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離れた吾作とおサエ
吾作、権兵衛と彦ニイに再会する
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吾作の住む廃寺に訪れた権兵衛と彦ニイだったが、そこにおサエまでいる事に驚いた。
「な、おサエ! 何でここにおる? 与平のトコに置いてきたのに」
「か、体は大丈夫なんか? みんなどえらい心配しただよっっ」
彦ニイと権兵衛は心配そうにおサエに言った。
「うん。吾作に会えたらなんか元気戻ってきた。ごめんね」
おサエはあっけらかんと話した。
「ほ、ほか。ほいじゃよかったけど……」
権兵衛は目線を吾作に戻した。吾作は、
「だから何で来たん?」
と、厳しい目つきで二人を睨みつけている。
「ご、吾作。話は全部聞いた。その、わしらが悪かった。だから睨みつけるのやめてくれんか?」
彦ニイは謝った。権兵衛も、
「本当に悪かった」
と、平謝りした。しかし吾作は、
「わしはまああの村に帰る気はないで、まあ帰りん」
そう言うと、戸をピシャ! と、閉めた。しかしまた戸が開いて、
「悪かったって謝っとるじゃんか! そんなに無下にすんなや!」
彦ニイがキレ気味に話してきた。権兵衛も、
「本当に吾作が怒るのは重々承知で来たんだて。一度、中へ入れてくれんか?」
吾作を説得するような口ぶりで話してきた。吾作は、
「やだ!」
と、言ってまた戸をピシャ! と、閉めた。しかしまた戸を開けて……と、言うくだりを三回ほど繰り返した結果、吾作がおれて権兵衛と彦ニイは本堂の中に入る事ができた。
中に入った彦ニイと権兵衛は、改めて、
「すまんかった」
と、吾作とおサエの前で土下座をすると、何でここにおサエが来ているのか聞いた。
「ほいじゃ今頃、村は大騒ぎになっとらんかやあ?」
「ほだよなあ? 下手したら代官まで現れるに」
この二人の意見に吾作とおサエは顔を見合わせると、
「そりゃ面倒くさいで、わしら全員で一回村に戻るかん」
「え? ヤだよ。まあ帰りたくないわ」
吾作の意見におサエは反対。
「いやいや、一回お義母さんにあって話そまい。こっちに住むのはわしは構わんだよ。それにおサエちゃん、せっかく少し元気戻っただもんで、ご飯も食べんといかんだら。ここ、何もないに」
なんとか吾作はおサエを説得し、おサエは渋々了承した。しかしそれを聞いていた権兵衛が素直な意見を言った。
「な、なあ、おサエちゃん。ここに住む気なん? ここ、住めんだら?」
「ほんなん分かっとるもんで、これからここをどうしようって、考えとったんだて!」
おサエのちょっと半ギレ気味の返事に、こわっと思った権兵衛だったが、そこは何も言わず吾作の言う通り、村へ帰る事にした。
帰ると言ってもみんな一緒に空を飛ぶ事も出来ないので、最初におサエ、次に権兵衛、彦ニイと、一人ずつ村へ運ぶ事にした。
最初におサエが自分の家まで運ばれると、おサエは慌てて厠へ走っていった。
(あ~……我慢してたのか……ごめんっっ)
吾作は心の中で謝ると、すぐに廃寺に戻り、権兵衛を連れて飛び立った。すると高い所が苦手な権兵衛は、
「ひょえええええええ~!」
と、当然大声で叫んだ。
「ほんなんで叫ぶなやっっ」
吾作は笑いながら権兵衛に言ったが、権兵衛にその言葉を聞く余裕などない。
「こ、恐い~~~~~!」
権兵衛は道中ひたすら叫んでいた。そんな叫び声を本堂で聞いていた彦ニイは、
「どえらい恐そうじゃんか……」
と、一言もらした。
そうして吾作は泣き叫ぶ権兵衛を与平が住む庄屋さんの屋敷の前に下ろすと、権兵衛はその場で座り込んでしまった。
そんな権兵衛を見ながら吾作は、
「何かわし、ここに入れんかったもんで、庄屋さんに事情話しといて」
と、伝言を残して廃寺に向かって飛んでいった。残された権兵衛は、完全に涙目になり、身体中が恐怖で震えていた。
