薄毛貴族とその家族、ドラキュラ以前とその弟、そして吸血鬼。〜ボクは国の行く末より、自分の髪の毛の方がよっぽどか心配!!〜

広田川ヒッチ

文字の大きさ
上 下
14 / 70
第一章 オクタヴィアンはハゲを治したいだけ

第十四話 急変

しおりを挟む
 オクタヴィアンは屋敷の客間でヴラド公から預かったアリスファ・テスラの本に再び目を通し始めた。

「手の痺れ……手の痺れ……」

 オクタヴィアンは父と自身の手の痺れに関しての手がかりがないか探し始めたのである。

 すると手の痺れに関する項目はなかったものの、いろんな箇所に【手の痺れ】という言葉を見つけた。そこには単純に体重を乗せた為の痺れから、どうやら首を左右に振ると痺れるといった症状など、さまざまな病気と思われる物が載っていた。オクタヴィアンはその中をいろいろと探し始めた。

 その頃、台所にきたローラとヨアナは、オクタヴィアンに頼まれたワインを見つけたところだった。
 調理台の上に、エリザベタが置いたままにしておいたと思われるワインボトルとワイングラスが二つ、おぼんに載っている。
 ローラはそれを見つけると、両手でそれを持った。

「さあ行きましょう」

「うん。ねえ、私もワイン、飲んでいい?」

「ダメですよ。前も言ったでしょ? ヨアナ様にはまだ早いです」

 ワインを飲んでみたいヨアナにローラは笑いながら拒否をした。そうして二人はまたオクタヴィアンのいる客間に戻って行った。

 さっそく客間に戻った二人は、難しい顔をして本を読んでいるオクタヴィアンの目の前にワイン一式をちょっと大げさにガシャンと置いた。

「パパ! ワイン!」
「お待ち同様でした」

「わあ! あ、ありがとうっっ。ぜんぜん気づかなかったよっっ」

 目を丸くしたオクタヴィアンの顔を見て、ヨアナとローラは笑みをこぼした。

「あ、私、ヨアナ様の勉強道具持ってきますので、ヨアナ様はここで待っててくださいね」

「え? ここで二人勉強するのかい?」

「うん」

 屈託のない笑みを返したヨアナに、オクタヴィアンもそれを了解した。

 そしてローラが部屋を出て行くと、オクタヴィアンはおもむろにワインに手を伸ばし、金属製のグラスに注いだ。
 ヨアナはそのワインをとても飲みたそうに見つめている。

「え? 飲みたいの? ヨアナ?」
 
「うん。飲みたい♪」
 
「え? でもなあ……エール(アルコール度数の低いビール。当時は水の代わりに飲料水として飲まれていたらしい)と違って、子供にはキツいからなあ。それに飲んだらローラに怒られちゃうよ?」
 
「でも飲みたい~~」

 ヨアナは机に両肘をつくと、足をバタバタさせて飲みたいアピールをした。そのヨアナのかわいさに、オクタヴィアンは参った。

「分かった。分かったよ。あげるあげる! でも少しだけだよ? それにローラには内緒だよ?」

 この言葉にヨアナは大感激した。

「うん! うん!」

 こうしてオクタヴィアンは少し困り顔でワインをグラスに少しだけ注いだ。ヨアナはイスに座る事も忘れて、ワイングラスに夢中である。

「いいかい? これはお客様用のグラスだから、落として凹ましちゃあダメだよ」

「うんうん♪」

 ヨアナは全くオクタヴィアンの話を聞いていない。既に両手でワイングラスを持ち、注がれた赤ワインをジッと見つめている。

「じゃあ、ホントにこれだけだよ。乾杯」
 
「かんぱ~~~い!」

 オクタヴィアンの音頭に合わせたヨアナはワイングラスを両手に持って、思いっきりグイっ! と、一口でグラスの中のワインを全部飲んでしまった。

「おいおいおいおいっっ! ヨアナっっ!」

 量が少ないとはいえ、一気にワインを飲んでしまったので、オクタヴィアンは当然慌ててヨアナを抱きかかえた。
 抱きかかえられたヨアナは、ニコっと笑った。
 しかし次の瞬間、胸を押さえ始め、苦しみだした。
 
「うう……」
 
「何? どうした?」
 
 いきなりの出来事にオクタヴィアンは何が起こっているのか分からない。
 
「い、痛い……」
 
 ヨアナはそう言うと、その場で血をブア! と吐き、そのまま床に倒れこんだ。

「ヨ、ヨアナ! ヨアナ! だ、誰か! 誰かーーーーーー!」

 オクタヴィアンは倒れたヨアナを抱え込み、大声で助けを求めた。
 その時、大慌てでローラが客間に入ってきた。

「ヨアナ様? ヨアナ様!」

 オクタヴィアンに抱えられたヨアナにローラは寄り添い両手を持ったり、顔を撫でたりしながら、ヨアナに声をかける。しかしヨアナの意識は既にない。

「ヨアナ様! ヨアナ様!」

 もう半狂乱で泣き始めたローラが、オクタヴィアンからヨアナを奪い、大きく抱きしめながら意識を戻そうと必死にヨアナの身体を揺らしている。
 その必死なローラにオクタヴィアンは少し驚いた。しかし驚いている場合ではない。
 
「ヨアナ! ヨアナ!」
 
 オクタヴィアンはローラといっしょに意識のないヨアナに声をかけた。

「そ、そうだ! ワインを飲んでからこんなことになったんだ! ワインを吐かせようっっ」

 その言葉を聞いたローラは、一心不乱にヨアナの口に指を突っ込んだ。
 するとヨアナがゲホ! ゲホ! と、血と共に赤ワインを吐き出した。そしてゼイゼイと苦しそうに息を始めた。

「ゔゔ……」
 
「よかった!」
 
 声を出したヨアナを確認したローラは思いっきりヨアナを抱きしめた。横にいるオクタヴィアンもとりあえず安堵した。
 しかし安心するのはまだ早い。なぜなら声こそ出したが、意識が戻っているとはとても言い難い状態なのだ。

「ヨ、ヨアナ!」

 オクタヴィアンはヨアナの手を取り声をかける。ローラも身体を揺すって意識を戻そうと必死だった。

 そこに真っ青な顔をしたエリザベタが目の前に現れた。

「な、何故?」

 それ以上は声にならないエリザベタ。オクタヴィアンはエリザベタに気がついた。

「ご、ごめん! 医者をよ、呼んできてくれ! 頼む!」

 この時、オクタヴィアンは舌がもつれる感じがした。
 しかしエリザベタはそれには気づく余裕もなく、動かず、ワナワナと震えたまま、全くオクタヴィアンの言葉など耳に入っていない。
 痺れを切らしたオクタヴィアンは、エリザベタの所まで駆け寄った。

「い、いいかい? ボクはは、医者を呼んでくるから、エリザベタはローラとヨアナを、み、み、みててくれ! なば!」

 エリザベタは挙動不審になった目でオクタヴィアンを見たが、声にならないのか言葉が出ない。しかし事情は飲み込めたようで、震えながらもヨアナとローラの元へ向かった。
 こうしてオクタヴィアンはアンドレアスを呼ぶと、町一番の医者の所へ行こうとした。
 しかし馬車に乗った時、ローラが駆け寄って来た。

「医者じゃ無理です! テスラ様の所へ行かないと!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 youtubeチャンネル名:heroher agency insta:herohero agency

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...