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吸血鬼 吾作とおサエの生活
許されない
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目の前に生きていると現れた吾作を見た村人達は、まだ混乱して理解が出来ておらず、何と声をかけていいのか分からなくなっていた。
吾作は土下座を終えて立つと、くるりと代官達に体を向け、
「さて……、わしは本気出せばこのくらい出来るんですわ。まあいい加減、危ない事はやめましょうよ」
と、両手を自分の服に包まれほぼ裸の代官に話し始めた。その言葉を受け、代官は頭に血がのぼった。
「お、おまえ! だ、誰に物を言っとるんだ! わしはここの代官だぞ!」
「あ、いやいや、分かってますよ。お代官様なのはっ。でも最初にわしに矢を射ってきたのはそちらでしょ? わし、死ぬトコだったんですよ。ほりゃわしだってこれくらいしますって」
「何だと~~~~! 貴様! 貴様は化け物なんだから退治されて当然だらあがあ~~~!」
この代官の言葉に吾作はカチンときた。
「ちょ、ちょっと待ちん。わしの何をお代官様は知っとるだん! 化け物化け物って! ほりゃちょっとひどくないかん? わし、何かしたかん?」
吾作は口調が荒くなった。と、同時に、
(こんな奴、殺しちゃいん)
(こんな奴、殺しちゃいん)
と、また声が聞こえた。吾作はその言葉に感化されて代官を仰向けに倒し、その上にまたがって鋭い爪を首筋にあてた。
「おまえ、まあ殺すぞ!」
吾作は代官に顔を近づけて言った。その時おサエが叫んだ。
「ご、吾作! やめて!」
「うるさい! 黙っとりん!」
吾作は顔を上げる事もなく、代官を見つめたまま怒鳴った。その言葉におサエをはじめその場にいた全員が、身体をこわばらせた。
しかしそのやり取りのおかげで、吾作は少し我に返った。そして代官に向かって、静かに話し始めた。
「ええかん。わし、本当はあんたを殺したいとか、そんなんはないんだて。ただわしは、みんなと楽しく村で暮らしたいだけなんだて。ほいだもんで、わしにした事や、こ、今回の事、全部なかった事にしてくれんかん? わしだってこんな事をしたい訳じゃないだでさあ。な、ええだら?」
「な、何だと? こんな事しておいて、わしに忘れろっつーのかん?」
「なんだん。やっぱり殺してほしいだかん?」
まだ怒っている代官の目を吾作は覗き込むように言った。
代官はその人ではない目を見て、だんだん恐怖の感情が湧き上がり、身体中が震えてきた。
「……わ、分かった! 分かった! 今回の事は全てなしにしたる! ほいだで早よどきん!」
代官は何とか声に出して言った。その言葉を聞いた吾作は、代官から離れると、
「ホント? ほりゃえがったわ♪ みんな、今日の事は全てお咎めなしだって~!」
と、村人達に向かって笑顔で言った。
しかし村人達はその場から動く事もなく、また吾作にたいする返事もせず、ただ顔をこわばらせながら吾作と代官を見つめていた。
「ど、どうしたの?」
吾作が村のみんなに問いただすと、
「……お、おまえは吾作じゃねえ」
「おまえ誰だっっ!」
村のみんなは言い始めた。
「え?」
吾作は不安の表情を浮かべたが、そんな事はお構いなしで、
「ご、吾作がそんな恐ろしい事、する訳がないわ」
と、また言われてしまった。彦ニイも、
「お.おまえ……だ、誰だ? 吾作を返せや!」
と、言うと、
「ほだ! 吾作を返せ~!」
「ほだほだ~!」
村人達は更に騒ぎ始めた。
全く予想のしていない事態に吾作は狼狽えた。
まさかそんな感じに村のみんながなるとは、予想だにしていなかったのだ。
吾作は和尚さんや与平を見たが、二人とも苦い顔をしてこちらを見ている。庄屋さんもどうしたらいいのか分からない様子でこちらを見ている。
吾作はおサエの顔を見た。おサエは玉のような涙をぼろぼろ出し、手も震えながらとても不安そうにこちらを見ている。吾作はこの状況をどうしていいのかさっぱり分からなかった。
その様子を見た代官はニヤリと笑った。
「ほれ。やはりおまえは化け物なのだ。おまえの言う通り、今回の事はなかった事にしてやる。しかしもう村にも戻れまい。このまま消えるがいいぞ」
しかし吾作はまだ村のみんなと仲良くなれると思っていた。
「な、なあっ、みんなっっ。わ、わしだってこんな事やりたくてやっとる訳じゃないだよっ! だいたい最初に矢を射って来たのはこの人達だらあ!」
「ほいだからって、吾作はほんな事せんて! 吾作はまっと優しいヤツで、人様を殺すとか! そんな事自体言わんわ! でもおまえは言っただらあ! おまえは絶対吾作じゃねえわ! 早よ吾作を返しん!」
と、彦ニイが叫んだ。
「ほだほだ! 吾作はほんなんじゃないわ!」
「吾作を返しん!」
もう村人達は吾作を化け物としか見ていない。村人の二、三人は代官達の近くへ行くと、
「だ、大丈夫かん?」
と、縛られた両手をほどきにかかった。
吾作はただ狼狽えた。友達の権兵衛も、目に涙を浮かべながら、首を横に振っていた。
「ほ、ほんな……ほんな……わしは、わ、わしは何もんなんだ……」
吾作はそう言うと、大粒の涙を流し始めた。
「わ、わしがおらん方が、いいっつー訳だな?
