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吸血鬼 吾作とおサエの生活
隣村までの道中
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隣村の庄屋さんの屋敷までは歩いて一時間ぐらいかかる。
日も暮れ、夜がどっぷりと深くなったこの時間から、吾作は与平と二人で歩いていくのは中々気まずいものがあった。
と、言うのも吾作のネズミ捕りに与平の名前が上がっていないからである。ただでさえ最近あまりいい付き合いが出来ていないと吾作は思っていたのに、ネズミ捕りも断られたみたいで、ちょっとそれが引っかかっていた。
しかし、それを本人に聞いてみる勇気もなかった。
与平は与平で、今までいろんな気遣いをして庄屋の懐に入り込んで、村の中でもいい位置に着けれたと思っていたのに、ちょっと前までバカにしてた弟分のような存在だった吾作が、化け物になったとはいえ、今や村に欠かせない存在になっていくのが全く面白くなかったのだ。
そんな二人だったので、歩き始めてしばらくは全く会話などする訳がなかった。
そんな気まずい雰囲気の中歩いていると、吾作はふとまだ一匹もネズミの血を飲めていない事に気がついた。
「あ、よ、与平ごめん。ちょっとネズミ捕ってくる」
吾作は断りを入れると、与平の返事を待たずしてスッと与平の目の前からいなくなった。
「何だあいつ……」
与平はぼやいた。するとすぐに暗闇の奥の方で、
ガサガサ。ガ! バキッ!
と、何かの動物がどうかなった様な音が聞こえ、その音に与平は、ビクッ! と、驚いた。そして次の瞬間、目の前に吾作が現れた。
「ただいま」
与平はまた驚き、
「ヒャ!」
と、声を出すと同時に尻もちをついた。驚かすつもりのなかった吾作も驚いた。
「あ、ごめん。お、驚かせた?」
「おまえ、まあちょい普通に現れれんのかん!」
「ごめん」
吾作は謝ったが、実は吾作からすると普通に動いているだけなので、どうすればいいか自分でも分かっていなかった。
その困った顔を提灯の灯りの中見た与平は、
「はあ~」
と、ため息を吐くと、
「なあ吾作。おまえはいいな。これで出世出来るで」
半ば呆れたような情けないような声で吾作に話してきた。そんな事をいきなり言われた吾作は、
「は?」
と、しか答えられなかった。何せ吾作にそんな欲などなく、思った事すらなかったからである。しかし与平はその「は?」と、いう返事にイラっとした。
「は? じゃねえわ。おまえ本当に全然そういう事思わへんのな。わしはどえらい出世したいと思っとるのに、何でおまえはサッサとわしを追い抜いて庄屋さんに気に入られて。
わしがどんだけ庄屋さんに気に入られるのに時間がかかったと思っとるだん! わしに、わしにおまえと同じ力があったら、サッサと村の長になってやるのに! わしはおまえのその力が羨ましいわ!」
与平は気づけば大声で怒鳴っていた。吾作は驚きながらも、
(何でそんな事言われないといけない?)
と、頭に来だしたが、
「庄屋のバカヤロー! くそ~!」
一人で大暴れしながら近くの草を蹴りまくる与平を見て、吾作はかわいそうに思えてきた。
その時の与平は自分の不甲斐なさに落ち込み、まるで子供のように今にも泣きそうな顔をしていた。
そして暴れるのもひと段落すると、与平は冷静になったのか恥ずかしくなったのか吾作に謝ってきた。
「……すまん」
「い、いいよ……ほんでも少し分かってほしい事があるわ……わし、わしは、ほんな出世とか興味はあ~へんけど、おサエちゃんとずっと一緒におりたいとは思っとる。
ほんでも最近、最近な、わしの化け物がたまに顔を出すんだわ。何か自分の中で化け物が大きくなってきとる気がする……だから与平。絶対にわしみたいな化け物になりたいとか言わんでほしい。その言葉は、わしがイラつく」
そう言うと、吾作は自分の化け物になった手を、与平の顔のまん前まで出して見せた。
「こんな化け物になって、いい事なんか、何もあ~へん」
与平は吾作のその手をまじまじと見て、ゴクリと喉を鳴らした。そして吾作の顔を見た。その顔は、明らかに人の顔ではなかった。その顔を見た与平はあまりの恐怖に足がブルブルに震えてきて、
「す、すまんかった……」
と、しか言えなかった。しばらく無言の状態が続き、隣村へ向かって歩き始めた。
しかし与平は先程の吾作の話で、どうにも気になった事があり、少し恐かったが聞くことにした。
「ご、吾作、おまえさっき、自分の中の化け物が顔を出すっつったけど、それはどういう事だん?」
「う、うん……わ、わしもよう分からんのだけど、何かお寺とか、和尚さんの顔を見ると、最近やたらとムカついて殺すとまでは言わんけど、何かすんごく嫌な気分になるんだて。
前はあんなに大好きだったのに……今日もおサエちゃんと和尚さんの話が出ただけで、すんごく頭に来て……わし、わし、どうなっちゃったのか……」
「それが抑えれんくなって来とるんだな?」
「うん……」
「それは困ったな……」
吾作の症状を聞いた与平だったが、どうしたらいいのか分からず、その後は無言になり、そのまま隣村まで歩いて行った。
日も暮れ、夜がどっぷりと深くなったこの時間から、吾作は与平と二人で歩いていくのは中々気まずいものがあった。
と、言うのも吾作のネズミ捕りに与平の名前が上がっていないからである。ただでさえ最近あまりいい付き合いが出来ていないと吾作は思っていたのに、ネズミ捕りも断られたみたいで、ちょっとそれが引っかかっていた。
しかし、それを本人に聞いてみる勇気もなかった。
与平は与平で、今までいろんな気遣いをして庄屋の懐に入り込んで、村の中でもいい位置に着けれたと思っていたのに、ちょっと前までバカにしてた弟分のような存在だった吾作が、化け物になったとはいえ、今や村に欠かせない存在になっていくのが全く面白くなかったのだ。
そんな二人だったので、歩き始めてしばらくは全く会話などする訳がなかった。
そんな気まずい雰囲気の中歩いていると、吾作はふとまだ一匹もネズミの血を飲めていない事に気がついた。
「あ、よ、与平ごめん。ちょっとネズミ捕ってくる」
吾作は断りを入れると、与平の返事を待たずしてスッと与平の目の前からいなくなった。
「何だあいつ……」
与平はぼやいた。するとすぐに暗闇の奥の方で、
ガサガサ。ガ! バキッ!
