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第一章 オクタヴィアンはハゲを治したいだけ
第十八話 ラドゥ
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アンドレアスを片手で軽く持ち上げたラドゥは、じっくりとそこに横たわるローラと、少し離れた所で横になっているオクタヴィアンやヨアナを観察している。
ローラもオクタヴィアンも何が起こっているのかさっぱりわからない。
ただ、死んだと聞かされていたラドゥがそこにいるのだ。
焚き火の灯りに照らされたその顔はいつもと変わらない美しさ、いやむしろ少し若返り、美しさを増したようで、肩まである髪を風になびかせて、それがまた美しさを助長させている。
しかしその顔色は青白く、髪の色もなぜか真っ白で、生気を感じない。
そんなラドゥがいきなり、暗闇から湧いたかのように目の前に現れたのだ。
足音もたてずに……
「なんでローラがここにいるんだ? しかも襲われて……」
ラドゥはとても爽やかに、ローラに問いかけた。しかしローラは痺れていて声を出せない。
「は、離せっっ!」
つかまっているアンドレアスが足をジタバタさせた。
「んん?」
アンドレアスを手に持っていた事を思い出したかのようにラドゥはアンドレアスを見た。
「君……汚いねえ~」
ラドゥはそう言うと、馬車に向かってポイっとまるでゴミでも捨てるかのように投げた。
アンドレアスはスゴい勢いで飛んでいき、馬車のドア辺りに身体全体を打ちつけると、そのまま地面に落ちた。
オクタヴィアンとローラは驚いた。
ラドゥ? 本当にラドゥ? あんなに片手で人を持ち上げて、あんな簡単に投げれるのか?
しかし目の前にいるのは、紛れもなくラドゥである。
そしてよく見ると、その後ろに五人ほど、真っ黒い服の人間が立っている。
ラドゥはゆっくりとローラの目の前に腰を下ろすと、はだけた胸元を隠してやった。
ローラは先程の事で混乱している。
パチパチと焚き火の音だけが聞こえ、それに照らされたラドゥの顔は人とは思えないほど美しい。
「ローラ、大丈夫か?」
ラドゥは優しく声をかけた。その瞳は以前のように優しく妖しい。
ローラはその声で我に返った。しかし全身は痺れ、かなりの腹痛が襲ってきている。
しかしそんな事よりも……
「んん~!」
「? 何?」
必至にローラは倒れているヨアナを指差した。
ラドゥはヨアナに気がついた。ヨアナはピクリとも動かない。
「……ヨアナ? ヨアナか。懐かしい。しかしもう死んでいるようだが……」
そう言いながらもラドゥはヨアナを優しく抱きかかえた。
「ん~……まだ生きてはいるか……。これは時間の問題だなあ。何があった?」
しかしローラは話せない。オクタヴィアンももう声が出せない。
「そうか……話せないんだな……じゃあ、あの男に聞いてみるしかないか」
ラドゥは抱いているヨアナをローラの横に優しく置いた。
そして一瞬のうちに馬車の下で動けなくなっているアンドレアスの所へ移動した。
オクタヴィアンとローラにはラドゥが消えたようにしか見えなかった。
しかし、
「君、君、まだ生きてるか? 起きなさい」
と、そのラドゥの声に、やはりいる……とだけ認識した。
もう身体が言う事を聞かなくなり、馬車の下を見る余裕がないのだ。
ただローラの胸元にヨアナが帰ってきた事はよく分かる。
ローラは痺れた手で、ヨアナの頭を撫でた。しかしあまりにも反応がない。先程まで痙攣を小さく起こしていたが、それも止まっている。
もうダメかもしれない……
ローラの目から涙がこぼれた。それを見たオクタヴィアンも、同じく涙をこぼした。
「ねえねえ。君、死んだの? 死んでないよねえ? 話せるでしょ? ほら起こしてあげるから」
ラドゥは身体を強く打ちつけて気を失っているアンドレアスを無理矢理起こすと、馬車の車輪にもたれかけさせた。
そしてラドゥは目の前にしゃがんで話しかけた。
