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第一章 オクタヴィアンはハゲを治したいだけ

第一話 なぜ抜ける!

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「や、やはり抜けている!」

 オクタヴィアンは鏡の前で愕然としていた。

 肩まであった自慢の黒髪が、最近少しずつだが、間違いなく抜けている!
 それはある日の朝、目が覚めて身体を起こした時に、ふと枕を見て気がついたのだ!
 
 その枕にはおびただしい量の髪の毛が、これでもかとくっついている!
 
 最初はこの枕に原因があるのかと思い、速攻で枕を変えた。
 しかし次の日も、そのまた次の日も、新しいその枕にはびっちりと髪の毛がくっついていたのだ!

 その日から毎日鏡を見るたびに、髪の毛が抜けていないかビクビクしながら自分の生え際をチェックしてしまう。

 その恐怖でそのうちどうかなってしまいそうだ!

 しかしそれで分かってきた事は、明らかにここ一ヶ月の間に額のMの字がくっきりはっきりしてきたという事だ。
 以前ならそこまでMの字がくっきりとは入っていなかった。
 しかし今の頭は額全体が広くなりながら、Mの字を綺麗に描いている。
 
 このまま放っておけば更にMの字がくっきりはっきりして、いずれ両角のトンガリが脳天でくっつくんじゃないのか?
 
 こ、怖い!
 
 いやいや、今はそんな事を考えている場合ではない!

 今日は先日バサラブ公(王の事)を追放したヴラド三世を新たに公に迎えるための公室評議会に参加しないといけないのだ。

 しかしこの抜けた髪の毛はどうしたものか!
 ボクの自慢の肩まである黒髪が、これでは痛々しく見える一方じゃないか!
 パーティーに出る度に皆に自慢していたこの髪が……このまま議会に参加したらきっと笑われる!
 このままではワラキア公国一の笑われ者になってしまう!
 それはホントに阻止したい!

 いやだから、今は髪の毛の事を考えている暇などないんだってば!
 さっさと服を着替えて議会に向かわねば!

 しかしこの自慢の髪の毛を今日はどうやって決めていけばいいのだろう?
 今まではその魅力的な髪の毛をただ自然になびかせるだけでよかったのに、今日そんな事をしてしまえば、その薄くなった頭皮が丸見えになって、絶対に笑われる事間違いなしだ!

 ど、どうしたらこのボクの魅力を失わずにこの髪の毛を皆の前に出せばいいのだ?
 しかし無理に髪の毛をMの字に持ってきて、その隙間から肌色が見えたら、むしろハゲを助長している格好になって、それこそ笑い者だ!

 くそ~~~~~~~~~~~っっ!

 そもそも何であんな公室評議会に出なきゃいけないんだよ!
 あれは父が入っていたのであって、ボクが入った訳じゃないじゃないか!
 くそ~、父のバカ~~~~~~~~~っっ!
 死んじゃった人を恨むのはよくないけど、腹立つわ~~~~~~~~~~~~~っっ!
 

「パパ~。いつまで鏡見てるの~?」

「そうですよっオクタヴィアン様っっ。ヨアナ様の部屋で何やってるんですか?」

「は!」

 鏡を見入って考えこんでいたオクタヴィアンは我に返った。

 振り向くと今年五歳になる愛娘のヨアナがイスに座り机に向かい、乳母のローラといっしょに勉強をしていたようだが、明らかにオクタヴィアンの顔を見て呆れているのが分かる。

 そもそもここはヨアナの部屋である。
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