と、何かの動物がどうかなった様な音が聞こえ、その音に与平は、ビクッ! と、驚いた。そして次の瞬間、目の前に吾作が現れた。
「ただいま」
与平はまた驚き、
「ヒャ!」
と、声を出すと同時に尻もちをついた。驚かすつもりのなかった吾作も驚いた。
「あ、ごめん。お、驚かせた?」
「おまえ、まあちょい普通に現れれんのかん!」
「ごめん」
吾作は謝ったが、実は吾作からすると普通に動いているだけなので、どうすればいいか自分でも分かっていなかった。
その困った顔を提灯の灯りの中見た与平は、
「はあ~」
と、ため息を吐くと、
「なあ吾作。おまえはいいな。これで出世出来るで」
半ば呆れたような情けないような声で吾作に話してきた。そんな事をいきなり言われた吾作は、
「は?」
と、しか答えられなかった。何せ吾作にそんな欲などなく、思った事すらなかったからである。しかし与平はその「は?」と、いう返事にイラっとした。
「は? じゃねえわ。おまえ本当に全然そういう事思わへんのな。わしはどえらい出世したいと思っとるのに、何でおまえはサッサとわしを追い抜いて庄屋さんに気に入られて。
わしがどんだけ庄屋さんに気に入られるのに時間がかかったと思っとるだん! わしに、わしにおまえと同じ力があったら、サッサと村の長になってやるのに! わしはおまえのその力が羨ましいわ!」
与平は気づけば大声で怒鳴っていた。吾作は驚きながらも、
(何でそんな事言われないといけない?)
と、頭に来だしたが、
「庄屋のバカヤロー! くそ~!」
一人で大暴れしながら近くの草を蹴りまくる与平を見て、吾作はかわいそうに思えてきた。
その時の与平は自分の不甲斐なさに落ち込み、まるで子供のように今にも泣きそうな顔をしていた。
そして暴れるのもひと段落すると、与平は冷静になったのか恥ずかしくなったのか吾作に謝ってきた。
「……すまん」
「い、いいよ……ほんでも少し分かってほしい事があるわ……わし、わしは、ほんな出世とか興味はあ~へんけど、おサエちゃんとずっと一緒におりたいとは思っとる。
ほんでも最近、最近な、わしの化け物がたまに顔を出すんだわ。何か自分の中で化け物が大きくなってきとる気がする……だから与平。絶対にわしみたいな化け物になりたいとか言わんでほしい。その言葉は、わしがイラつく」
そう言うと、吾作は自分の化け物になった手を、与平の顔のまん前まで出して見せた。
「こんな化け物になって、いい事なんか、何もあ~へん」
与平は吾作のその手をまじまじと見て、ゴクリと喉を鳴らした。そして吾作の顔を見た。その顔は、明らかに人の顔ではなかった。その顔を見た与平はあまりの恐怖に足がブルブルに震えてきて、
「す、すまんかった……」
と、しか言えなかった。しばらく無言の状態が続き、隣村へ向かって歩き始めた。
しかし与平は先程の吾作の話で、どうにも気になった事があり、少し恐かったが聞くことにした。
「ご、吾作、おまえさっき、自分の中の化け物が顔を出すっつったけど、それはどういう事だん?」
「う、うん……わ、わしもよう分からんのだけど、何かお寺とか、和尚さんの顔を見ると、最近やたらとムカついて殺すとまでは言わんけど、何かすんごく嫌な気分になるんだて。
前はあんなに大好きだったのに……今日もおサエちゃんと和尚さんの話が出ただけで、すんごく頭に来て……わし、わし、どうなっちゃったのか……」
「それが抑えれんくなって来とるんだな?」
「うん……」
「それは困ったな……」
吾作の症状を聞いた与平だったが、どうしたらいいのか分からず、その後は無言になり、そのまま隣村まで歩いて行った。
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