「ねえねえ」
アンドレアスは目の前のラドゥを目の当たりにして怯え始めた。
「オ、オ、オラをどうする気だ? オ、オラは何も知らねえだ! た、ただエリザベタ様に言われて……っっ」
「……ふ~ん……。エリザベタが……」
そうラドゥは言うと、ゆっくり立ち上がり、フウっとため息を一つついた。
「ローラ。そういう事らしい。あ、ローラは分かってたんだよね? ただこのままだとヨアナも君も死ぬけど、どうする? 僕なら新しい世界に案内できるけど」
ローラはラドゥが何を言っているのかイマイチ分からなかったが、ヨアナが元気になるのならと、頭を縦にふり、ラドゥに頼んだ。
「そうか。分かった」
ラドゥは優しく微笑むと、フワッとローラの元に空中を移動して近づき、まじまじとローラを見つめた。
「やはり君は美しい。今までいろんな女性を見てきたが、ローラ。君は特別だ。僕の妃になるのは君以外考えられない。いいね」
ローラはそのラドゥの言葉に涙した。
空中に浮いている事などもはやどうでもよかった。
ラドゥは再びヨアナをフワッと抱きあげ、様子をみた。
「もう死んでしまう。私達の娘として迎えるよ。いいね」
ローラはその言葉に涙を流しながら首を縦にふった。その顔は喜びで溢れている。
ラドゥはそれを見届けると、抱いていたヨアナの首元に口を優しくつけた。
そしてすぐに口を離し、ゆっくりと地面に置いた。
「もうヨアナはこれで僕の仲間だ。次は君だ。いいね」
そう言うと、ラドゥはローラを軽々と抱き上げた。
そして二人は目と目を見つめ合い、熱い口づけをした。
ローラは恍惚とした表情を浮かべたが、その口づけをしている口元から血を一筋流し始めた。
しかしローラは全くそれを気にしていない様子で恍惚の表情のままだった。
そして口づけが終わったラドゥの口にはローラの血がべっとりとついている。
その血をラドゥは拭う事もなく、ローラを見つめている。
「じゃあみんなで行こうか」
ラドゥは優しくささやいた。ローラはコクリとうなづいた。
すると後ろで待機していた五人の内の二人がフワッとヨアナの元へ来て、ヨアナを抱き抱えた。
そしてラドゥとローラ、ヨアナは夜空に飛び始めた。
オクタヴィアンはその様子を朦朧とした意識の中で見つめていた。
これは夢なのか? あれは神か? 悪魔か? どちらにしてもローラとヨアナを連れて行かないでくれ……ボクの大事なローラとヨアナを連れて行かないでくれ……
ラドゥはローラを抱き、黒い二人に大事に抱えられているヨアナを確認して、ゆっくりと暗闇に消えていこうとしていたが、そこでようやく取り残されていたオクタヴィアンに目を向けた。
「ああ、ごめん。じゃあそういう事で、そこのハゲちゃびんさん。後はがんばって」
オクタヴィアンは朦朧としていたが、
ハゲちゃびんはなくない?
と、腹がたってちょっと目が覚めた。
するとラドゥは何かに気づいたかのように顔を前に出してオクタヴィアンの顔をまじまじと見つめた。
「んん?……んん?……んんん~? ウソでしょっっ? 君、オクタヴィアン? ウソ! あんなに髪の毛あったのに!」
オクタヴィアンはめっちゃムカついた。
しかし痺れて言葉が出ない。
「そうか。君は不幸な男だな……なんなら君も来るかい? 君とは気兼ねなく話せるし、なんと言っても君といると僕は楽しいし、何なら髪の毛も元に戻ると思うよ」
そう言われたオクタヴィアンは訳が分からなかったが、「髪の毛が元に戻る」と言われて目がキラッキラに輝いた。
「さあ……君もおいで……」
ラドゥは残りの黒い三人に目で合図をすると、その三人は瞬時にオクタヴィアンの周りに集まった。
そしてオクタヴィアンを軽々と持ち上げ、空中を舞い始めた。
オクタヴィアンにはもう何が何だか分からない。しかし思った。
あれ? この人達、女だ……それに何か小声で話してる……
その時だった。
ラドゥ!
何をしている!
ここは私の土地だ!
ここでは何もしないと先程話したばかりではないか!
