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離れた吾作とおサエ
吾作がいなくなった村
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次の日、庄屋さんは代官の屋敷を訪れ、
《吾作が何故、化け物になったのか?》
と、いう経緯もわかる範囲で話した。
庄屋さんは今回の件でお咎めを受けると思っていたのだが、代官は吾作との約束を守り、庄屋さんには何の罰も与えなかった。
そして庄屋さんは、自分の屋敷に帰ると、村の役人達を呼んで、
「わしは庄屋を辞める」
と、言った。
それにはみんな驚いたが、責任を取るという事を考えると、誰も反対する者はいなかった。
代官の屋敷から自分の家に夜遅く帰ってきたおサエは、本来なら今日からまたいっしょに暮らせるはずだった吾作が、永遠に帰ってこない事実を受け入れる事ができなくて、横になっても眠る事もできず、吾作がいつも寝ていた布団をじっと見つめ、
(ウソだ。ウソだ!)
と、布団の中に潜ると一人泣いた。そして気がつけば泣き疲れて寝ていた。
次の日、朝をむかえたが、食欲もなかったし、畑に出る気力もなかったのでお昼過ぎまで横になっていた。
すると家に庄屋さんと、和尚さん、与平がやってきた。
ひどい泣き顔を水で洗ってごまかした後、おサエは三人を家に招いた。すると、
「今回は本当にすまんかった」
そう庄屋さんは言うと、深々と頭を下げた。
「庄屋さんのせいじゃないです。私も吾作の変化を、分かっていなかったところもあったので」
おサエは庄屋さんを慰めた。すると、
「申し訳ないが、村の一軒一軒を回って謝りに行かないか?」
と、誘ってきた。おサエはそれに賛成し、その日から数日かけて村中をお詫び行脚した。
しかしそこで分かった事は、決して吾作は受け入れられていなかったという事実であった。
「吾作はいい奴だけど、やっぱり恐かった」
「正直、いなくなってホッとした」
など、実はみんな、吾作が恐いから吾作の案に乗っかっていただけというのが分かった。
そんな話を毎日聞かされたおサエは、どんどん心を打ちひしがれていった。
さらに追い討ちをかけたのは、自分のお母さんの言葉だった。
「吾作はかわいいけど、やっぱり化け物になってからは恐かった」
おサエは、お母さんは吾作を理解してくれていると思っていたので、とても悲しくなった。
それに吾作が普段から村のみんなと仲良くやっていきたいから頑張っている様子を見てきたので、そんな事を言う村人達がどうしても許せなかった。
その結果、お詫び行脚が終わった後からは、あまり村人達と接しなくなっていった。
それを心配したお母さんが、
「まあ少し村の人達と仲良くしりん」
とは言ってくるのだが、
「吾作はまあ帰って来んもんで、再婚とか考えんといかんよ」
と、いらない一言もつけてくる。それがおサエには耐えられなかった。それもあってお母さんとも距離を置くようになってしまった。
そんな中でも、村では朝になるとなぜか畑の雑草が抜かれていたり、害虫が心なしか少なくなっていたりと、不思議な事が続いていたので、
「これは吾作が来ていろいろやってくれているんだ」
そう吾作をありがたく言う人達も現れた。しかしその行動も、おサエには、
「なんて都合のいい人達なんだ!」
と、火に油を注ぐだけで、おサエはどんどん村の中で孤立していった。それにおサエにはこんな想いもあった。
「何で村の畑や田んぼの整理をしに来てくれてるのに、私の所には戻ってくれないのか?」
これも心を病む原因になった。
そんな心を病んできたおサエを見て、権兵衛や彦ニイはいたたまれなくなり、以前よりもおサエと付き合いをする様になった。
しかしあまりにもおサエは心が病んでしまい、畑にも顔を出せなくなってきた。
「これは本格的にやばいのでは?」
と、心配した権兵衛と彦ニイは和尚さんに相談をしにお寺へ向かった。
気づけばもう季節は秋めいて、米の収穫の時期になっていた。
《吾作が何故、化け物になったのか?》
と、いう経緯もわかる範囲で話した。
庄屋さんは今回の件でお咎めを受けると思っていたのだが、代官は吾作との約束を守り、庄屋さんには何の罰も与えなかった。
そして庄屋さんは、自分の屋敷に帰ると、村の役人達を呼んで、
「わしは庄屋を辞める」
と、言った。
それにはみんな驚いたが、責任を取るという事を考えると、誰も反対する者はいなかった。
代官の屋敷から自分の家に夜遅く帰ってきたおサエは、本来なら今日からまたいっしょに暮らせるはずだった吾作が、永遠に帰ってこない事実を受け入れる事ができなくて、横になっても眠る事もできず、吾作がいつも寝ていた布団をじっと見つめ、
(ウソだ。ウソだ!)
