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離れた吾作とおサエ
山の奥の奥の廃寺へ
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次の日の朝、おタケはおサエの様子を見に客間に入るなり驚いた。
おサエがいなくなっていたのである。
おタケは慌てて屋敷中を捜したが見当たらない。おタケは与平を起こし、いない事を告げた。与平は慌てて家の異変を探した。すると家の草履が一足なくなっていた。そこでおサエは昨日の話を聞いていて、みんなが寝静まった頃に抜け出したと思われた。
こりゃ大変とばかり、与平は家の者に家の辺りを探してもらい、与平は代官の屋敷まで走って行った。
村でそんな事が起こっているとは思いもしない権兵衛と彦ニイは、昨晩泊めてもらった村の寺を訪ね、吾作の住んでいると思われる廃寺の話を聞いた。
そこの和尚さんの話では、その廃寺までは、険しい山道を歩いて丸一日ほどかかるらしい。
二人は気が遠くなった。
何せ昨晩、宿屋に着いたのもかなり夜がふけてからだったので、今日はもうクタクタだったのだ。
それでも吾作に会わなけねばという想いで二人は出発した。
村の和尚さんの言う通り、その廃寺はかなり山の奥の奥にあるようで、山道を上がっては降り、新しい集落を見つけてはまた話を聞き、また山道を上がっては降りを繰り返し、そのうち山道もどんどん足場が悪くなり、まるで獣道のようになっていった。
そしてその道が終わると、山の奥へ続く真っ直ぐな石の階段が現れたが、これが長年使われていないのか、草は生え放題だし、階段が落ちて崩れている箇所もあったりでとても危険な代物だった。
しかしそれを用心しながら二人は登りきると、そこには荒れ果てたお寺が目の前に現れた。彦ニイが、
「こ、ここだな……」
息を切らせながら言うと、
「ほだな……」
やはり息を切らせた権兵衛が言った。しかし二人ともすでに疲れきっていたので、登ってきた階段に座って休憩をする事にした。
そこから見える景色はまさに絶景と言える物で、高い所が苦手な権兵衛は、階段に腰掛けて風景を見るなり、
「うほっっ!」
と、つい声をあげて階段をつかんだ。
しかしそんな権兵衛も、恐いながらもじっくり遠くを見始めると、その絶景に見とれた。
階段の下には山の茂みはあるものの、その先には昼間に話を聞いた集落が見える。その周りには日に当たって黄金色に光っている収穫間近の稲が敷き詰められているようだ。そしてその奥には山々が連なっているが、しかしその先には平地があるのがうかがえる。
「自分達はどの辺りから来たんだっけ?」
彦ニイは呑気に話したが、そんな会話をする余裕は権兵衛にはなかった。
そして朝から歩いてきたのに、すでに日が暮れようとする時間になっていた。
二人は、
「まあ日が沈むで早よ行くかん」
と、言うと、お寺の境内に入る事にした。
しかしさっきまで座っていた階段の先からすぐに背の高さくらいある草がとてもしげっており、お寺の境内を歩くのも少し大変そうだった。
ただ不思議な事に、本堂の前の一部がきれいになくなっているようだった。
その本堂も屋根からも草が生えていたり、所々瓦が落ちていたりと、建物がだいぶ傷んでいるのが分かる。
その横に住職の住まいだったと思われる建物があるのだが、そこは屋根も落ちており、人が入れるような物ではなかった。
権兵衛と彦ニイは、
「あそこだな」
と、顔を合わせてうなずくと、その背丈まである草をかき分けて何とか本堂へ向かっていった。
本堂の扉の前まで来た二人は、顔を合わして息を吸った。
(ここに吾作がいるはずだ。しかし村から追い出したわしらを許してくれるだろうか? それになんて声をかければいいか……)
などと二人は考えてしまったが、そんな事は言ってられないと思った。
「ご、吾作! 吾作、おるかん? わしらだ! 権兵衛だ! 彦ニイも来てくれとる! 今日は急用があって来たで、会ってくれんかん?」
と、扉に向かって権兵衛は大声で話しかるが、返事はない。
「まだ寝とるんじゃないかん?」
彦ニイは言った。二人は、
「ほだな。どうする? 開けちゃう?」
「いいだら。開けまい」
そんな訳で扉を開ける事にした。権兵衛は、
「吾作~! ここの戸、開けるでな~!」
と、断りを入れると扉に手をかけた。だいぶ傷んでいる建物の扉なのだが、そんなに力を入れなくても開ける事が出来たので、二人はゆっくりと扉を開けた。すると、
「何で来たん?」
仏頂面の吾作が目の前に立っていた。
