吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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離れた吾作とおサエ

久しぶりの二人

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 二人はひとしきり泣き終わると、吾作がいなくなってからの話をお互いし始めた。
 そしてなぜおサエは、自分が庄屋さんの屋敷にいたかは全く分からなかったが、屋敷で吾作の居場所の話をうっすらと聞いて、自分で歩いて行こうとして外に出た所で吾作が現れた事も分かった。

(なんて無茶な)

 吾作はそう思ったが、今のおサエの追い詰められた感じを見て、よほど辛かったんだと理解した。

 その間もおサエは少しずつだが囲炉裏のお粥を食べて、ほんの少しだが元気が出た。そして二人は今後の事を話し始めた。

「吾作、私、吾作のトコに行ったらいかん? この村におるの、もうやだ」

 おサエは単刀直入に気持ちを言った。吾作は困った。

「え? まあ、村がヤなのは分かったけど……でもお義母さんとか、お姉さんおるし……どうすんの?」

「二人とは最近本当に会っとらん。まあ今日、私が運ばれたみたいだけど……。でももう、少し離れたい!」

「ええ~っっ! ほ、ほか~……ほんでも会えなくなるのはちょっとわしも責任感じちゃうしなあ~……。ほれと、わしの住んどるトコもなあ~……。いや、いいだよ。いいだけど、あそこ人が住めると思えんだけどなあ……。だってね、昔は人が住んどった感じがするんだけど、まあ木がどえらい生えとって、井戸もかわや(便所)もどうなっとるかわしもよう分からんだよ~っっ」

 それを聞いてもおサエは引き下がらない。

「ほんなんまた掘ってもらえばいいじゃんか。だって昔は人が住んでたんでしょ? 一回、私を連れてってよ。ほいで決めるで。でもまあ離れて暮らすのはホントにヤだでね!」

「ほだね。わしもおサエちゃんと一緒がええで、何とかするかん。ほいでも今日はゆっくり休んどりんて。また倒れるといかんで」

 おサエの体が心配な吾作は、とりあえず今日は休んでほしいと思って言ったのだが、おサエは吾作の住んでいる廃寺に行きたくてしょうがない。

「ヤだ! 今から行きたい! ほんで確かめたい!」

「わ、分かったてっっ! 分かったで、とりあえず空は寒いだらあし、布団ごと今日は連れてったるに。ほいでもその前にこのお粥食べて体をあっためりんっっ」

 吾作は完全に押し負けたが、おサエをなだめた。おサエは、え~と言いながらも確かに自分の体力もなさすぎるから、少し食べようと思い、あったかいお粥を半分くらい食べた。
 しかしそれ以上は本当に食べれそうになかったので、吾作も仕方ないねと言って、鍋を土間にさげた。
 そしておサエに厚手の服を何枚か着せて布団に入った後、

「ほんじゃ行くに」

 吾作はおサエを布団ごと抱えると、ゆっくりと夜空へ飛びたった。おサエの顔に少し冷たい風があたる。おサエはその感覚がとても心地よく感じた。

「ああ~、やっぱり気持ちいいわあ~♪」

 久しぶりの空中散歩におサエは心躍った。その顔を見た吾作は(これでよかったのかな♪)と、思いながら、ゆっくりと、廃寺へ向かって飛んでいった。
 まだ日が差すには早い時間帯なので、村の灯りもほとんどなく、空高く上がった二人から村を見ても、どこが村だか分からないくらい真っ暗だった。
 そのかわり、空の星達がとても近くでキラキラと輝いているようにおサエは感じ、更に喜んだ。

「このくらいの速さの空の散歩も楽しいねえ」

「ほだねえ。いままでが速すぎたかやあ」

 吾作はそう言って少し反省した。そんな話をしながらも山を次から次へと越していくのはおサエでも分かるので、おサエは、こんなに離れとるの? と、自分が歩いて向かおうとした事がいかに無謀だったかを理解した。
 そうしてゆっくりと空中散歩をしている間に空の色が東から明るくなってきた。