と、布団の中に潜ると一人泣いた。そして気がつけば泣き疲れて寝ていた。
次の日、朝をむかえたが、食欲もなかったし、畑に出る気力もなかったのでお昼過ぎまで横になっていた。
すると家に庄屋さんと、和尚さん、与平がやってきた。
ひどい泣き顔を水で洗ってごまかした後、おサエは三人を家に招いた。すると、
「今回は本当にすまんかった」
そう庄屋さんは言うと、深々と頭を下げた。
「庄屋さんのせいじゃないです。私も吾作の変化を、分かっていなかったところもあったので」
おサエは庄屋さんを慰めた。すると、
「申し訳ないが、村の一軒一軒を回って謝りに行かないか?」
と、誘ってきた。おサエはそれに賛成し、その日から数日かけて村中をお詫び行脚した。
しかしそこで分かった事は、決して吾作は受け入れられていなかったという事実であった。
「吾作はいい奴だけど、やっぱり恐かった」
「正直、いなくなってホッとした」
など、実はみんな、吾作が恐いから吾作の案に乗っかっていただけというのが分かった。
そんな話を毎日聞かされたおサエは、どんどん心を打ちひしがれていった。
さらに追い討ちをかけたのは、自分のお母さんの言葉だった。
「吾作はかわいいけど、やっぱり化け物になってからは恐かった」
おサエは、お母さんは吾作を理解してくれていると思っていたので、とても悲しくなった。
それに吾作が普段から村のみんなと仲良くやっていきたいから頑張っている様子を見てきたので、そんな事を言う村人達がどうしても許せなかった。
その結果、お詫び行脚が終わった後からは、あまり村人達と接しなくなっていった。
それを心配したお母さんが、
「まあ少し村の人達と仲良くしりん」
とは言ってくるのだが、
「吾作はまあ帰って来んもんで、再婚とか考えんといかんよ」
と、いらない一言もつけてくる。それがおサエには耐えられなかった。それもあってお母さんとも距離を置くようになってしまった。
そんな中でも、村では朝になるとなぜか畑の雑草が抜かれていたり、害虫が心なしか少なくなっていたりと、不思議な事が続いていたので、
「これは吾作が来ていろいろやってくれているんだ」
そう吾作をありがたく言う人達も現れた。しかしその行動も、おサエには、
「なんて都合のいい人達なんだ!」
と、火に油を注ぐだけで、おサエはどんどん村の中で孤立していった。それにおサエにはこんな想いもあった。
「何で村の畑や田んぼの整理をしに来てくれてるのに、私の所には戻ってくれないのか?」
これも心を病む原因になった。
そんな心を病んできたおサエを見て、権兵衛や彦ニイはいたたまれなくなり、以前よりもおサエと付き合いをする様になった。
しかしあまりにもおサエは心が病んでしまい、畑にも顔を出せなくなってきた。
「これは本格的にやばいのでは?」
と、心配した権兵衛と彦ニイは和尚さんに相談をしにお寺へ向かった。
気づけばもう季節は秋めいて、米の収穫の時期になっていた。
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