わ、わしはみんなの邪魔をしとっただな?
わしは、みんなに迷惑かけとったっつー事だな?
わ、分かったわっっ。ほ、ほんならわしは、今日で村を去るわ! ほ、ほいでいいんだら?」
吾作は涙声で叫んだ。その言葉に、
「は、早まらんで! ご、吾作っっ!」
おサエは叫んだが、
「おサエちゃん……ごめん……」
吾作はおサエに謝った。そして代官に言った。
「お代官様、ほんじゃ今回の件はなかった事にするっつーのをちゃんと守って下さいね。もしその約束を破ったら、ただじゃ済まさんでね」
「わしだって約束ぐらい守るわ!」
代官は大声で叫んだ。その言葉を聞いた吾作は、
「ほ、ほんじゃあ皆さん、さようなら」
と、涙声で言うと、その場で飛び上がり、巨大なコウモリに変化して夜空へ飛んで行ってしまった。
「ご、吾作ーーーーーーーーーーーーー!」
おサエは夜空に向かって叫んだが、決して吾作は戻っては来なかった。
吾作は土下座を終えて立つと、くるりと代官達に体を向け、
「さて……、わしは本気出せばこのくらい出来るんですわ。まあいい加減、危ない事はやめましょうよ」
と、両手を自分の服に包まれほぼ裸の代官に話し始めた。その言葉を受け、代官は頭に血がのぼった。
「お、おまえ! だ、誰に物を言っとるんだ! わしはここの代官だぞ!」
「あ、いやいや、分かってますよ。お代官様なのはっ。でも最初にわしに矢を射ってきたのはそちらでしょ? わし、死ぬトコだったんですよ。ほりゃわしだってこれくらいしますって」
「何だと~~~~! 貴様! 貴様は化け物なんだから退治されて当然だらあがあ~~~!」
この代官の言葉に吾作はカチンときた。
「ちょ、ちょっと待ちん。わしの何をお代官様は知っとるだん! 化け物化け物って! ほりゃちょっとひどくないかん? わし、何かしたかん?」
吾作は口調が荒くなった。と、同時に、
(こんな奴、殺しちゃいん)
(こんな奴、殺しちゃいん)
と、また声が聞こえた。吾作はその言葉に感化されて代官を仰向けに倒し、その上にまたがって鋭い爪を首筋にあてた。
「おまえ、まあ殺すぞ!」
吾作は代官に顔を近づけて言った。その時おサエが叫んだ。
「ご、吾作! やめて!」
「うるさい! 黙っとりん!」
吾作は顔を上げる事もなく、代官を見つめたまま怒鳴った。その言葉におサエをはじめその場にいた全員が、身体をこわばらせた。
しかしそのやり取りのおかげで、吾作は少し我に返った。そして代官に向かって、静かに話し始めた。
「ええかん。わし、本当はあんたを殺したいとか、そんなんはないんだて。ただわしは、みんなと楽しく村で暮らしたいだけなんだて。ほいだもんで、わしにした事や、こ、今回の事、全部なかった事にしてくれんかん? わしだってこんな事をしたい訳じゃないだでさあ。な、ええだら?」
「な、何だと? こんな事しておいて、わしに忘れろっつーのかん?」
「なんだん。やっぱり殺してほしいだかん?」
まだ怒っている代官の目を吾作は覗き込むように言った。
代官はその人ではない目を見て、だんだん恐怖の感情が湧き上がり、身体中が震えてきた。
「……わ、分かった! 分かった! 今回の事は全てなしにしたる! ほいだで早よどきん!」
代官は何とか声に出して言った。その言葉を聞いた吾作は、代官から離れると、
「ホント? ほりゃえがったわ♪ みんな、今日の事は全てお咎めなしだって~!」
と、村人達に向かって笑顔で言った。