最後に一人廃寺に残された彦ニイは、その殺風景な本堂の中や、寺の境内を提灯で照らしながら、おサエがここに住めるのかを心配していた。そこに吾作が帰ってきた。
「ほいじゃ彦ニイ。さっさと帰るに」
「なあ。ホントにここにおサエを住ますつもりなん? ほりゃ今日の感じ見とったらいいかもしれんけど……」
彦ニイは部屋の中を眺めながらあらためて吾作に訪ねた。
「う~ん。まあゆくゆくはそうなるかもなあ。ほんでもこのままじゃ無理だよ。それは分かっとるよ。おサエちゃんも」
吾作はそう言うと、彦ニイをさっさと担いで、闇夜に飛び立った。すると彦ニイも大絶叫した。
「だ、だはあああああああ~!」
「ほんなん慣れるで、気にしたらいかん」
吾作また笑いながら言った。しかし彦ニイも、そんな言葉を聞く余裕はなく、ひたすら叫びながら庄屋さんの屋敷へ到着した。
その時には与平が外で待っていてくれて、吾作が彦ニイを下ろしたと同時に、
「彦ニイおかえり。中に入って休みん。ほれと吾作。本当に、本当に、申し訳なかった。いろいろと話があるし、だいぶ夜も更けたけど、みんな待っとるで中で話そうや」
と、言うと、門の中へ入って行った。
「うん。分かった」
吾作は返事をすると、その場でヘタっている彦ニイを置いて屋敷の門をくぐろうとしたが、吾作は昨日の事を思い出した。
「与平! そういや昨日、わしここに入れんかったんだわ~! また前みたいに何にもないのに壁が出来とって、入れんかった~!」
「は? 嘘だらあ? 前は入れたじゃんかあ」
その言葉を聞いた与平は、吾作とヘタっている彦ニイのいる門の所まで戻ってきた。そして、吾作の手を引っ張り、
「ほれ、入りん」
と、言うと、あっさり入れた。
「入れるじゃんか」
与平はまた中へ入っていった。吾作はまた分からなくなった。何が違う? どういう事? と、吾作はアレコレ考えていると一つの答えが出てきた。
(代官の屋敷の時は、門番が『入っていい』って言ったら入れた……今回は与平が『入っていい』って言ったら入れた……しかしそんな馬鹿な話ある?)
しかし吾作はそれしか考えられない。
「な、なあ与平。入ったらダメって言ってくれるかん」
いきなり吾作は与平に頼んだ。
「はあ? 面倒くさいなあ。ほんなん入ったらいかん」
与平は面倒くさそうに言った。すると敷地内にいた吾作の体は、みるみる門の外へ弾かれるように下がっていった。それを見た与平と彦ニイは、
「ええ? ええええ~~?」
と、驚き吾作も、
「な、何か許しをもらわんといかんの? で、でも何で? 前はわし、ここに入れたのに?」
と、かなり困惑した。与平はしばらく考えて言った。
「なんだろ? 今はわしがここの家主だからか?」
(え?)
吾作は与平をあらためてよく見ると、たいそう立派な着物を着ている事に気がついた。
「え? 与平? ここに住んどるの? それにその格好……」
「ああ、あの後な、庄屋さんが庄屋を辞退して、わしが継いだんだわ。まだ半人前で庄屋さんには手伝ってもらっとるだけど」
「は、はえ~……」
吾作はそんな事になっている事を知らなかったので、よく分からない声を出して感心した。しかし与平は気にもせずどんどん屋敷へ入って行くので、吾作も慌てて屋敷の中へ入っていった。
与平の後について大広間に入った吾作と彦ニイは、そこで先代の庄屋さんと和尚さん、おサエのお母さんと姉のおタケ、権兵衛、それに代官とその家来がばらばらに座っており、全員が吾作を見た。
吾作はいきなり注目されたので、
「こ、こんばんわ」
と、若干片言になってあいさつをした。すると代官がすぐに食ってかかってきた。
「おサエは? おまえはどうでもいいんだわ! おサエはどこだん!」
「あ、今、家! 家におりますよ。一回帰んなきゃっっ」
「ほんならおサエを連れて来い! みんながどえらい心配しとるだで!」
代官はたいそう機嫌が悪そうだ。しかし、
(何でおまえに怒鳴られなきゃいけないんだ?)
