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離れた吾作とおサエ
おサエはどこ?
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吾作はオオカミに変化すると、村中を走り始めた。そして自分の思いあたる家へ向かってみた。
お義母さんの家にはいない。と、いうかお義母さんがいない。その近くの与平の家もなぜか誰もいない。
(どこかに出かけたのかな?)
しかしこんな夜更けに行く場所など、一つしか思いつかない。そんな訳で吾作は庄屋さんの屋敷へ向かった。
すぐに庄屋さんの屋敷に着き、中に入ろうとした吾作は、空気の壁があって入れない事に気がついた。
(あれ? 何で?)
う~んと困った吾作は、仕方がないので外から屋敷の様子をうかがう事にした。
吾作は化け物になってからかなりな地獄耳になっていたので、その耳をそばだてた。しかし中で人の話している雰囲気はない。それどころか、もうすでに寝息を立てているように聞こえる。
(あれえ~。ここでもないのか~……。じゃあおサエちゃんどこにおるだん?)
困った吾作は、他の場所をと考え始めた。
そんな時、屋敷から誰かが草履を履いて、外に向かってくる足音が聞こえてきた。
吾作は人に姿を見られたくなかったので慌てて空中に浮かんだ。
その足音はすぐに屋敷の外に出たが、明らかに足取りがおぼつかない感じで、壁伝いにもたれながら進んでいる。提灯を持っているから出かけるつもりなのは明白だが、とても歩ける状態ではないのも明白だった。
そして吾作はそれがおサエだとすぐに確認すると、
「おサエちゃん!」
と、声をかけた。
おサエはすぐに顔を上に向けた。そこには吾作が浮かんでいるのだが、暗くてよく見えない。
「ご、吾作?」
おサエは力ない声を出すと、その場で泣き崩れ、意識も失ってしまった。
おサエは暗闇の中にいた。一寸先も見えない真っ暗な闇。自分の足元も全く見えない。
おサエはあまりの恐怖にその場から一歩も動けなかった。
「ここ……どこ?」
おサエは震えながら声が出た。その声に応えるかの様に、暗闇の先に一筋の光が差し始めた。おサエは思わずその光を目指して歩き始めた。
は、早く、早くあの光の所へ行かないとっっ。
おサエの足はどんどん速くなり、気がつけばおサエは必死に走っていた。
するとその光の中に誰かが立っている事に気がついた。おサエは更に必死に走った。
誰かいる! 誰かいる! これで助かる!
そう思ったおサエだったが、近づくにつれて、その影が誰か分かると慌てて足を止めた。
「おろろ~!」
それは吾作を化け物に変えた張本人、オロロックだった。おサエは思わず後ずさりしたが、
「オウ! 待ってクダサーイ! 逃ゲナイデ~! 私はアナタを待ってイタノデース!」
その言葉を聞き、おサエの足は止まった。
「え? な、何?」
おサエは一定の距離で話を聞こうとした。その様子を見たオロロックは、
「アリガトウゴザイマース。デハ~、話をシマスネー。アナタのダンナサンは、今、仙人のヨウナ人にナッテテ、トテモスゴいデース! ヒトの血を~、飲ミタイと思ワナクナッテマスネ~。ナノデ、コノ場所にスンデイルカギリ~、イッショに暮ラセマスヨ~♪」
と、言った。
「ホ、ホント? ホントに? 私、吾作と一緒にまた暮らせるの?」
おサエは思わずオロロックに駆け寄り必死になって聞いてみた。オロロックは驚いて少し離れて教えてくれた。
「オオ~! ビックリシタネ~! デモ、彼のスンデル、アノ場所ナラ、イッシヨに暮ラセマース♪」
「あの場所?」
「アノ場所デース。山ノ上ノ、アノ場所デース♪」
オロロックはそう言うと、遠くを指差した。おサエはその指の先を見ると、そこには見た事のない山の頂上の辺りにお寺のような建物がある。おサエは、
「あそこに吾作はおるの?」
オロロックと聞くとコクっと頷き、オロロックは少しずつ遠くへ飛んで行ってしまった。
「あの場所……」
おサエは目を覚ました。そこは自分の家で、囲炉裏の火がついており、何か作っているようだった。
(私……どうしたんだっけ?)
と、考えながらゆっくりと体を起こした。すると、
「おサエちゃん! 大丈夫?」
吾作が土間から顔を覗かせた。
「ご、吾作?」
おサエは吾作の顔を見た途端、張り詰めていた物がパーンと弾けるかのように、玉のような涙を流し始めた。
「吾作、吾作っ。吾作!」
おサエは吾作の名前を連呼しながらどんどん大きな声で泣き始めた。
それを見た吾作も、目をウルっとさせた。おサエは、
「吾作! 吾作のバカ! アホ! おたんこなす! 何で一人でどっか行っちゃうのよアホんだら! 行くなら私も連れてってよおお~! わ~ん!」
と、泣きながら罵声をかけた。それを聞いた吾作も、
「だって、ごめん~~っっ! わ~~ん!」
と、一緒になって泣いた。
お義母さんの家にはいない。と、いうかお義母さんがいない。その近くの与平の家もなぜか誰もいない。
(どこかに出かけたのかな?)
