吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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離れた吾作とおサエ

三途の川で

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 吾作は気がつくと、真っ暗な闇の中にいた。

「あれ~……わし、何してたっけ?」

 吾作はイマイチ自分がなぜこの場所にいるのか、分かっていない。それでもなぜか気分はとても晴れやかだった。吾作は特に何も考えず、どことなく歩き始めると、いつしかその闇はすぐに晴れ、あたり一面真っ白な空間に出た。
 その空間の先には小さな黄色い花が、無数に咲いているのが見え、その花のところには川が流れているのが分かった。

(あ、あれ? わしって……そういや死んだんじゃないっけ? ほいじゃあれが三途の川ってやつかん?)

 吾作はようやく思い出した。そしてその川に近づくと、そこに人影が三つあるのに気が付いた。

(誰?)

 吾作はその三人に恐る恐る近づいて行った。
 するとそれはオロロックとその嫁、そしておサエであった。しかもおサエは若い頃の姿に戻っている。吾作はとっても驚いて、

「お、おサエちゃん! おろろ~? 後、嫁さんーっっ! それに何かおサエちゃん、若い!」

と、見たまんまの事を口ばしった。三人はその吾作の言い方に思わず笑い出し、おサエが、

「いいだら♪ 私、若返ったに♪」

と、吾作に若返った姿をニコニコしながら見せた後、

「私ねえ、吾作がすぐ来るなんて思っとらんかったもんで、渡し舟に乗るトコだっただよ!」

と、言った。するとオロロックが話してきた。

「ワタシが~、スグに吾作サンが来ルヨ~! と、おサエさんに~、ツタエましたね~。スルトおサエさんは~、ワタシタチと、マッテました~♪♪」

「で、でも何で? 何で三人がここにおる?」

 まだ混乱中の吾作が尋ねると、オロロックの嫁がニコニコしながら答えてくれた。

「私達夫婦はねえ、人を何百人と殺してきたから、ここで舟着場の案内人をさせらてるのよ♪」

 その話を聞いて、吾作はビビり始めた。

「え? わ、わしは? わしは化け物だけど? どうなん?」

「吾作、アナタは~、トテモ、スバラシイ! ヒトを~、ヒトリも殺サナカッタデスね~! ソレにアナタは~、上手に育ッタ土地を離レテ、吸血鬼の本能をオサエテ、生キマシタねえ~。ワタシもアナタミタイに生キレバ、ヨカッタネエ~! ナノデ、アナタはオサエと、イッショに天国イキマース!」

 相変わらず片言のオロロックは教えてくれた。

「ほ、ほんと?」

 吾作は思わず涙ぐんで、おサエに抱きついた。
 おサエもいっしょに天国に行けるのが嬉しくて、しばらく抱き合った。

「アナタは、ホントにスバラシイ!」

 そんな二人を見ながらオロロックは言った。そこにオロロックの嫁が尋ねた。

「あ、吾作? あなたのその格好。まだ吸血鬼の姿してるけど、人の姿になれるのよ? 人間の姿に戻ったら?」

「へ?」

 吾作はその場で固まったが、ちょっと考えておサエに相談した。

「おサエちゃん。わし、この姿、嫌いじゃないじゃんねえ。おサエちゃんがよければこの姿でおりたいんだけど」

「ん。好きにしりん。私もその格好、嫌いじゃないに。見慣れとるし、人間の頃の吾作より格好ええよ♪」

「ホント? かっこええ?」

 この言葉に吾作は有頂天になって喜んだ。

「あ、言い過ぎた」

 おサエは軽く訂正した。

「イイ夫婦デスネ~♪」
「ん~♪ お似合い♪♪」

 そんな二人を見ながらオロロック夫妻は笑った。そんなやりとりをしているうちにどうやら時間になったようで、

「ソロソロ舟がツキマスね~。コチラへドウゾ~♪♪」

 オロロックが吾作とおサエを舟着場へ案内した。すると、ゆっくりと小さな十人乗れるかどうかぐらいの舟がこちらへ向かってきて、舟着場へ到着した。

「デハ、ワタシタチはココマデです。吾作、ムコウでもシアワセにオクラシクダサイ!」

「おろろ~もお元気で! 奥さんと仲良くね~!」

 吾作も元気よく別れのあいさつをした。そして舟は漕ぎ始め、舟着場から離れていった。
 吾作とおサエは、オロロック夫妻が手をふって見送ってくれるのを見えなくなるまで、ありがとう! と、言いながら手をふり返した。
 そしてどんどん光が近づいてきた。その光の光景に二人は心奪われた。

「うわあ~! 何かどえらいトコだなあ」

「きれい~~!」

 こんなキレイな場所なら……と、おサエは思った。

「村のみんなに会えるといいねえ」

「きっとみんな楽しくやっとるだらあ。権兵衛も彦ニイも庄屋さんも与平もお義姉さんもお義母さんも……早よ会いたいわあ~♪」

「ほういやさっきおろろ~が、《きゅうけつき》って言っとったけど、吾作分かる?」

「ほんなん分からんて~♪」

 こんな他愛のない話をしながら吾作とおサエを乗せた舟は、眩い光の中へ消えていった。
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