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離れた吾作とおサエ
最期の日
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その日の夜、ふもとの村の人達が来てくれて、みんなでおサエを見守っていたが、吾作はおサエと二人きりになりたいからと、全員に帰ってもらった。
吾作はもう話す事も出来なくなった寝たきりのおサエの枕元で正座して、静かにおサエの顔を見つめていた。そしておサエの手を握りしめていた。
おサエは、まだ意識があるのかないのかハッキリしないくらいフワフワした状態で、しかし何かを言いたげな顔をして、口を少しパクパクさせている。吾作はそのおサエの顔を見ながら、
「うん。うん」
と、つぶやき、おサエに返事を返していた。そんな時間がどのくらい過ぎたか分からないが、そのうちおサエの呼吸が急に荒くなった。
「おサエちゃんっっ」
吾作は呼びかけると、おサエは何か少し優しい微笑みを返すと、静かに息を引き取った。
吾作は、その動かなくなったおサエをわなわなと震える両腕で抱きかかえると、静かにしかし身体全体を震わせて涙を流した。
おサエの身体を揺すって揺すって、もう戻らないと分かっているのに揺すった。いろんな思い出が頭の中を駆け巡り、吾作は怒号を響き渡らせて泣いた。
そして一度出した怒号の泣き声は止まる事がなく、そんな時間が明け方まで続いた。
おサエを抱きかかえた吾作は、廃寺の入り口の階段に座り、明るくなる空を見ながら、
「わしもいっしょにいくでな」
そう一言つぶやいた。そしてしばらくすると日が登り始め……
「ああ、太陽なんて何十年ぶりに見るやあ」
吾作がつぶやいたと同時に、身体中から巨大な炎が噴き上がり、吾作とおサエを包み込み、その周りの木々も燃やし始め、吾作とおサエの住んでいた廃寺も全て燃やし尽くし、巨大な煙が明け方の空高く登っていった。
村の人々がその空高く上がる煙に気づいたのはそんなに遅くはなかった。
その高い煙を見た村人達は、山火事になる! と、大慌てしたが、しかし不思議なことに廃寺の辺りだけが燃えただけで、山全体が燃える事にはならなかった。
そこで鎮火した後、村の人達がいざ廃寺へ行ってみると、大黒柱さえも燃え尽きてしまっているほど、すべてが燃えていた。
しかし廃寺の敷地の外の草や木々が燃えた形跡がなく、村人達はとても不思議がった。
それに二人の遺体も全く分からず、村人達は困惑した。
「きっと二人は仲良く天国へ上がったんだ」
村人達はそういう事でかたをつけた。
その後、二人が天国で安らかに過ごす事を願い、廃寺の跡地に御堂を立て、化け物だけど心優しかった吾作と、その妻のおサエを祀り、村人達はいつまでも忘れないようにした。
吾作はもう話す事も出来なくなった寝たきりのおサエの枕元で正座して、静かにおサエの顔を見つめていた。そしておサエの手を握りしめていた。
おサエは、まだ意識があるのかないのかハッキリしないくらいフワフワした状態で、しかし何かを言いたげな顔をして、口を少しパクパクさせている。吾作はそのおサエの顔を見ながら、
「うん。うん」
と、つぶやき、おサエに返事を返していた。そんな時間がどのくらい過ぎたか分からないが、そのうちおサエの呼吸が急に荒くなった。
「おサエちゃんっっ」
吾作は呼びかけると、おサエは何か少し優しい微笑みを返すと、静かに息を引き取った。
吾作は、その動かなくなったおサエをわなわなと震える両腕で抱きかかえると、静かにしかし身体全体を震わせて涙を流した。
おサエの身体を揺すって揺すって、もう戻らないと分かっているのに揺すった。いろんな思い出が頭の中を駆け巡り、吾作は怒号を響き渡らせて泣いた。
そして一度出した怒号の泣き声は止まる事がなく、そんな時間が明け方まで続いた。
おサエを抱きかかえた吾作は、廃寺の入り口の階段に座り、明るくなる空を見ながら、
「わしもいっしょにいくでな」
そう一言つぶやいた。そしてしばらくすると日が登り始め……
「ああ、太陽なんて何十年ぶりに見るやあ」
吾作がつぶやいたと同時に、身体中から巨大な炎が噴き上がり、吾作とおサエを包み込み、その周りの木々も燃やし始め、吾作とおサエの住んでいた廃寺も全て燃やし尽くし、巨大な煙が明け方の空高く登っていった。
村の人々がその空高く上がる煙に気づいたのはそんなに遅くはなかった。
その高い煙を見た村人達は、山火事になる! と、大慌てしたが、しかし不思議なことに廃寺の辺りだけが燃えただけで、山全体が燃える事にはならなかった。
そこで鎮火した後、村の人達がいざ廃寺へ行ってみると、大黒柱さえも燃え尽きてしまっているほど、すべてが燃えていた。
しかし廃寺の敷地の外の草や木々が燃えた形跡がなく、村人達はとても不思議がった。
それに二人の遺体も全く分からず、村人達は困惑した。
「きっと二人は仲良く天国へ上がったんだ」
村人達はそういう事でかたをつけた。
その後、二人が天国で安らかに過ごす事を願い、廃寺の跡地に御堂を立て、化け物だけど心優しかった吾作と、その妻のおサエを祀り、村人達はいつまでも忘れないようにした。
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