と、思いながらも吾作は、
「はいはい」
気のない返事を返すと、その場からケムリになって消えた。
「な、おサエ! 何でここにおる? 与平のトコに置いてきたのに」
「か、体は大丈夫なんか? みんなどえらい心配しただよっっ」
彦ニイと権兵衛は心配そうにおサエに言った。
「うん。吾作に会えたらなんか元気戻ってきた。ごめんね」
おサエはあっけらかんと話した。
「ほ、ほか。ほいじゃよかったけど……」
権兵衛は目線を吾作に戻した。吾作は、
「だから何で来たん?」
と、厳しい目つきで二人を睨みつけている。
「ご、吾作。話は全部聞いた。その、わしらが悪かった。だから睨みつけるのやめてくれんか?」
彦ニイは謝った。権兵衛も、
「本当に悪かった」
と、平謝りした。しかし吾作は、
「わしはまああの村に帰る気はないで、まあ帰りん」
そう言うと、戸をピシャ! と、閉めた。しかしまた戸が開いて、
「悪かったって謝っとるじゃんか! そんなに無下にすんなや!」
彦ニイがキレ気味に話してきた。権兵衛も、
「本当に吾作が怒るのは重々承知で来たんだて。一度、中へ入れてくれんか?」
吾作を説得するような口ぶりで話してきた。吾作は、
「やだ!」
と、言ってまた戸をピシャ! と、閉めた。しかしまた戸を開けて……と、言うくだりを三回ほど繰り返した結果、吾作がおれて権兵衛と彦ニイは本堂の中に入る事ができた。
中に入った彦ニイと権兵衛は、改めて、
「すまんかった」
と、吾作とおサエの前で土下座をすると、何でここにおサエが来ているのか聞いた。
「ほいじゃ今頃、村は大騒ぎになっとらんかやあ?」
「ほだよなあ? 下手したら代官まで現れるに」
この二人の意見に吾作とおサエは顔を見合わせると、
「そりゃ面倒くさいで、わしら全員で一回村に戻るかん」
「え? ヤだよ。まあ帰りたくないわ」
吾作の意見におサエは反対。
「いやいや、一回お義母さんにあって話そまい。こっちに住むのはわしは構わんだよ。それにおサエちゃん、せっかく少し元気戻っただもんで、ご飯も食べんといかんだら。ここ、何もないに」
なんとか吾作はおサエを説得し、おサエは渋々了承した。しかしそれを聞いていた権兵衛が素直な意見を言った。
「な、なあ、おサエちゃん。ここに住む気なん? ここ、住めんだら?」
「ほんなん分かっとるもんで、これからここをどうしようって、考えとったんだて!」
おサエのちょっと半ギレ気味の返事に、こわっと思った権兵衛だったが、そこは何も言わず吾作の言う通り、村へ帰る事にした。
帰ると言ってもみんな一緒に空を飛ぶ事も出来ないので、最初におサエ、次に権兵衛、彦ニイと、一人ずつ村へ運ぶ事にした。
最初におサエが自分の家まで運ばれると、おサエは慌てて厠へ走っていった。
(あ~……我慢してたのか……ごめんっっ)
吾作は心の中で謝ると、すぐに廃寺に戻り、権兵衛を連れて飛び立った。すると高い所が苦手な権兵衛は、
「ひょえええええええ~!」
と、当然大声で叫んだ。
「ほんなんで叫ぶなやっっ」
吾作は笑いながら権兵衛に言ったが、権兵衛にその言葉を聞く余裕などない。
「こ、恐い~~~~~!」
権兵衛は道中ひたすら叫んでいた。そんな叫び声を本堂で聞いていた彦ニイは、
「どえらい恐そうじゃんか……」
と、一言もらした。
そうして吾作は泣き叫ぶ権兵衛を与平が住む庄屋さんの屋敷の前に下ろすと、権兵衛はその場で座り込んでしまった。
そんな権兵衛を見ながら吾作は、
「何かわし、ここに入れんかったもんで、庄屋さんに事情話しといて」
と、伝言を残して廃寺に向かって飛んでいった。残された権兵衛は、完全に涙目になり、身体中が恐怖で震えていた。
最後に一人廃寺に残された彦ニイは、その殺風景な本堂の中や、寺の境内を提灯で照らしながら、おサエがここに住めるのかを心配していた。そこに吾作が帰ってきた。
「ほいじゃ彦ニイ。さっさと帰るに」
