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第一章 オクタヴィアンはハゲを治したいだけ

第十七話 狂気

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 真っ暗闇の森の中、馬車を止め焚き火をしながらオクタヴィアン、ローラ、アンドレアスは絶望の淵にいた。

 毛布に包まれたヨアナは、微かに息をしているものの、いつそれを止めてしまうか分からないような状況。
 そのヨアナを抱きながら、ローラは祈りを捧げている。

 そして時おりアンドレアスが作ってくれたスープを口に含むと、ヨアナに飲ませてあげたいという想いが脳裏をよぎり、涙が止まらなくなる。

 オクタヴィアンはそんなローラとヨアナを真横で見て、スープを飲みながら自問自答を繰り返すのみであった。

 そして本に書いてあった事を思い出していた。
 
 トリカブト……まさかそんな……誰かがワインに毒を入れたのか? 
 
 そんな時、オクタヴィアンは身体の異変に気がついた。

 手や足、いや全体が痺れていている。
 それにお腹に激痛が走り、心臓が飛び出すかのようにバグバクと波打ち始めたのだ。
 
 な、何だ? これは?

 オクタヴィアンはローラに助けを求めようとした。

 するとローラもヨアナを抱きかかえたまま、倒れ始めているところだった。
 まるで自分と同じように痙攣を起こしているように見える。
 ローラはヨアナを抱いたまま倒れ、オクタヴィアンもその横に倒れ込んだ。

 そしてローラの目は明らかにアンドレアスを睨んでいる。
 オクタヴィアンはその目線の先のアンドレアスに目を向けた。

 少し離れた所に座っているアンドレアスは何事もなく普通にスープを飲んでいる。
 そして二人の視線に気がつくと、スープを飲むのをやめて少し深いため息を出した。

「す、すまねえだ。オクタヴィアン様、ローラ、ヨアナ様。三人にはここで死んでもらう事になっただ」

 な、何が起きている? アンドレアスは何を言っている?

 オクタヴィアンには訳が分からなかった。

「ぼ、ぼまえ! な、が、なな何を言ってるぶ」

「す、すまねえだ。さっきも話した通り、ここで三人には死んでもらうだ。オラを責めんでくれよ」

 アンドレアスは、少し困ったような表情を浮かべながら、横になっている三人の元へやってきた。
 そして横になっているローラの顔をまじまじと見つめた。

「オ、オラ、前からお前が、だ、大好きだっただ。なのにお前はオラを受け入れようとしねえ。だから、今日、受け入れてもらうだ」

 そうアンドレアスは言うと、横に倒れかけているローラからヨアナを引きはがして、オクタヴィアンの逆側によけた。

 そしてローラの上にまたがると、ローラの顔を舐めるように見つめた。

 ローラは恐怖の表情を浮かべた。

 アンドレアスはヨダレを少し垂らすとローラの服に手をかけた。
 そしてグイっと力任せに服をやぶき、胸元をあらわにした。
 ローラはヨアナに目を向けたが、すぐにアンドレアスを睨みつけた。
 必至の抵抗をするが、痺れているのか声が出ないし、身体の自由もきかなくなっている。

「お前の毒、だいぶ回ったみたいだなあ。ちょっと多く入れちゃったかなあ?」

(今、毒って言ったのか? 毒?)

 オクタヴィアンはその言葉を聞き逃さなかった。

「ああ~、オクタヴィアン様。勘弁して下せえよお~。オラ、あんまり頭よくないから何にも話せねえだよ。ただ、アンタには死んでもらうだけだで~」

 それを聞いたオクタヴィアンは頭に血が上ったが、毒が回っているのか、全く声も出ないし身体中痙攣を起こしてまともに動く事が出来ない。
 アンドレアスは立ち上がり、オクタヴィアンの所まで来ると思いっきり蹴りを腹に食らわした。

「ぐえ!」

 オクタヴィアンは口からさっき食べた少しの肉やスープを胃液といっしょに吐き出した。

「あ~あ~、汚ねえなあ~。だからエリザベタ様から嫌われただなあ~」

 アンドレアスはよだれを垂らしながらニタニタと笑ってオクタヴィアンを見下ろした。

(今、エリザベタって言ったな。エリザベタなのか? ウソだろ?)

 オクタヴィアンは気が遠くなりそうになりながらそう思った。
 アンドレアスはそんなオクタヴィアンの周りをウロウロと歩いている。

「き、気分がいいなあ。こういう事するの~。も、もっと前からすればよかった~」

 アンドレアスはヒャヒャヒャと笑った。
 その声は不気味なほど静かな森の中に消えていった。

 くそ!

 オクタヴィアンはあまりの辛さに意識が朦朧としてきた。
 その横で仰向けになっているローラも、

「ん~!」

と、声にならない声で叫んだ。
 するとアンドレアスは、ローラに目標を戻した。
 ローラの上にまたがると、両手で胸をまさぐり始めたのである。

「ん~! ん~!」

 ローラは声に出せない怒りの声を出した。
 しかし全く身体が動かない。

「あ~、こりゃいいやあ~。ど、どうせもう死ぬんだ。最後に気持ちよくしてやるでなあ~。ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 アンドレアスの笑い声が更に森の中に響き渡る。

(アイツ……あんなヤツだったなんて……っっ)

 オクタヴィアンは朦朧とする意識の中で、目の前の光景を見ながら何も出来ない自分に、悔しいと同時に悲しみの感情が溢れてきた。

 アンドレアスはローラにまたがったまま、顔を近づけた。

「お、お前、なんてかわいいんだ」

 口から出るよだれがローラの顔の上に落ちる。
 ローラは必死で顔を振るって拭おうとするが、よだれは中々取れない。

 アンドレアスはそんなローラを見てまた、ヒャヒャヒャ! と、気味の悪い笑い声をあげた。

 そんな時だった。

「あれ? ローラ? ローラだよねえ?」

 あまりに場違いな、妙に軽い声が聞こえた。

「え? だ、誰?」

 アンドレアスはその声に驚いて起きあがろうしたが、その時、首根っこを思いっきり掴まれた。

「ガ!」

 その尋常ではない力の強さにアンドレアスは思わず声が出た。
 しかもその手はやたら大きいのか、片手で後ろから掴まれている感覚なのに、ほぼ首全体を掴んでおり、アンドレアスは頸動脈も絞められ、息もできない。

 アンドレアスはあまりの苦しさから両手を首に持っていき抵抗しようとしたが、それどころか子猫のように首根っこを掴まれたまま、軽く持ち上げられた。

 そしてアンドレアスはその大きな手の持ち主を見た。
 
 それは死んだと聞かされていたラドゥだった。
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