「あ、まあ少しすると日の出だわ。こりゃ急がんと」

と、吾作は言ったものの、特に速くなるでもなく飛んでいる。

「まっと速くせんでいいの?」

「これで精一杯」

 おサエは、吾作の能力が衰えている事に少し驚いた。
 吾作の体に何があったんだろう? と、気にはなったが、それよりも向かっている先に何やら見覚えのある情景が見えてきた気がしたので、おサエはそちらに気を取られた。その時に、

「ほら。あそこ。あのお山のてっぺんのお寺」

 吾作が教えてくれた。おサエは夢でオロロックが指差した光景を思い出した。

「あ、あ~! あれ! おろろ~が指差したトコだ~!」

「え? おろろ~!」

 吾作は驚いて少し体制が崩れた。二人は、

「わあ!」

と、体制を整え直したが、吾作は驚きを隠せず、

「おろろ~? な、何で? 何でおサエちゃんの夢に? 現れたの?」

「うん。何か真っ暗闇なところから明るいコトに走っていったら、おろろ~がおって、ほんで今の吾作なら大丈夫って教えてくれて、で、あのお寺さんを指差した」

「へえ~?」

 吾作はおサエの話を信じられなかった。夢におろろ~が出てくるなんて……自分の夢になんか、出た事ない……。こんな小ボケをしている吾作はお構いなしのおサエは、廃寺が近づくにつれ、

(私、ここに住むんだわ)

と、妙な確信が出てきた。

 二人は廃寺に着くと、おサエは本堂の戸の前に立ち、そこから見える景色をじっくりと眺めた。
 そして自分よりも高い草をかき分けながら寺の入り口の階段の所まで行くと、その絶景に思わず見とれてしまった。

「吾作! 私、絶対ここに住む!」

 おサエは大声で断言した。吾作は、ニコっと微笑むと、

「おサエちゃん! 今、体力ないだで、帰っといでん。それに虫に刺されるに」

と、おサエに向かって叫んだ。

「わあ! 虫はやだ~っっ!」

 おサエは慌てて本堂に帰ってきた。その間も、吾作は自分の能力で、虫がおサエから離れるようにしていた。

 おサエが本堂に入ってくると、その殺風景な部屋の中に少し寂しさを覚えた。

(吾作はこんな何にもない家で毎日暮らしてたなんて……)

 おサエはしばらくその部屋を眺めた。本当に何も置いてなく、奥の方に布団が一式置いてあるだけ。そして少しほこりっぽい。おサエは聞いた。

「あれで寝とるの?」

「うん。空き家からいただいた」

「それは駄目だらあ」

と、少し笑いながらおサエは答えた。しかし本当に何もない部屋でなので、おサエは、

(これからどうしようかなあ~……でも絶対ここに住みたいわあ)

と、考えた。すると吾作が、

「わし、そろそろ寝る時間だで。おサエちゃんはどうする?」

と、聞いてきたので、

「私も少し寝る」

と、言うと、二人は並んで布団を敷いて、すぐさま眠りについた。

 その日、昼間だというのにおサエはぐっすりと眠りについた。そしてそろそろ夜になろうという時間になった。
 そんな時、本堂の外から男の声が聞こえた。まだ吾作もおサエもぐっすり寝ていたが、吾作はその声で目を覚ました。

(何かごにょごにょ言ってる……誰だ?)

 吾作は耳をそば立てた。すると、

「吾作~! ここの戸、開けるでな~!」

 聞き覚えのある声が聞こえた。
 吾作はすぐにその声が誰か分かり、戸の前に仁王立ちした。そして次の瞬間、本堂の戸が、ガラガラっと開けられると、そこには権兵衛と彦ニイが立っていた。吾作は、

「何で来たん?」

と、思わず突っぱねた。権兵衛と彦ニイは、目の前にいきなり吾作が立っていたので思わず、

「わあ」

と、叫んでしまった。
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