アウレルの血を飲んでいたんだ。でも全く記憶が残っていない。このアウレルから香る血の匂いが美味しく飲んだ事だけは覚えている気はするが、正直踊り場に来た辺りからの記憶が本当に残っていないっっ。
そして足元に転がっている狂った顔のバロの首を見て、意味が分からなかった。
「何で一人、首が転がってるの? テスラさんがやったの?」
「いや……おまえがやった」
「ボ、ボクがやった? ウソでしょ?」
オクタヴィアンは全く分かっておらず、その状況も理解しているテスラは冷静に説明を始めた。
「ふ~む……いいか。階段を上がってきたおまえは、その死体を見て、その匂いを嗅いで、自我を失うところだった。でも自我は失われなかった。たぶん君の娘がいたからだろうな。しかし私がそれをうながした途端、自我を失ったんだな。こいつらを払いのけて死体に食いついたよ。するとさっきまで死体にかぶりついていた屍食鬼が向かってきておまえを払いのけようとしたから、おまえは手で首をかっ切ったって訳だ。その後もしばらくおまえはこの死体から血をすすっていたよ。いいか、吸血鬼ってのは血の匂いや、人間の首筋を見かけると、血を吸わずにはいられなくなる。特に腹ペコの場合や、まだ日の浅いおまえみたいなやつはな。だからさっき自我を少しでも保っていたおまえはすごいと思ったよ」
その説明を聞いてオクタヴィアンは、自分の口周りが血でべっとりとし、着ている服も返り血で真っ赤に染まっているのに今気がついた。当然両手も血で真っ赤である。
これを見たオクタヴィアンは愕然とした。
自分もしっかり怪物になっていた……。
その間もヨアナはバロの首なし死体のお腹から血をすすり続けている。
あれ? バロはもう人間じゃないけど、その血を飲んでもいいのかなあ?
「テ、テスラさん……。ヨアナ、あの……何だっけ? 怪物の血を飲んでるんですけど……」
「ああ、そうだな。いい事を教えてやろう。人間が死んだ後、約一日ぐらい経過したぐらいなら血を飲んでも問題ないんだ。それが屍食鬼としてもな。そこの二人はまだ屍食鬼になって数時間しか経っていないんだろう。まだまだ新鮮だぞ」
その説明を聞いたオクタヴィアンは、目を丸くして、すぐにバロの死体にかぶりついている屍食鬼のアナの首筋にある、死ぬ前につけられたと思われる傷にかぶりついた。
ん~……何か微妙かも……。やっぱり新鮮さがないのかなあ~……。あんまり美味しくないやあ……。
そう思いながらもオクタヴィアンは血を吸い続けた。
身体が欲しているのか、ゴクゴク飲める。
しかも吸われているアナも、オクタヴィアンの事を全く気にせずバロの死体から血を飲んでいる。
そしてバロのお腹にはヨアナがくっついている。
この異様な光景はしばらく続いたが、オクタヴィアンがようやく血を飲むのをやめたところで終了した。
その頃にはヨアナもお腹ぎいっぱいになったのか、顔を血だらけにして満足そうにしていた。
それを見届けたテスラは、手を組んでニヤけていた。
「どうだ? 美味かったか?」
「ん~……さっきよりイマイチ……」
「あんまり美味しくなかった~」
オクタヴィアンとヨアナの答えにテスラはその場で笑い始めた。
これだけの地獄絵図なのに、妙にほんわかな空気が流れた。
しかし屍食鬼のアナはバロの死体から離れずにいまだに血をすすっていた。
ローラはヨアナが心配でしょうがなかった。
しかしそれと同時に、ローラに嫌われた気がして、どう接したらいいのか分からなくなっており、ローラはヨアナの行き先が分かってはいたが、中庭から奥に入る事が出来なかった。
「これが屍食鬼だ。よく見ておくといい」
階段の踊り場から二段下がった手すりのところでテスラは冷静に言った。
オクタヴィアンはその光景にショックを受けた。
数日前にいっしょに夕飯を食べて笑い合った使用人のバロとアナ。
しかし今はまるで違う。
目はほぼ白目、眉間にしわが集まり固まっているようだ。
そして口は裂けて歯は全てが犬歯になり、しかも一本一本が独自に動いている。
口が裂けた分だけ頬のシワが深く刻まれ、顔は恐ろしいほど醜く、かすかに二人の痕跡が残っているくらいの風貌になっていた。
その二人が倒れている死体に食らいついて血だらけで血を吸っているのである。
しかもその地獄絵図には娘のヨアナもしっかり加わっているのだ。
満面の笑顔で死体の太ももをかじっている。
ヨアナがその太ももをかじる度に血しぶきが少しずつ吹き、ヨアナの顔や踊り場や死体を真っ赤に染めていく。
それは二体の屍食鬼にも同じ事で、死体も屍食鬼もヨアナも全てが真っ赤に染まっていったのだった。
しかしオクタヴィアンが驚いたのはそこではなかった。
なんて楽しそうなんだ……そしてこの血の香り……たまらない! ボクも加わりたい……加わって、あの真っ赤な血を飲みたい……
そうなのだ。
オクタヴィアンもその残酷なショーに加わりたくなっていたのだ。
そんな気持ちが持ち上がった事に、オクタヴィアン自身も驚き、自分の気が違ってしまったのではないかと思った。
「おまえも加わりたいんだろ?」
すっかりオクタヴィアンを見透かしたテスラは笑みをこぼしながら言った。
オクタヴィアンは我慢の限界。
「ふむ。加わればいい」
このテスラの一言で、オクタヴィアンのタガが外れた。
本能のままに血を目指したオクタヴィアンは、二人の使用人を力任せに死体からどかし、娘のヨアナすらどかすとその死体に勢いよくかぶりついた。
その死体はまだほのかに暖かく、その暖かい血が自分の口から入り、喉を通っていく。まるで生き返るような快感!
