薄毛貴族とその家族、ドラキュラ以前とその弟、そして吸血鬼。〜ボクは国の行く末より、自分の髪の毛の方がよっぽどか心配!!〜

広田川ヒッチ

文字の大きさ
上 下
11 / 70
第一章 オクタヴィアンはハゲを治したいだけ

第十一話 ヴラド公の訪問 

しおりを挟む
 ヴラド公は屋敷に入る前、とても懐かしそうにそのベージュの石壁に囲まれた門をじっくりと眺めた。

「変わらないな」

 ヴラド公は少し嬉しそうな顔も見せて、屋敷の門をくぐった。しかし屋敷の雰囲気がやたら暗い事にヴラド公はすぐに気がついた。
 そこにオクタヴィアンがやってきた。

「よくぞいらっしゃいました。客間にご案内します」

「ふ。何回も足を運んだこの屋敷の客間。私が忘れたとでも思ったか?」

 ヴラド公は少し笑みをこぼしたが、オクタヴィアンはあまり表情が変わらない。ラドゥの事が頭に引っかかったままだったのだ。
 顔には出さないように気をつけてはいたが、ヴラド公はすぐに勘づいたようだった。
 しかしそこには触れず、ヴラド公は話し始めた。

「父君の事、昨日は言えなかったが、お悔やみ申し上げる。君の父君には大変お世話になった。本当に残念だ」

「あ、ありがとうございます」

 突然の申し出に、オクタヴィアンは少し混乱した。

「今日の本題に入る前にこれだけは言っておかないと思ってな。礼儀としてな」

「あ、な、なるほど……」

 少しオクタヴィアンの緊張が解けた。そして二人は屋敷の客間に向かいながら話を続けた。

「まだ詳しく聞いていないのだが、父君はどうして亡くなってしまったのだ?」

「あ、はい。父は……3ヶ月くらい前でした。舌の痺れを言い始めたんです。その後、手と足も痺れると言い始めまして……そして今度は腹を下すようになりました。その頃には立っているのも辛くなったようで、ほぼベッドから出られない状態になり、しばらくはその状態でした。でもある日ケイレンを起こし、その後、呼吸がすごく乱れて……。父はとても苦しみながら亡くなりました。医者に診せても何の病気かも分からずです」

 オクタヴィアンの説明に、ヴラド公は少し驚いた。

「そ、そんな壮絶な最期を遂げたのか……。オロロック……。鼻持ちならない男ではあったが……おっとこれは失礼。しかしそんな死に方をしなければならないような男とも思わなかった。それは君も辛かったであろう。しかし病名も分からない謎の病気とは……」

 そんな事を話している間に客間に着いた。
 ヴラド公は過去に何度も来たこの客間の奥のソファに腰掛けると、笑みを少しこぼした。

「……しかし、ここの使用人達も私に恨みがあるようだな」

 この態度にオクタヴィアンはゾッとした。
 実はヴラド公を客間に通す間の使用人達の目が、明らかに異様だったのを、オクタヴィアンも気づいてはいたのだ。
 
 その目つきは憎しみでいっぱいの、今にも襲いかかりそうなあまりにも殺気だったものだった。
 しかしそれがバレればその時点で処刑されるかもしれない。それは使用人達も当然分かっており、ヴラド公に顔は見られないように顔を下にしていた。
 オクタヴィアンは内心ヒヤヒヤしながらヴラド公に話をしつつ、客間までいっしょに歩いたのである。
 しかしそんな殺気は戦場に何度も向かっているヴラドにはお見通しだったのだ。

 その言葉には皮肉めいたものをオクタヴィアンは感じた。実際、使用人達はヴラドに恨みを持っていた。
 ジプシーで奴隷として生きている彼らは、ヴラド公が過去に行った国策【国の治安を向上させる】を名目に、身内を小屋ごと焼かれたり、犯罪者として捕まえられて、串刺しの刑に処されたりしている。
 使用人達の家族もそういった目に大なり小なりあっており、少なからずヴラドに恨みを持っていた。
 そして地主貴族の使用人達のほとんどは同じ目にあっているので、ヴラド公はどこに行っても恨まれた目で見られたのだった。