「わあ!」
驚いた権兵衛と彦ニイはその場から一瞬離れた。
そしてよく部屋の中を見てみると、そこにはおサエが布団の中で横になっていた。
おサエがいなくなっていたのである。
おタケは慌てて屋敷中を捜したが見当たらない。おタケは与平を起こし、いない事を告げた。与平は慌てて家の異変を探した。すると家の草履が一足なくなっていた。そこでおサエは昨日の話を聞いていて、みんなが寝静まった頃に抜け出したと思われた。
こりゃ大変とばかり、与平は家の者に家の辺りを探してもらい、与平は代官の屋敷まで走って行った。
村でそんな事が起こっているとは思いもしない権兵衛と彦ニイは、昨晩泊めてもらった村の寺を訪ね、吾作の住んでいると思われる廃寺の話を聞いた。
そこの和尚さんの話では、その廃寺までは、険しい山道を歩いて丸一日ほどかかるらしい。
二人は気が遠くなった。
何せ昨晩、宿屋に着いたのもかなり夜がふけてからだったので、今日はもうクタクタだったのだ。
それでも吾作に会わなけねばという想いで二人は出発した。
村の和尚さんの言う通り、その廃寺はかなり山の奥の奥にあるようで、山道を上がっては降り、新しい集落を見つけてはまた話を聞き、また山道を上がっては降りを繰り返し、そのうち山道もどんどん足場が悪くなり、まるで獣道のようになっていった。
そしてその道が終わると、山の奥へ続く真っ直ぐな石の階段が現れたが、これが長年使われていないのか、草は生え放題だし、階段が落ちて崩れている箇所もあったりでとても危険な代物だった。
しかしそれを用心しながら二人は登りきると、そこには荒れ果てたお寺が目の前に現れた。彦ニイが、
「こ、ここだな……」
息を切らせながら言うと、
「ほだな……」
やはり息を切らせた権兵衛が言った。しかし二人ともすでに疲れきっていたので、登ってきた階段に座って休憩をする事にした。
そこから見える景色はまさに絶景と言える物で、高い所が苦手な権兵衛は、階段に腰掛けて風景を見るなり、
「うほっっ!」
と、つい声をあげて階段をつかんだ。
しかしそんな権兵衛も、恐いながらもじっくり遠くを見始めると、その絶景に見とれた。
階段の下には山の茂みはあるものの、その先には昼間に話を聞いた集落が見える。その周りには日に当たって黄金色に光っている収穫間近の稲が敷き詰められているようだ。そしてその奥には山々が連なっているが、しかしその先には平地があるのがうかがえる。
「自分達はどの辺りから来たんだっけ?」
彦ニイは呑気に話したが、そんな会話をする余裕は権兵衛にはなかった。
そして朝から歩いてきたのに、すでに日が暮れようとする時間になっていた。
二人は、
「まあ日が沈むで早よ行くかん」
と、言うと、お寺の境内に入る事にした。
しかしさっきまで座っていた階段の先からすぐに背の高さくらいある草がとてもしげっており、お寺の境内を歩くのも少し大変そうだった。
ただ不思議な事に、本堂の前の一部がきれいになくなっているようだった。
その本堂も屋根からも草が生えていたり、所々瓦が落ちていたりと、建物がだいぶ傷んでいるのが分かる。
その横に住職の住まいだったと思われる建物があるのだが、そこは屋根も落ちており、人が入れるような物ではなかった。
権兵衛と彦ニイは、
「あそこだな」
と、顔を合わせてうなずくと、その背丈まである草をかき分けて何とか本堂へ向かっていった。
本堂の扉の前まで来た二人は、顔を合わして息を吸った。
(ここに吾作がいるはずだ。しかし村から追い出したわしらを許してくれるだろうか? それになんて声をかければいいか……)
などと二人は考えてしまったが、そんな事は言ってられないと思った。
「ご、吾作! 吾作、おるかん? わしらだ! 権兵衛だ! 彦ニイも来てくれとる! 今日は急用があって来たで、会ってくれんかん?」
と、扉に向かって権兵衛は大声で話しかるが、返事はない。
「まだ寝とるんじゃないかん?」
彦ニイは言った。二人は、
「ほだな。どうする? 開けちゃう?」
「いいだら。開けまい」
そんな訳で扉を開ける事にした。権兵衛は、
「吾作~! ここの戸、開けるでな~!」
と、断りを入れると扉に手をかけた。だいぶ傷んでいる建物の扉なのだが、そんなに力を入れなくても開ける事が出来たので、二人はゆっくりと扉を開けた。すると、
「何で来たん?」
仏頂面の吾作が目の前に立っていた。
「わあ!」
驚いた権兵衛と彦ニイはその場から一瞬離れた。
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