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吸血鬼 吾作とおサエの生活
庄屋さんからの呼び出し
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吾作は暗闇の中にいた。その暗闇は、だんだんと木の枝のように変わり、吾作に向かって襲ってきた。
吾作は特に恐がる事もなくその木の枝を払い除けたのだが、その木の枝が今度はどんどんと赤く染まってきた。
すると、吾作の足元も、その木の枝の間の空間も、何もかもがどんどん赤く染まっていき、ついには目に見える場所すべてが真っ赤に染まった。
吾作はこれにはとても驚き、
「ど、どしたらいい?」
と、つい独り言を発した。すると、
ポタ。
ポタ。ポタ。
何かが降ってきた。
吾作は手に何かが当たった感触があったので、その手を見ると、血のような液体がついている。
吾作はついその赤い物を舐めるとやはりそれは血だった。
「あ~! 美味しい~~!」
吾作は大喜びして上を見上げ、大きく口を開けて、
「まっと血ぃ~! 降ってくれ~!」
吾作ははしゃいだ。すると遠くから聞きなれない声がし始めた。
[やはりあの男は化け物だ。やつはもう人ではない。経を唱えて成仏させなければ]
「え?」
吾作は戸惑い周りを見た。
真っ赤に染まっている地平線の先が何やら少しだけ光っている。そしてその光は徐々に輝きを増していった。
さらにその輝きと同時に、無数の声のお経のようなものが聞こえてきた。
「な! ヤバい!」
吾作は慌ててその輝きの反対方向に逃げ始めた。すると、
[やはりあの男は化け物だ。その証拠に逃げ始めた。これは放っておけぬ。お経で確実に成仏させねば]
お経のようなものに混じってそんな言葉が聞こえてきた。吾作は、
「わ、わしだってっ! 逃げたくて逃げとる訳じゃないわ~! その光とお経で身体が燃えちゃうで逃げるしかないんだわ~!」
と、逃げながら大声でその声に言い返した。しかしそんな事はお構いなしに、どんどんお経のようなものの声は大きくなり、
[成仏]
[成仏]
耳が割れそうな程の大声が吾作を包みこみ、それと同時に眩いばかりの輝きが吾作を包んだ。
「うわああああああああああああ~!」
吾作は目を覚ました。ここは自分の家で、いつもの布団だ。
あ~よかった。何だかとっても恐ろしい夢を見た気がする。しかし思い出せない。でも何だか自分が自分でなくなりそうな、そんな恐い夢だった気がする……
そんな事を思いながら土間の方へ目をやると、おサエが夕飯を作っていた。
そのいつもの風景を見て吾作は心の底から安心した。
「おはよ♪」
「あ、おはよ~」
吾作のあいさつにおサエは返事をかえしたが、どこかおかしい。
「何かあった?」
と、吾作は聞くと、おサエは少し躊躇しながらこう言った。
「あのねえ吾作。ちょっと困った事が起こってねえ。権兵衛が言っとっただけど……お寺にどうやらネズミが集まっとるみたいで、和尚さんが困っとるみたいじゃんねえ」
それを聞いた吾作は、
「ええ? お寺のネズミ?」
何故か吾作は自分でも分からないが、とてもお寺に嫌悪感を持った。それが態度と言葉に思いっきり出た。それを見たおサエは、
(やっぱりダメかなあ~)
と、思いつつ、
「難しいかもしれんけど、何とかならん?」
と、聞いてみた。しかし、
「ほんなん無理だて~」
吾作はあからさまに断固拒否した。しかしすぐに、
「あ」
と、吾作は声を出して考え込んだ。吾作には少し思い当たる事があったのだ。おサエはつかさず聞いた。
「何? 何かあんの?」
