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離れた吾作とおサエ
目覚めないおサエ
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庄屋さんはすでに引退して、今では与平が庄屋を引き継ぎ、屋敷に家族も引っ越して住んでいた。
しかしまだ完全に庄屋の仕事を覚えている訳ではなかったので、補佐的な感じで庄屋さんも離れを作ってそこに住んでいた。
その日も与平と庄屋さんは仕事の引き継ぎで忙しくしていたが、権兵衛と彦ニイがおサエを担いでやってきたので、仕事どころではなくなり、おサエの姉で与平の嫁のおタケも驚いて慌てて客間に布団を敷いて看病を始めた。
おタケはいつでもおサエがお粥を食べれるように準備をし、権兵衛と彦ニイは和尚さんを呼びに行き、そのまま吾作のいる廃寺へ向かった。
その間もおサエの意識は戻らず、その日は夜を迎えた。
客間で相変わらず寝ているおサエを見ながらおタケが、
「こんなに憔悴するほど追い込んじゃったなんて……私達、絶対間違っとっただよ。ごめんおサエ……」
ボロボロ涙を流しながら懺悔をした。おサエの事を聞いて慌ててやってきたお母さんも、
「わ、私が悪かったで、ホントに死なんでっっ!」
はやり大泣きをしながら懇願した。
しかしおサエは目覚めない。その横では与平と先代の庄屋さんと駆けつけた和尚さんが夕飯を食べながら話をしていた。
「本当にわしがいらん事をせんかったら、こんな事にならんかったのに……」
先代の庄屋さんはおサエを見ながら俯き加減で話すと、
「ほんなん今言ってもしょうがないですよ。それより二人が早いとこ吾作の所へ行けるのを祈りましょう」
と、与平は言った。すると和尚さんは、
「ん~……ほいでもわしが話したその場所が、確実とは限らんでなあ。かと言って、他に思いつかんのだが」
若干自信なさげに話すので、おタケが突っ込んだ。
「え? 違うかもしれんトコに、彦ニイと権兵衛、向かっとるの? ほんなんお代官様のトコ行って、まっと探してもらった方がよくないかん?」
「あ~、いや、代官様のトコはよく行っとるが、ホントに吾作の事に関しては協力する気はないわ。あんだけの事されたもんで、むしろざまみろぐらいになっとる」
与平がそう言うと、
「う~ん……」
一同は頭を抱えた。しかしおタケが与平に詰め寄った。
「いや、ほんでもさあ、おサエの事はどえらい気に入っとったじゃんかあ。ほいだもんで、おサエの事を話したら、協力してくれへんかん?」
「まあ、確かにほかもしれんな。明日、代官様んトコへ行くか」
それはいい考えかもしれないと、与平は答えた。するとおサエのお母さんが話を変えた。
「ねえねえ。ほれはいいだけど、権兵衛と彦ニイが行ったトコってどんだけ遠いの? 今日は着かんのだら?」
「ん~……ほだなあ。山の奥の奥でなあ。本宮山ってあるだらあ? あっちの方なんだわ。ほりゃ昔はその寺は地元の人が山を登るとご利益があるっつって栄えとったらしいだけど、まあずいぶん前にそこの住職さんが亡くなってからは、ご利益もなくなったのか誰も行かんくなってすっかり荒れ果ててるって話でな。そんな場所、あそこしかこの辺にはないもんで、よっぽどあそこだと思うだよ。僧の間ではけっこう有名なトコだわ」
和尚さんは説明してくれた。みんなその話を聞いて、
「う~ん……ほんじゃきっとそこだらあなあ」
と、うなづいた。そんな話をみんなでしていたが、おサエが目を覚ます雰囲気は一向に来ないので、その日は和尚さんも帰り、与平達もそれぞれ眠りについた。
しかしまだ完全に庄屋の仕事を覚えている訳ではなかったので、補佐的な感じで庄屋さんも離れを作ってそこに住んでいた。
その日も与平と庄屋さんは仕事の引き継ぎで忙しくしていたが、権兵衛と彦ニイがおサエを担いでやってきたので、仕事どころではなくなり、おサエの姉で与平の嫁のおタケも驚いて慌てて客間に布団を敷いて看病を始めた。
おタケはいつでもおサエがお粥を食べれるように準備をし、権兵衛と彦ニイは和尚さんを呼びに行き、そのまま吾作のいる廃寺へ向かった。
その間もおサエの意識は戻らず、その日は夜を迎えた。
客間で相変わらず寝ているおサエを見ながらおタケが、
「こんなに憔悴するほど追い込んじゃったなんて……私達、絶対間違っとっただよ。ごめんおサエ……」
ボロボロ涙を流しながら懺悔をした。おサエの事を聞いて慌ててやってきたお母さんも、
「わ、私が悪かったで、ホントに死なんでっっ!」
はやり大泣きをしながら懇願した。
しかしおサエは目覚めない。その横では与平と先代の庄屋さんと駆けつけた和尚さんが夕飯を食べながら話をしていた。
「本当にわしがいらん事をせんかったら、こんな事にならんかったのに……」
先代の庄屋さんはおサエを見ながら俯き加減で話すと、
「ほんなん今言ってもしょうがないですよ。それより二人が早いとこ吾作の所へ行けるのを祈りましょう」
と、与平は言った。すると和尚さんは、
「ん~……ほいでもわしが話したその場所が、確実とは限らんでなあ。かと言って、他に思いつかんのだが」
若干自信なさげに話すので、おタケが突っ込んだ。
「え? 違うかもしれんトコに、彦ニイと権兵衛、向かっとるの? ほんなんお代官様のトコ行って、まっと探してもらった方がよくないかん?」
「あ~、いや、代官様のトコはよく行っとるが、ホントに吾作の事に関しては協力する気はないわ。あんだけの事されたもんで、むしろざまみろぐらいになっとる」
与平がそう言うと、
「う~ん……」
一同は頭を抱えた。しかしおタケが与平に詰め寄った。
「いや、ほんでもさあ、おサエの事はどえらい気に入っとったじゃんかあ。ほいだもんで、おサエの事を話したら、協力してくれへんかん?」
「まあ、確かにほかもしれんな。明日、代官様んトコへ行くか」
それはいい考えかもしれないと、与平は答えた。するとおサエのお母さんが話を変えた。
「ねえねえ。ほれはいいだけど、権兵衛と彦ニイが行ったトコってどんだけ遠いの? 今日は着かんのだら?」
「ん~……ほだなあ。山の奥の奥でなあ。本宮山ってあるだらあ? あっちの方なんだわ。ほりゃ昔はその寺は地元の人が山を登るとご利益があるっつって栄えとったらしいだけど、まあずいぶん前にそこの住職さんが亡くなってからは、ご利益もなくなったのか誰も行かんくなってすっかり荒れ果ててるって話でな。そんな場所、あそこしかこの辺にはないもんで、よっぽどあそこだと思うだよ。僧の間ではけっこう有名なトコだわ」
和尚さんは説明してくれた。みんなその話を聞いて、
「う~ん……ほんじゃきっとそこだらあなあ」
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