「なあ。ホントにここにおサエを住ますつもりなん? ほりゃ今日の感じ見とったらいいかもしれんけど……」
彦ニイは部屋の中を眺めながらあらためて吾作に訪ねた。
「う~ん。まあゆくゆくはそうなるかもなあ。ほんでもこのままじゃ無理だよ。それは分かっとるよ。おサエちゃんも」
吾作はそう言うと、彦ニイをさっさと担いで、闇夜に飛び立った。すると彦ニイも大絶叫した。
「だ、だはあああああああ~!」
「ほんなん慣れるで、気にしたらいかん」
吾作また笑いながら言った。しかし彦ニイも、そんな言葉を聞く余裕はなく、ひたすら叫びながら庄屋さんの屋敷へ到着した。
その時には与平が外で待っていてくれて、吾作が彦ニイを下ろしたと同時に、
「彦ニイおかえり。中に入って休みん。ほれと吾作。本当に、本当に、申し訳なかった。いろいろと話があるし、だいぶ夜も更けたけど、みんな待っとるで中で話そうや」
と、言うと、門の中へ入って行った。
「うん。分かった」
吾作は返事をすると、その場でヘタっている彦ニイを置いて屋敷の門をくぐろうとしたが、吾作は昨日の事を思い出した。
「与平! そういや昨日、わしここに入れんかったんだわ~! また前みたいに何にもないのに壁が出来とって、入れんかった~!」
「は? 嘘だらあ? 前は入れたじゃんかあ」
その言葉を聞いた与平は、吾作とヘタっている彦ニイのいる門の所まで戻ってきた。そして、吾作の手を引っ張り、
「ほれ、入りん」
と、言うと、あっさり入れた。
「入れるじゃんか」
与平はまた中へ入っていった。吾作はまた分からなくなった。何が違う? どういう事? と、吾作はアレコレ考えていると一つの答えが出てきた。
(代官の屋敷の時は、門番が『入っていい』って言ったら入れた……今回は与平が『入っていい』って言ったら入れた……しかしそんな馬鹿な話ある?)
しかし吾作はそれしか考えられない。
「な、なあ与平。入ったらダメって言ってくれるかん」
いきなり吾作は与平に頼んだ。
「はあ? 面倒くさいなあ。ほんなん入ったらいかん」
与平は面倒くさそうに言った。すると敷地内にいた吾作の体は、みるみる門の外へ弾かれるように下がっていった。それを見た与平と彦ニイは、
「ええ? ええええ~~?」
と、驚き吾作も、
「な、何か許しをもらわんといかんの? で、でも何で? 前はわし、ここに入れたのに?」
と、かなり困惑した。与平はしばらく考えて言った。
「なんだろ? 今はわしがここの家主だからか?」
(え?)
吾作は与平をあらためてよく見ると、たいそう立派な着物を着ている事に気がついた。
「え? 与平? ここに住んどるの? それにその格好……」
「ああ、あの後な、庄屋さんが庄屋を辞退して、わしが継いだんだわ。まだ半人前で庄屋さんには手伝ってもらっとるだけど」
「は、はえ~……」
吾作はそんな事になっている事を知らなかったので、よく分からない声を出して感心した。しかし与平は気にもせずどんどん屋敷へ入って行くので、吾作も慌てて屋敷の中へ入っていった。
与平の後について大広間に入った吾作と彦ニイは、そこで先代の庄屋さんと和尚さん、おサエのお母さんと姉のおタケ、権兵衛、それに代官とその家来がばらばらに座っており、全員が吾作を見た。
吾作はいきなり注目されたので、
「こ、こんばんわ」
と、若干片言になってあいさつをした。すると代官がすぐに食ってかかってきた。
「おサエは? おまえはどうでもいいんだわ! おサエはどこだん!」
「あ、今、家! 家におりますよ。一回帰んなきゃっっ」
「ほんならおサエを連れて来い! みんながどえらい心配しとるだで!」
代官はたいそう機嫌が悪そうだ。しかし、
(何でおまえに怒鳴られなきゃいけないんだ?)
と、思いながらも吾作は、
「はいはい」
気のない返事を返すと、その場からケムリになって消えた。
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