しかしこんな夜更けに行く場所など、一つしか思いつかない。そんな訳で吾作は庄屋さんの屋敷へ向かった。
すぐに庄屋さんの屋敷に着き、中に入ろうとした吾作は、空気の壁があって入れない事に気がついた。
(あれ? 何で?)
う~んと困った吾作は、仕方がないので外から屋敷の様子をうかがう事にした。
吾作は化け物になってからかなりな地獄耳になっていたので、その耳をそばだてた。しかし中で人の話している雰囲気はない。それどころか、もうすでに寝息を立てているように聞こえる。
(あれえ~。ここでもないのか~……。じゃあおサエちゃんどこにおるだん?)
困った吾作は、他の場所をと考え始めた。
そんな時、屋敷から誰かが草履を履いて、外に向かってくる足音が聞こえてきた。
吾作は人に姿を見られたくなかったので慌てて空中に浮かんだ。
その足音はすぐに屋敷の外に出たが、明らかに足取りがおぼつかない感じで、壁伝いにもたれながら進んでいる。提灯を持っているから出かけるつもりなのは明白だが、とても歩ける状態ではないのも明白だった。
そして吾作はそれがおサエだとすぐに確認すると、
「おサエちゃん!」
と、声をかけた。
おサエはすぐに顔を上に向けた。そこには吾作が浮かんでいるのだが、暗くてよく見えない。
「ご、吾作?」
おサエは力ない声を出すと、その場で泣き崩れ、意識も失ってしまった。
おサエは暗闇の中にいた。一寸先も見えない真っ暗な闇。自分の足元も全く見えない。
おサエはあまりの恐怖にその場から一歩も動けなかった。
「ここ……どこ?」
おサエは震えながら声が出た。その声に応えるかの様に、暗闇の先に一筋の光が差し始めた。おサエは思わずその光を目指して歩き始めた。
は、早く、早くあの光の所へ行かないとっっ。
おサエの足はどんどん速くなり、気がつけばおサエは必死に走っていた。
するとその光の中に誰かが立っている事に気がついた。おサエは更に必死に走った。
誰かいる! 誰かいる! これで助かる!
そう思ったおサエだったが、近づくにつれて、その影が誰か分かると慌てて足を止めた。
「おろろ~!」
それは吾作を化け物に変えた張本人、オロロックだった。おサエは思わず後ずさりしたが、
「オウ! 待ってクダサーイ! 逃ゲナイデ~! 私はアナタを待ってイタノデース!」
その言葉を聞き、おサエの足は止まった。
「え? な、何?」
おサエは一定の距離で話を聞こうとした。その様子を見たオロロックは、
「アリガトウゴザイマース。デハ~、話をシマスネー。アナタのダンナサンは、今、仙人のヨウナ人にナッテテ、トテモスゴいデース! ヒトの血を~、飲ミタイと思ワナクナッテマスネ~。ナノデ、コノ場所にスンデイルカギリ~、イッショに暮ラセマスヨ~♪」
と、言った。
「ホ、ホント? ホントに? 私、吾作と一緒にまた暮らせるの?」
おサエは思わずオロロックに駆け寄り必死になって聞いてみた。オロロックは驚いて少し離れて教えてくれた。
「オオ~! ビックリシタネ~! デモ、彼のスンデル、アノ場所ナラ、イッシヨに暮ラセマース♪」
「あの場所?」
「アノ場所デース。山ノ上ノ、アノ場所デース♪」
オロロックはそう言うと、遠くを指差した。おサエはその指の先を見ると、そこには見た事のない山の頂上の辺りにお寺のような建物がある。おサエは、
「あそこに吾作はおるの?」
オロロックと聞くとコクっと頷き、オロロックは少しずつ遠くへ飛んで行ってしまった。
「あの場所……」
おサエは目を覚ました。そこは自分の家で、囲炉裏の火がついており、何か作っているようだった。
(私……どうしたんだっけ?)
と、考えながらゆっくりと体を起こした。すると、
「おサエちゃん! 大丈夫?」
吾作が土間から顔を覗かせた。
「ご、吾作?」
おサエは吾作の顔を見た途端、張り詰めていた物がパーンと弾けるかのように、玉のような涙を流し始めた。
「吾作、吾作っ。吾作!」
おサエは吾作の名前を連呼しながらどんどん大きな声で泣き始めた。
それを見た吾作も、目をウルっとさせた。おサエは、
「吾作! 吾作のバカ! アホ! おたんこなす! 何で一人でどっか行っちゃうのよアホんだら! 行くなら私も連れてってよおお~! わ~ん!」
と、泣きながら罵声をかけた。それを聞いた吾作も、
「だって、ごめん~~っっ! わ~~ん!」
と、一緒になって泣いた。
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