 オクタヴィアンはヴラド公の言葉は気にしないようにして、ヴラド公とは机を挟んで向かい側のイスに座るとあいさつもそこそこに、早速本題に入った。

「うむ。実はな、グリゴアをしばらく私の部隊として貸してほしいのだ。グリゴアには話したが、君は聞いていないか?」

 オクタヴィアンはそんな話は全く記憶になかった。昨日は酒を飲んでいたし、ラドゥの事で頭がいっぱいになり、他の事を聞く余裕もなかったのだ。
 グリゴアの方も屋敷中が動揺してしまい、話す余裕がなかった。

「そうか。聞いていないのなら最初から話そう。実はな、分かっていた事なのだが、前公のバサラブがオスマントルコの力を借りて、またこちらに向かって来るという話があってな。そこで急なのだが君の軍を借りたいのだ。今日はその話をしに来た」

 確かに急な話だ。昨日ワラキア国の公になってお祝いパーティーをしたのに、もう公の奪還をされる話をしている。
 しかし去年辺りからこのワラキア国は、公が何回も代わっていたので、オクタヴィアンは少し慣れっこになりつつあった。
 
 それにしても自分の私兵団を借りたいとはどういう事だろう?
 
 オクタヴィアンはやはり疑問に思った。何故なら昨日、宮廷の周りにはハンガリーとモルダヴィアの軍が大勢いたからだ。それについて質問をした。
 
「うむ、その事なんだが……実はな、ハンガリーの軍は帰還の命令が出て、今朝方ハンガリーへ戻っていったのだ。それにモルダヴィアの軍も二百人を残して国に戻っていったよ。双方、事情があるのだ。そんな訳でな、現在この国を守る軍はモルダヴィアの二百人だけという事になる。そこに私が追い出したバサラブはオスマントルコに泣きついてまた攻めに来たら……という事だ。そこで我が国を守る為に、君の屋敷だけではなく、昨日儀式に来た地主貴族達を回っているという訳だ。どうだろうか?」

「え……」

 その答えにオクタヴィアンは驚いた。
 
 そんな事ある? キリスト教国家の危機だと言ってヴラド公を持ち上げたハンガリーとモルダヴィアが軍を引き上げるってっっ! めちゃくちゃじゃないか! って言うか、我が国を守るって毎回公の首を替えるだけで、もう国なんて充分めちゃくちゃなのに!

 オクタヴィアンは一瞬の内にこう思ったが顔には出さなかった。そしてまた一つ疑問がわいた。

「ヴラド公。そんな状態で戦って、死ぬつもりなんですか? だってボクの家の軍隊を貸したところで、たいした人数にはなりませんよ?」

 ヴラド公はその質問を聞くと更に笑った。

「……オロロック……。君の下の名は……なんと言ったかな?」

「オクタヴィアン。オロロック・オクタヴィアンです」

「オクタヴィアン……良い名だな。それではオクタヴィアン。私の事をよく知ってほしい」

 そうヴラド公は言うと席を立ち、オクタヴィアンの目の前に来ると、オクタヴィアンの両肩に両手をガッチリと掴んで顔を近づけた。そして目をしっかりと見つめた。その顔は至って真剣である。

「私はまず、死ぬ気はない。次に借りた兵士……グリゴアや他の者も無駄死にさせる気などない。そして、私はワラキア公国を、キリスト教国家のワラキア公国を背負って生きなければならない。それには全力を尽くして国を守る策を練るし、戦う。そして国家もよくしていきたいと思っている。確かに以前の政策で、国内の地主貴族達や犯罪者達をことごとく処刑した。それもこのワラキアを守るためだ。ここで踏みとどまらないと、ワラキアは消滅してしまうのだ」

 ヴラド公のその言葉に嘘は感じられなかった。その真っ直ぐな嘘のない瞳を、オクタヴィアンもじっくりと見つめた。そしてヴラド公の並大抵ではない覚悟を感じた気がした。
 そんなヴラド公だからこそ、この質問をしなければならないと、オクタヴィアンは思った。

「それでラドゥ様も殺してしまったのですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...