吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吸血鬼 吾作とおサエの生活

庄屋さんの頼み事

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 庄屋さんの屋敷の前に吾作と権兵衛はやってきた。すると与平が待っており、前回通された大広間に今回も通された。
 大広間の奥の方に広い机が今回も置いてあり、今回も上座に庄屋さんが座って待っていた。
 庄屋さんは吾作と権兵衛が部屋に入ってくると、

「お! 待っとったぞ! はよ、こっち来い!」

と、前回とは違い、気さくに声をかけてきた。
 二人は庄屋さんの言う通りに庄屋さんの座っている対面の下座に座った。与平はまた部屋には入って来なかったが、

「おい、与平。おまえも入ってこい」

 庄屋さんが声をかけたので、与平も吾作の隣に座った。庄屋さんはニコニコしながら話し始めた。

「いや、こないだはよくやったな。ぐうの音も出んかったわ。ほんでな、次の日に和尚もウチにやって来て、おまえの事情を詳しく話してくれてな、ついでに謝ってもくれたわ。まあ和尚にまで謝られたらわしも何も言えんわ。あ、ほんでな、今回は頼みがあって呼んだんだが、軽く話は聞いただら?」

「あ、わしが簡単に話しました」

 権兵衛が返事をした。庄屋さんは続けて話を始めた。

「よし。隣の村の庄屋さんが、ぜひウチの村でもネズミ捕りをしてほしいって言ってきてな。あ、吾作。おまえのそのネズミ捕りと、こないだの一晩で稲を全部植えた話、どえらいそこら中に広がっとるに! 隣の隣の村とかまで噂が広まっとるみたいだで! わし、なんか鼻が高くなっちまったわ。
 あ、話戻さんとな。ほんで『頼めんかなあ』って、言われたもんでつい、『ほいじゃ向かわせる』っつっちゃったんだわ。ほんでホントに悪いんだけど、吾作、隣村の庄屋さんトコまで行ってきてくれんか? まずは庄屋さんトコをやってどんなんか見て今後は決めたい。っつっとるで、悪いが頼むわ」

 これだけの事を一気に言われた吾作は、若干内容が入ってなかったが、

「は、はい」

と、返事はした。庄屋さんは喜んだがふと思い出したように尋ねてきた。

「ほいでも吾作、おまえ、隣村の庄屋さんの屋敷、どこか分かるんか?」

「え、分かんないです」

「あ、わし分かります」

「ほか。ほいじゃええな。権兵衛と一緒に行きん」

 吾作は隣村の庄屋さんの家なんて知るわけがないと思ったが、横に権兵衛がいてくれてホッとした。それに権兵衛といっしょに行くのは楽しそうだ。
 しかし庄屋さんは思い出したように、

「あ、いやいやあかんわ、悪い権兵衛。与平。おまえに隣村の庄屋のトコまで行ってもらおうと思っとったんだったわ。ほいでこの手土産、持ってきん」

と、与平に言うと、机の下に置いてあった菓子折りの入った風呂敷を手渡した。

「え? わしですか?」

 与平は一瞬戸惑ったが、庄屋さんに何か考えがあるのだろう。と、思うことにした。
 吾作はせっかく権兵衛と一緒に楽しく仕事ができると思ったのに、与平に変わって幾分かガッカリした。権兵衛もちょっと戸惑っていた。しかし与平は顔色一つ変えず、

「分かりました。ほいじゃ今から行くか」

 そう吾作に言うと、与平は立ち上がった。権兵衛もその言葉にビックリした。

「え? 今から?」

 吾作は戸惑った。すると庄屋さんは、

「ほだよ。今から」

と、にこやかに答えた。これを聞いた権兵衛は内心ホッとした。そして吾作に、

「吾作、ほいじゃ気をつけてな」

と、ニコニコとっといたずらな顔を吾作に見せた。

「ゔ~……」

 吾作は言葉にならない声を出した。
 そんな訳で心の準備も出来ないまま、吾作は与平と隣村の庄屋さんの所へ出かけていった。
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