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第二章 吸血鬼初心者

第二十三話 空中での授業

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 飛ぶってなんだ? 飛べるの? どゆこと? でも思い返してみると、テスラもラドゥも足が浮いていた気がする……。ボクもあんな事ができるの?

 オクタヴィアンは、疑問でいっぱいだった。

 そんな事を考えながら小屋を出たオクタヴィアンだったが、外に出て、また夜の見え方が変わった事に気がついた。

 やはり夜なのに全てがはっきりと、お昼のように見えるのだ! 特に明るい訳でもないのに! 月明かりはあるものの、その月だってスゴく美しく細かい所まで見えるし、星々達だって、全てが美しい! 

 オンボロのテスラの小屋も、小屋の周りの無造作に置かれたよく分からない物や小屋の周りに勝手に生えている成長した草木も、道を挟んで更にオンボロな小さな小屋も、その入口でニコニコしているアンドレアスの顔も、全てしっかりクッキリ見える!

 その明かりに照らされた空の雲だって、細かい所までよく見える! これが吸血鬼って事なのか?

 オクタヴィアンはひどく感動して涙が出そうになっていた。

 そこにテスラが現れた。

「アンドレアス。おまえは留守番だ。今日はそこで寝ていなさい」

「へい! ダンナ~」

 アンドレアスはずっとニコニコしている。
 テスラはそれを確認すると、その場で空中に浮かび上がった。
 オクタヴィアンは当然驚いている。そして、こう思った。

 ラドゥが空中に浮かんだのは気のせいじゃなかったんだ! じゃあやっぱり彼も……

「さあ、オロロック。やってみなさい」

 テスラのその一言でオクタヴィアンは我に返った。

「え? 飛ぶって……それですか? ど、どうやるんですか?」
 
「いいかオロロック。あまり深く考えない。手を動かすように、足で歩くように、自然な気持ちでなんとなく飛ぶ事を意識するんだ。そうしたらできる!」

 ホ、ホントに~~~~?

 オクタヴィアンは疑い深く考えた。なので『自然に』という事が出来なくなってしまった。

「……………………」

 当然、オクタヴィアンは地面から離れない。

「……飛べないな。まあ最初は誰でもそうだけどな」

 テスラはこうなる事を見こして、地面に降りてきた。オクタヴィアンはどうしたらいいのか分からず戸惑っている。

「すいません……」

「ふむ。今は急いでいるんだろ? なら私が運ぶしかないな」

 テスラはそう言うと、オクタヴィアンのコートの襟、首の後ろを掴んだ。
 そして一気に満点の星空の中に舞い上がった。

「えええええええええええええええ~っっ!」

 オクタヴィアンは突然の事に驚きすぎて、言葉にならない。そんなオクタヴィアンにテスラは尋ねた。

「いいかオロロック! おまえにもこんな事は朝飯前なんだ! まあ明日、教えてやろう。それでおまえの屋敷はトゥルゴヴィシュテでいいんだな?」

「あ、え? あ、そ、そうです! トゥルゴヴィシュテの外れです」

 オクタヴィアンはまだ夜空に上がった恐怖でいっぱいだった。

「ふむ。では行くぞ!」

 そう言うと首都トゥルゴヴィシュテに向かってスゴい速さで飛び始めた。

「ぎょええええええええええええええええーっっ!」

 オクタヴィアンは片手でコートの襟を掴まれているだけの状態。
 見た目はまるで親ネコに首根っこを甘噛みされている子猫のようである。
 その不安定な感覚が恐怖でしかない。

 オクタヴィアンは夜目がきくようになったおかげで、むしろ地上からどれだけ高く、どれだけの速さで飛んでいるのか理解できるので、余計に恐怖が増した。

 そんなオクタヴィアンの事などテスラは全く気にせず話を続けた。

「いいか? おまえにいくつか話さないといけない事がある! おまえを見つけたあの夜、ラドゥが私の家を訪ねてきた。それでラドゥは私と簡単な協定を結んだ。それはお互いを干渉しないという物だ。つまりなオロロック! 今日これからラドゥに会えたとしても、私はおまえを助ける気はないという事だ!」

 オクタヴィアンはまだ恐怖でいっぱい。
 テスラの話などあまり頭に入ってこない。しかしラドゥの話をしているのは理解した。

「テ、テスラさん。ラドゥは、やっぱり吸血鬼なんですか?」

「そうだ。しかもヤツは誰かに噛まれたのではなく、アラビアの魔術師達が召喚した悪魔によって吸血鬼にされた。つまりオリジナルってヤツだ」

 オクタヴィアンには話の内容がサッパリ分からない。

「それ、何かスゴいんですか?」

「そうだな。間違いなく私達より魔力が強い。よって戦った場合、勝ち目はないと思っていい」

 え? そうなの? じゃあローラとヨアナはどうなっちゃうの?

 オクタヴィアンは恐怖であまり考えられないが、それでも二人の事を考えた。
 
 テスラは話を進める。

「それとだ。吸血鬼にはルールという物がある。いいか。

 一つ目、太陽を浴びると一気に燃えて死ぬ。

 二つ目、教会などの神の宿る場所や物に触れたり近づくとやはり燃える。聖水もダメだ。

 三つ目、木の杭で心臓を刺されると死ぬ。

 四つ目、首を切断されても死ぬ。

 五つ目、流れる水に抵抗が全くできない。

 六つ目、朝になったら生まれ故郷の土の入った棺桶で寝る事。そうしないと魔力が弱まるし、生命力もなくなっていく。まあ死んでいるんだけどな!

 七つ目、ニンニクの臭いが異常にキツく感じ、やはり身体が反応を示す。

 いいか。これだけ吸血鬼には弱点がある。気をつけるんだ!」

 弱点多くない?

 空中高く飛ぶ恐怖の中、オクタヴィアンはそのルールを聞いて、恐いながらも心の中でつぶやいた。

「今から言うは吸血鬼になっての利点だ。

 一つ目、空が飛べる。

 二つ目、知能の低い動物や理性の低い人間なら操れる。

 三つ目、コウモリやオオカミに変化できる。

 四つ目、人間よりはるかに速く動く事ができる。

 五つ目、霧のようなケムリのような気体にも変化できる。

 まあそんなトコだ。どうだ? 分かったか?」

 何か、ルール多いな……。

 オクタヴィアンはそう思った。

「あ、言い忘れたが、吸血鬼の食糧は血だ! それは人間ってじゃなくてもよい! しかし、もう人間の血を飲んだおまえは人間しか飲めんと思うがな」

「ええ? そうなんですか?」

 まだ人を襲って血を吸った事のないオクタヴィアンは、当然ピンと来ていない。

 そんなやり取りをしているうちに、二人はトゥルゴヴィシュテの近くまで飛んで来ていた。

 は、速いっっ……

 オクタヴィアンはこの飛行に全く慣れなかったが、その速さには驚かされた。
 何せ馬車で何時間も走ってきた距離をほんの数分で超えたのだ。

「ボクの家……ボクの家……、あ、あった! あそこの広い屋敷が……」

 オクタヴィアンは言葉が止まってしまった。

 自分の屋敷の上空に、ラドゥとローラ、ヨアナの三人がとどまっていたのである。
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