大きな声のような幻聴のような不思議な音が森中に出て鳴り響いた気がした。
「テスラ! ごめん! ちょっと成り行きでこうなっただけだ。もう行くよ」
ラドゥは暗闇に向かって叫ぶと、仕方なさそうにオクタヴィアンの顔を見た。
「オクタヴィアン、ごめん。君は仲間にはなれないみたいだ」
それを合図に、黒い三人はオクタヴィアンは地面にゆっくり戻した。
「じゃあね。行くよ」
するとラドゥと黒い五人は、ローラとヨアナを連れて目の前から消えた。
オクタヴィアンは一人、焚き火の横で仰向けになったまま、暗闇を見つめていた。
ローラもオクタヴィアンも何が起こっているのかさっぱりわからない。
ただ、死んだと聞かされていたラドゥがそこにいるのだ。
焚き火の灯りに照らされたその顔はいつもと変わらない美しさ、いやむしろ少し若返り、美しさを増したようで、肩まである髪を風になびかせて、それがまた美しさを助長させている。
しかしその顔色は青白く、髪の色もなぜか真っ白で、生気を感じない。
そんなラドゥがいきなり、暗闇から湧いたかのように目の前に現れたのだ。
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しかし目の前にいるのは、紛れもなくラドゥである。
そしてよく見ると、その後ろに五人ほど、真っ黒い服の人間が立っている。
ラドゥはゆっくりとローラの目の前に腰を下ろすと、はだけた胸元を隠してやった。
ローラは先程の事で混乱している。
パチパチと焚き火の音だけが聞こえ、それに照らされたラドゥの顔は人とは思えないほど美しい。
「ローラ、大丈夫か?」
ラドゥは優しく声をかけた。その瞳は以前のように優しく妖しい。
ローラはその声で我に返った。しかし全身は痺れ、かなりの腹痛が襲ってきている。
しかしそんな事よりも……
「んん~!」
「? 何?」
必至にローラは倒れているヨアナを指差した。
ラドゥはヨアナに気がついた。ヨアナはピクリとも動かない。
「……ヨアナ? ヨアナか。懐かしい。しかしもう死んでいるようだが……」
そう言いながらもラドゥはヨアナを優しく抱きかかえた。
「ん~……まだ生きてはいるか……。これは時間の問題だなあ。何があった?」
しかしローラは話せない。オクタヴィアンももう声が出せない。
「そうか……話せないんだな……じゃあ、あの男に聞いてみるしかないか」
ラドゥは抱いているヨアナをローラの横に優しく置いた。
そして一瞬のうちに馬車の下で動けなくなっているアンドレアスの所へ移動した。
オクタヴィアンとローラにはラドゥが消えたようにしか見えなかった。
しかし、
「君、君、まだ生きてるか? 起きなさい」
と、そのラドゥの声に、やはりいる……とだけ認識した。
もう身体が言う事を聞かなくなり、馬車の下を見る余裕がないのだ。
ただローラの胸元にヨアナが帰ってきた事はよく分かる。
ローラは痺れた手で、ヨアナの頭を撫でた。しかしあまりにも反応がない。先程まで痙攣を小さく起こしていたが、それも止まっている。
もうダメかもしれない……
ローラの目から涙がこぼれた。それを見たオクタヴィアンも、同じく涙をこぼした。
「ねえねえ。君、死んだの? 死んでないよねえ? 話せるでしょ? ほら起こしてあげるから」
ラドゥは身体を強く打ちつけて気を失っているアンドレアスを無理矢理起こすと、馬車の車輪にもたれかけさせた。
そしてラドゥは目の前にしゃがんで話しかけた。
「ねえねえ」
アンドレアスは目の前のラドゥを目の当たりにして怯え始めた。
「オ、オ、オラをどうする気だ? オ、オラは何も知らねえだ! た、ただエリザベタ様に言われて……っっ」
「……ふ~ん……。エリザベタが……」
そうラドゥは言うと、ゆっくり立ち上がり、フウっとため息を一つついた。
「ローラ。そういう事らしい。あ、ローラは分かってたんだよね? ただこのままだとヨアナも君も死ぬけど、どうする? 僕なら新しい世界に案内できるけど」