しかし村人達はその場から動く事もなく、また吾作にたいする返事もせず、ただ顔をこわばらせながら吾作と代官を見つめていた。
「ど、どうしたの?」
吾作が村のみんなに問いただすと、
「……お、おまえは吾作じゃねえ」
「おまえ誰だっっ!」
村のみんなは言い始めた。
「え?」
吾作は不安の表情を浮かべたが、そんな事はお構いなしで、
「ご、吾作がそんな恐ろしい事、する訳がないわ」
と、また言われてしまった。彦ニイも、
「お.おまえ……だ、誰だ? 吾作を返せや!」
と、言うと、
「ほだ! 吾作を返せ~!」
「ほだほだ~!」
村人達は更に騒ぎ始めた。
全く予想のしていない事態に吾作は狼狽えた。
まさかそんな感じに村のみんながなるとは、予想だにしていなかったのだ。
吾作は和尚さんや与平を見たが、二人とも苦い顔をしてこちらを見ている。庄屋さんもどうしたらいいのか分からない様子でこちらを見ている。
吾作はおサエの顔を見た。おサエは玉のような涙をぼろぼろ出し、手も震えながらとても不安そうにこちらを見ている。吾作はこの状況をどうしていいのかさっぱり分からなかった。
その様子を見た代官はニヤリと笑った。
「ほれ。やはりおまえは化け物なのだ。おまえの言う通り、今回の事はなかった事にしてやる。しかしもう村にも戻れまい。このまま消えるがいいぞ」
しかし吾作はまだ村のみんなと仲良くなれると思っていた。
「な、なあっ、みんなっっ。わ、わしだってこんな事やりたくてやっとる訳じゃないだよっ! だいたい最初に矢を射って来たのはこの人達だらあ!」
「ほいだからって、吾作はほんな事せんて! 吾作はまっと優しいヤツで、人様を殺すとか! そんな事自体言わんわ! でもおまえは言っただらあ! おまえは絶対吾作じゃねえわ! 早よ吾作を返しん!」
と、彦ニイが叫んだ。
「ほだほだ! 吾作はほんなんじゃないわ!」
「吾作を返しん!」
もう村人達は吾作を化け物としか見ていない。村人の二、三人は代官達の近くへ行くと、
「だ、大丈夫かん?」
と、縛られた両手をほどきにかかった。
吾作はただ狼狽えた。友達の権兵衛も、目に涙を浮かべながら、首を横に振っていた。
「ほ、ほんな……ほんな……わしは、わ、わしは何もんなんだ……」
吾作はそう言うと、大粒の涙を流し始めた。
「わ、わしがおらん方が、いいっつー訳だな?
わ、わしはみんなの邪魔をしとっただな?
わしは、みんなに迷惑かけとったっつー事だな?
わ、分かったわっっ。ほ、ほんならわしは、今日で村を去るわ! ほ、ほいでいいんだら?」
吾作は涙声で叫んだ。その言葉に、
「は、早まらんで! ご、吾作っっ!」
おサエは叫んだが、
「おサエちゃん……ごめん……」
吾作はおサエに謝った。そして代官に言った。
「お代官様、ほんじゃ今回の件はなかった事にするっつーのをちゃんと守って下さいね。もしその約束を破ったら、ただじゃ済まさんでね」
「わしだって約束ぐらい守るわ!」
代官は大声で叫んだ。その言葉を聞いた吾作は、
「ほ、ほんじゃあ皆さん、さようなら」
と、涙声で言うと、その場で飛び上がり、巨大なコウモリに変化して夜空へ飛んで行ってしまった。
「ご、吾作ーーーーーーーーーーーーー!」
おサエは夜空に向かって叫んだが、決して吾作は戻っては来なかった。
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