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離れた吾作とおサエ
家を見たい
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おサエが寝たきり生活になり、吾作は昼も夜も関係なく看病をした。
しかしさすがに日中は外に出れなかったので、看病に限界があった。もちろんふもとの村のおサエの友達やその子供達が顔を出してくれてはいたが、やはり限界があった。そこで吾作は、
「ふもとの村で見てもらおう」
と、言ったが、
「ここから離れたくない」
と、おサエは断固拒否した。そんな日々が続いたある日、動けなくなったおサエが吾作に、
「……家、家に行きたい……」
と、言ってきた。
「家? 家ってわしらの家かん?」
吾作は尋ねると、コクリとおサエはうなづいた。
「でも今は与平……おタケの子供達が住んどると思うで、行ったら迷惑じゃないかやあ……」
吾作がそう言うと、おサエは外からだけでもいいから見たいと言う。
吾作は、分かったと言って、おサエが寒くならないように布団におサエを包んで廃寺から家に目指して飛び始めた。
おサエは、久しぶりに夜空を吾作と飛ぶ事に喜びを感じ、気持ちよさそうな顔をしている。
吾作は、飛びたかったのかな? と、思いながら家までの飛行をゆっくり行った。
しばらくの空中散歩を終えて、吾作とおサエは家の前にやってきた。
しばらくぶりの我が家。しかしそこはもう自分達の家ではない。二人は何か複雑な気分で自分達の家をしばらく見つめていた。
家の中からは、家族の笑い声が聞こえてきていた。吾作は、
「……まあ、行くかん?」
抱きかかえているおサエに聞いた。
「うん。……海も見たい」
「あそこ? 久しぶりだねえ。行くかん♪」
吾作がにこやかに話すと、おサエはまたコクリとうなづいた。
吾作は、おサエと若い頃、いつも時間をかけて歩いていった海岸まで飛んでいった。
その海岸に来るのは二人とも久しぶりで、とても心が躍ったが、夜の海岸は真っ暗で、おサエにはほぼ何も見えなかった。
おサエは少し残念がったが、顔に感じる潮風を嗅ぐと、
「あ~、海だねえ~……」
あの海岸に来た事が実感できた。
この海岸に、あの《おろろ~》が漂着して、自分が化け物になった。吾作はその時の事を、昨日のように思い出した。
あの時、《おろろ~》に噛まれてなかったら、化け物にならずにあの家でおサエといっしょに子供もできて、きっと幸せだっただろう……。
吾作はこの海岸に来て、そんな事を思った。そして、おサエには本当に申し訳ない気持ちになり、いたたまれなくなった。
一方で、おサエも、納得して生きてきた人生だったけど、あんな家庭が本当は持てたのかもしれない。と、思うと、複雑な気分になった。
今はもう、沈没船の姿は完全になくなり、ただの小さな海岸でしかない。
吾作が化け物になってから建てられたお堂は今もあるが、誰も管理していないのか、潮にやられてしまったのか、すでに朽ちてしまいそうな有様だった。
二人は静かに砂浜に座ると、しばらくそこで真っ暗な海を見つめていた。そして、
「まあそろそろ行くかん?」
と、吾作がおサエに聞くと、おサエは、コクリとうなずいた。
こうしてゆっくり飛行しながら吾作とおサエは、今の住まいの廃寺へ帰っていった。
そしてそれから数日後、おサエの身体はどんどん弱っていき、おサエにもお迎えが来る日がやってきた。
しかしさすがに日中は外に出れなかったので、看病に限界があった。もちろんふもとの村のおサエの友達やその子供達が顔を出してくれてはいたが、やはり限界があった。そこで吾作は、
「ふもとの村で見てもらおう」
と、言ったが、
「ここから離れたくない」
と、おサエは断固拒否した。そんな日々が続いたある日、動けなくなったおサエが吾作に、
「……家、家に行きたい……」
と、言ってきた。
「家? 家ってわしらの家かん?」
吾作は尋ねると、コクリとおサエはうなづいた。
「でも今は与平……おタケの子供達が住んどると思うで、行ったら迷惑じゃないかやあ……」
吾作がそう言うと、おサエは外からだけでもいいから見たいと言う。
吾作は、分かったと言って、おサエが寒くならないように布団におサエを包んで廃寺から家に目指して飛び始めた。
おサエは、久しぶりに夜空を吾作と飛ぶ事に喜びを感じ、気持ちよさそうな顔をしている。
吾作は、飛びたかったのかな? と、思いながら家までの飛行をゆっくり行った。
しばらくの空中散歩を終えて、吾作とおサエは家の前にやってきた。
しばらくぶりの我が家。しかしそこはもう自分達の家ではない。二人は何か複雑な気分で自分達の家をしばらく見つめていた。
家の中からは、家族の笑い声が聞こえてきていた。吾作は、
「……まあ、行くかん?」
抱きかかえているおサエに聞いた。
「うん。……海も見たい」
「あそこ? 久しぶりだねえ。行くかん♪」
吾作がにこやかに話すと、おサエはまたコクリとうなづいた。
吾作は、おサエと若い頃、いつも時間をかけて歩いていった海岸まで飛んでいった。
その海岸に来るのは二人とも久しぶりで、とても心が躍ったが、夜の海岸は真っ暗で、おサエにはほぼ何も見えなかった。
おサエは少し残念がったが、顔に感じる潮風を嗅ぐと、
「あ~、海だねえ~……」
あの海岸に来た事が実感できた。
この海岸に、あの《おろろ~》が漂着して、自分が化け物になった。吾作はその時の事を、昨日のように思い出した。
あの時、《おろろ~》に噛まれてなかったら、化け物にならずにあの家でおサエといっしょに子供もできて、きっと幸せだっただろう……。
吾作はこの海岸に来て、そんな事を思った。そして、おサエには本当に申し訳ない気持ちになり、いたたまれなくなった。
一方で、おサエも、納得して生きてきた人生だったけど、あんな家庭が本当は持てたのかもしれない。と、思うと、複雑な気分になった。
今はもう、沈没船の姿は完全になくなり、ただの小さな海岸でしかない。
吾作が化け物になってから建てられたお堂は今もあるが、誰も管理していないのか、潮にやられてしまったのか、すでに朽ちてしまいそうな有様だった。
二人は静かに砂浜に座ると、しばらくそこで真っ暗な海を見つめていた。そして、
「まあそろそろ行くかん?」
と、吾作がおサエに聞くと、おサエは、コクリとうなずいた。
こうしてゆっくり飛行しながら吾作とおサエは、今の住まいの廃寺へ帰っていった。
そしてそれから数日後、おサエの身体はどんどん弱っていき、おサエにもお迎えが来る日がやってきた。
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