ローラはラドゥが何を言っているのかイマイチ分からなかったが、ヨアナが元気になるのならと、頭を縦にふり、ラドゥに頼んだ。
「そうか。分かった」
ラドゥは優しく微笑むと、フワッとローラの元に空中を移動して近づき、まじまじとローラを見つめた。
「やはり君は美しい。今までいろんな女性を見てきたが、ローラ。君は特別だ。僕の妃になるのは君以外考えられない。いいね」
ローラはそのラドゥの言葉に涙した。
空中に浮いている事などもはやどうでもよかった。
ラドゥは再びヨアナをフワッと抱きあげ、様子をみた。
「もう死んでしまう。私達の娘として迎えるよ。いいね」
ローラはその言葉に涙を流しながら首を縦にふった。その顔は喜びで溢れている。
ラドゥはそれを見届けると、抱いていたヨアナの首元に口を優しくつけた。
そしてすぐに口を離し、ゆっくりと地面に置いた。
「もうヨアナはこれで僕の仲間だ。次は君だ。いいね」
そう言うと、ラドゥはローラを軽々と抱き上げた。
そして二人は目と目を見つめ合い、熱い口づけをした。
ローラは恍惚とした表情を浮かべたが、その口づけをしている口元から血を一筋流し始めた。
しかしローラは全くそれを気にしていない様子で恍惚の表情のままだった。
そして口づけが終わったラドゥの口にはローラの血がべっとりとついている。
その血をラドゥは拭う事もなく、ローラを見つめている。
「じゃあみんなで行こうか」
ラドゥは優しくささやいた。ローラはコクリとうなづいた。
すると後ろで待機していた五人の内の二人がフワッとヨアナの元へ来て、ヨアナを抱き抱えた。
そしてラドゥとローラ、ヨアナは夜空に飛び始めた。
オクタヴィアンはその様子を朦朧とした意識の中で見つめていた。
これは夢なのか? あれは神か? 悪魔か? どちらにしてもローラとヨアナを連れて行かないでくれ……ボクの大事なローラとヨアナを連れて行かないでくれ……
ラドゥはローラを抱き、黒い二人に大事に抱えられているヨアナを確認して、ゆっくりと暗闇に消えていこうとしていたが、そこでようやく取り残されていたオクタヴィアンに目を向けた。
「ああ、ごめん。じゃあそういう事で、そこのハゲちゃびんさん。後はがんばって」
オクタヴィアンは朦朧としていたが、
ハゲちゃびんはなくない?
と、腹がたってちょっと目が覚めた。
するとラドゥは何かに気づいたかのように顔を前に出してオクタヴィアンの顔をまじまじと見つめた。
「んん?……んん?……んんん~? ウソでしょっっ? 君、オクタヴィアン? ウソ! あんなに髪の毛あったのに!」
オクタヴィアンはめっちゃムカついた。
しかし痺れて言葉が出ない。
「そうか。君は不幸な男だな……なんなら君も来るかい? 君とは気兼ねなく話せるし、なんと言っても君といると僕は楽しいし、何なら髪の毛も元に戻ると思うよ」
そう言われたオクタヴィアンは訳が分からなかったが、「髪の毛が元に戻る」と言われて目がキラッキラに輝いた。
「さあ……君もおいで……」
ラドゥは残りの黒い三人に目で合図をすると、その三人は瞬時にオクタヴィアンの周りに集まった。
そしてオクタヴィアンを軽々と持ち上げ、空中を舞い始めた。
オクタヴィアンにはもう何が何だか分からない。しかし思った。
あれ? この人達、女だ……それに何か小声で話してる……
その時だった。
ラドゥ!
何をしている!
ここは私の土地だ!
ここでは何もしないと先程話したばかりではないか!
大きな声のような幻聴のような不思議な音が森中に出て鳴り響いた気がした。
「テスラ! ごめん! ちょっと成り行きでこうなっただけだ。もう行くよ」
ラドゥは暗闇に向かって叫ぶと、仕方なさそうにオクタヴィアンの顔を見た。
「オクタヴィアン、ごめん。君は仲間にはなれないみたいだ」
それを合図に、黒い三人はオクタヴィアンは地面にゆっくり戻した。
「じゃあね。行くよ」
するとラドゥと黒い五人は、ローラとヨアナを連れて目の前から消えた。
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