吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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離れた吾作とおサエ

ボロボロの観音様

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 お寺に着いて本堂へ入った二人は、ある見慣れない観音像がある事に気がついた。
 その観音像は妙に古く、所々ボロボロで、片腕は折れているし、長い期間放置されていたように見える。二人はおサエの今の状態を話した後、権兵衛は尋ねた。

「こんなのありましたっけ?」

 すると和尚さんは重い口を開いた。

「ん~……実はな、その観音様は、吾作がおらんくなった次の日に、吾作が布団に包んで持ってきたもんなんだわ。どこの観音様かは教えてくれんかったんだけどな、なんでも、

『使われてないお寺を見つけて、中に入ったら観音様もそのまんまになっとって、かわいそうだもんでそのお寺にあった布団でくるんで持ってきた』

っつっとったわ」

「ほ、ほんじゃそこに吾作はおるんじゃ?」

 権兵衛がそう言うと、

「絶対ほだら! 和尚さん。そのお寺、どこにあるだか見当つかんかん?」

と、彦ニイも詰め寄った。

「ん~……、多分だが~……」

 和尚さんはそのお寺があると思われる場所を教えてくれた。
 その場所は、この村からはかなり離れており、一日で行くには難しい場所と思われた。
 そこで二人は、次の日にその場所へ向かう事にした。

 次の日、権兵衛と彦ニイは、家族に事情を話し、吾作がいると思われる廃寺目指して出かけた。
 しかしその前に、おサエの状態が気になった二人は、おサエの家へ寄る事にした。すぐにおサエの家に到着すると彦ニイは、

「おサエ。おるかん?」

と、声をかけた。しかし返事がない。もう一度、

「おサエ?」

と、声をかけたが、やはり返事はない。
 あの状態で畑に行ったとは思えなかった二人は、家の戸を開けて中に入った。
 すると布団に横になっているおサエを見つけた。

「おサエちゃん?」

と、権兵衛が声をかけたが、はやり返事がない。
 これはただ事ではないと思った二人はおサエの枕元まで行った。そして、

「おサエちゃん?」

と、あらためて声をかけた。しかし意識がない。二人は驚いて、

「おサエちゃん! おサエちゃん!」

と、体を揺すりながら声をかけた。すると、

「う……」

と、かすかに生きているのが分かった。二人は慌てておサエを担ぎ、庄屋さんの屋敷へ運び込んだ。
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