なんて美味しいんだ! こんな美味しい飲み物が世の中にあったのか!
オクタヴィアンは夢中でその死体から血を飲み続けた。
しかし先に貪っていたのに、オクタヴィアンに邪魔をされた二人の屍食鬼化した使用人は、自分達もとばかり、また死体に向かい始めた。ヨアナだって黙っていない。
そしてオクタヴィアンを払いのけようと、ものすごい力でオクタヴィアンを死体から引き離そうとした。
しかし理性を失ったオクタヴィアンもそれを許さない。
怒りに任せたオクタヴィアンは左手を、使用人達の首目掛けて手刀のように振り上げた。
するとその手刀は、まるで鋭い日本刀のように、元使用人のバロの首をスパンと切り落とした。
その首は足元にゴロンと落ち、バロの胴体は首から血をビュービュー吹き出しながらその場で崩れ落ちた。
するとその崩れ落ちたバロにむかってもう一人の屍食鬼化したアナがかぶりつき、血を飲み始めた。
ヨアナもバロの胴体にかぶりつき始めた。
オクタヴィアンは何も考えずに、血を飲んでいる。
そこに肩をポンポンと叩かれた。
また邪魔をするのか!
オクタヴィアンはまた手刀を振り上げた。しかしその手は空を切り、その代わり顔に思いっきりビンタがとんだ。
オクタヴィアンは我に返った。
目の前には自分の目線までしゃがみ込んだテスラがいる。
「満足したか?」
オクタヴィアンは冷静になって周りを見た。
足元には屍食鬼化したが首をなくしたバロの身体に、血だらけでその首元にかぶりついている屍食鬼化したアナと、そのお腹にかぶりついている血まみれのヨアナ。
その横には狂った顔のバロの首がゴロンと転がっている。
そして自分が覆いかぶさっていたのは服はボロボロ、身体中噛みつき後で穴だらけになって生き絶えている食料管理のアウレルだった。
オクタヴィアンは段々と自分がなにをしたのか理解してきた。
ボクは今、アウレルの血を飲んでいたんだ。でも全く記憶が残っていない。このアウレルから香る血の匂いが美味しく飲んだ事だけは覚えている気はするが、正直踊り場に来た辺りからの記憶が本当に残っていないっっ。
そして足元に転がっている狂った顔のバロの首を見て、意味が分からなかった。
「何で一人、首が転がってるの? テスラさんがやったの?」
「いや……おまえがやった」
「ボ、ボクがやった? ウソでしょ?」
オクタヴィアンは全く分かっておらず、その状況も理解しているテスラは冷静に説明を始めた。
「ふ~む……いいか。階段を上がってきたおまえは、その死体を見て、その匂いを嗅いで、自我を失うところだった。でも自我は失われなかった。たぶん君の娘がいたからだろうな。しかし私がそれをうながした途端、自我を失ったんだな。こいつらを払いのけて死体に食いついたよ。するとさっきまで死体にかぶりついていた屍食鬼が向かってきておまえを払いのけようとしたから、おまえは手で首をかっ切ったって訳だ。その後もしばらくおまえはこの死体から血をすすっていたよ。いいか、吸血鬼ってのは血の匂いや、人間の首筋を見かけると、血を吸わずにはいられなくなる。特に腹ペコの場合や、まだ日の浅いおまえみたいなやつはな。だからさっき自我を少しでも保っていたおまえはすごいと思ったよ」
その説明を聞いてオクタヴィアンは、自分の口周りが血でべっとりとし、着ている服も返り血で真っ赤に染まっているのに今気がついた。当然両手も血で真っ赤である。
これを見たオクタヴィアンは愕然とした。
自分もしっかり怪物になっていた……。
その間もヨアナはバロの首なし死体のお腹から血をすすり続けている。
あれ? バロはもう人間じゃないけど、その血を飲んでもいいのかなあ?
「テ、テスラさん……。ヨアナ、あの……何だっけ? 怪物の血を飲んでるんですけど……」
「ああ、そうだな。いい事を教えてやろう。人間が死んだ後、約一日ぐらい経過したぐらいなら血を飲んでも問題ないんだ。それが屍食鬼としてもな。そこの二人はまだ屍食鬼になって数時間しか経っていないんだろう。まだまだ新鮮だぞ」
その説明を聞いたオクタヴィアンは、目を丸くして、すぐにバロの死体にかぶりついている屍食鬼のアナの首筋にある、死ぬ前につけられたと思われる傷にかぶりついた。
ん~……何か微妙かも……。やっぱり新鮮さがないのかなあ~……。あんまり美味しくないやあ……。
そう思いながらもオクタヴィアンは血を吸い続けた。
身体が欲しているのか、ゴクゴク飲める。
しかも吸われているアナも、オクタヴィアンの事を全く気にせずバロの死体から血を飲んでいる。
そしてバロのお腹にはヨアナがくっついている。
この異様な光景はしばらく続いたが、オクタヴィアンがようやく血を飲むのをやめたところで終了した。
その頃にはヨアナもお腹ぎいっぱいになったのか、顔を血だらけにして満足そうにしていた。
それを見届けたテスラは、手を組んでニヤけていた。
「どうだ? 美味かったか?」
「ん~……さっきよりイマイチ……」
「あんまり美味しくなかった~」
オクタヴィアンとヨアナの答えにテスラはその場で笑い始めた。
これだけの地獄絵図なのに、妙にほんわかな空気が流れた。
しかし屍食鬼のアナはバロの死体から離れずにいまだに血をすすっていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる