吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

文字の大きさ
上 下
62 / 70
離れた吾作とおサエ

おサエはどこ?

しおりを挟む
 吾作はオオカミに変化すると、村中を走り始めた。そして自分の思いあたる家へ向かってみた。
 お義母さんの家にはいない。と、いうかお義母さんがいない。その近くの与平の家もなぜか誰もいない。

(どこかに出かけたのかな?)

 しかしこんな夜更けに行く場所など、一つしか思いつかない。そんな訳で吾作は庄屋さんの屋敷へ向かった。
 すぐに庄屋さんの屋敷に着き、中に入ろうとした吾作は、空気の壁があって入れない事に気がついた。

(あれ? 何で?)

 う~んと困った吾作は、仕方がないので外から屋敷の様子をうかがう事にした。
 吾作は化け物になってからかなりな地獄耳になっていたので、その耳をそばだてた。しかし中で人の話している雰囲気はない。それどころか、もうすでに寝息を立てているように聞こえる。

(あれえ~。ここでもないのか~……。じゃあおサエちゃんどこにおるだん?)

 困った吾作は、他の場所をと考え始めた。
 そんな時、屋敷から誰かが草履を履いて、外に向かってくる足音が聞こえてきた。
 吾作は人に姿を見られたくなかったので慌てて空中に浮かんだ。
 その足音はすぐに屋敷の外に出たが、明らかに足取りがおぼつかない感じで、壁伝いにもたれながら進んでいる。提灯を持っているから出かけるつもりなのは明白だが、とても歩ける状態ではないのも明白だった。
 そして吾作はそれがおサエだとすぐに確認すると、

「おサエちゃん!」

と、声をかけた。
 おサエはすぐに顔を上に向けた。そこには吾作が浮かんでいるのだが、暗くてよく見えない。

「ご、吾作?」

 おサエは力ない声を出すと、その場で泣き崩れ、意識も失ってしまった。

 おサエは暗闇の中にいた。一寸先も見えない真っ暗な闇。自分の足元も全く見えない。
 おサエはあまりの恐怖にその場から一歩も動けなかった。

「ここ……どこ?」

 おサエは震えながら声が出た。その声に応えるかの様に、暗闇の先に一筋の光が差し始めた。おサエは思わずその光を目指して歩き始めた。

 は、早く、早くあの光の所へ行かないとっっ。

 おサエの足はどんどん速くなり、気がつけばおサエは必死に走っていた。
 するとその光の中に誰かが立っている事に気がついた。おサエは更に必死に走った。

 誰かいる! 誰かいる! これで助かる!

 そう思ったおサエだったが、近づくにつれて、その影が誰か分かると慌てて足を止めた。

「おろろ~!」

 それは吾作を化け物に変えた張本人、オロロックだった。おサエは思わず後ずさりしたが、

「オウ! 待ってクダサーイ! 逃ゲナイデ~! 私はアナタを待ってイタノデース!」

 その言葉を聞き、おサエの足は止まった。

「え? な、何?」

 おサエは一定の距離で話を聞こうとした。その様子を見たオロロックは、

「アリガトウゴザイマース。デハ~、話をシマスネー。アナタのダンナサンは、今、仙人のヨウナ人にナッテテ、トテモスゴいデース! ヒトの血を~、飲ミタイと思ワナクナッテマスネ~。ナノデ、コノ場所にスンデイルカギリ~、イッショに暮ラセマスヨ~♪」

と、言った。

「ホ、ホント? ホントに? 私、吾作と一緒にまた暮らせるの?」

 おサエは思わずオロロックに駆け寄り必死になって聞いてみた。オロロックは驚いて少し離れて教えてくれた。

「オオ~! ビックリシタネ~! デモ、彼のスンデル、アノ場所ナラ、イッシヨに暮ラセマース♪」

「あの場所?」

「アノ場所デース。山ノ上ノ、アノ場所デース♪」

 オロロックはそう言うと、遠くを指差した。おサエはその指の先を見ると、そこには見た事のない山の頂上の辺りにお寺のような建物がある。おサエは、

「あそこに吾作はおるの?」

 オロロックと聞くとコクっと頷き、オロロックは少しずつ遠くへ飛んで行ってしまった。

「あの場所……」

 おサエは目を覚ました。そこは自分の家で、囲炉裏の火がついており、何か作っているようだった。

(私……どうしたんだっけ?)

と、考えながらゆっくりと体を起こした。すると、

「おサエちゃん! 大丈夫?」

 吾作が土間から顔を覗かせた。

「ご、吾作?」

 おサエは吾作の顔を見た途端、張り詰めていた物がパーンと弾けるかのように、玉のような涙を流し始めた。

「吾作、吾作っ。吾作!」

 おサエは吾作の名前を連呼しながらどんどん大きな声で泣き始めた。
 それを見た吾作も、目をウルっとさせた。おサエは、

「吾作! 吾作のバカ! アホ! おたんこなす! 何で一人でどっか行っちゃうのよアホんだら! 行くなら私も連れてってよおお~! わ~ん!」

と、泣きながら罵声をかけた。それを聞いた吾作も、

「だって、ごめん~~っっ! わ~~ん!」

と、一緒になって泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特別。

月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。 一流のスポーツ選手となって活躍する。 ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。 すごい発明をして大金持ちになる。 歴史に名を刻むほどの偉人となる。 現実という物語の中で、主人公になる。 自分はみんなとはちがう。 この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。 自分が生きた証が欲しい。 特別な存在になりたい。 特別な存在でありたい。 特別な存在だったらいいな。 そんな願望、誰だって少しは持っているだろう? でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら…… 自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。 次々と明らかになっていく真実。 特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか…… 伝奇ホラー作品。

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。 最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。 迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく…… 3月24日完結予定 毎日16時ごろに更新します お越しをお待ちしております

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...