「あ、いや、ネズミ、ネズミね。最近、家を回ってもあんまり捕れんくなっとったんだわ。だからわしは、てっきりまあ全部退治しちゃったんかなあ~……って。で、でもほんなトコにネズミは避難しとったんだねえ」
「へえ~」
吾作の妙に納得した表情におサエも一緒になって感心し始めたが、そういう事じゃない。
「いやいや、吾作! ほんなん吾作もちょっと関係あるじゃん! 何とかできん?」
「えええ~! ほんなん言われても~! ほりゃ少し責任感じるけど、お寺さんの中だらあっ! 無理だてえ~」
吾作はおサエのお願いをあっさり断った。おサエは少しガッカリした。
「ほうか、ダメかん。吾作はまあちょっと考えてくれると思っとったんだけど……」
「まあ~勘弁してよ~! わしお寺も和尚さんの顔も全く見たくないんだで~!」
吾作はつい本音を出してしまった。それを聞いたおサエはカチンときた。
「何て事言うだん! あんなにお世話になったのに! 分かったわ! 和尚さんに何か無理っぽいって伝えとくでね!」
「ほ、ほんな怒らんでよ。わしだって出来ん事あるだで~っっ」
吾作は(やらかした)と、思った。つい本音を出しておサエを怒らせてしまった。
しかし実際、吾作にはどうしていいか分からなかったし、どうしようもなかった。それにやっぱりお寺には嫌悪感があるので、近づきたくはない。
そんな話をしていると、権兵衛が家にやってきた。
「何かよう分からんのだけど、庄屋さんが、隣村の庄屋さんからネズミ捕りを頼まれたらしいんだわ。詳しい話は聞いとらんだけど、庄屋さんが来いっつっとったもんでな。呼びに来たんだわ。ほいだもんで今から行こまい」
権兵衛はそれだけ言うと外で待ってると言い、家の外に出た。吾作は、
「え? 今から庄屋さんとこ行かんといかんの。何かやだなあ~」
と、愚痴をもらしたが、おサエはまだ怒っていたので、
「さっきから吾作はグチグチうるさいわ! 早よ支度しりん!」
「わ、分かったわ~っっ」
と、吾作は完全に怒られて、少しオロオロしながら支度をし、権兵衛と庄屋さんの家に向かった。
吾作は特に恐がる事もなくその木の枝を払い除けたのだが、その木の枝が今度はどんどんと赤く染まってきた。
すると、吾作の足元も、その木の枝の間の空間も、何もかもがどんどん赤く染まっていき、ついには目に見える場所すべてが真っ赤に染まった。
吾作はこれにはとても驚き、
「ど、どしたらいい?」
と、つい独り言を発した。すると、
ポタ。
ポタ。ポタ。
何かが降ってきた。
吾作は手に何かが当たった感触があったので、その手を見ると、血のような液体がついている。
吾作はついその赤い物を舐めるとやはりそれは血だった。
「あ~! 美味しい~~!」
吾作は大喜びして上を見上げ、大きく口を開けて、
「まっと血ぃ~! 降ってくれ~!」
吾作ははしゃいだ。すると遠くから聞きなれない声がし始めた。
[やはりあの男は化け物だ。やつはもう人ではない。経を唱えて成仏させなければ]
「え?」
吾作は戸惑い周りを見た。
真っ赤に染まっている地平線の先が何やら少しだけ光っている。そしてその光は徐々に輝きを増していった。
さらにその輝きと同時に、無数の声のお経のようなものが聞こえてきた。
「な! ヤバい!」
吾作は慌ててその輝きの反対方向に逃げ始めた。すると、
[やはりあの男は化け物だ。その証拠に逃げ始めた。これは放っておけぬ。お経で確実に成仏させねば]
お経のようなものに混じってそんな言葉が聞こえてきた。吾作は、
「わ、わしだってっ! 逃げたくて逃げとる訳じゃないわ~! その光とお経で身体が燃えちゃうで逃げるしかないんだわ~!」
と、逃げながら大声でその声に言い返した。しかしそんな事はお構いなしに、どんどんお経のようなものの声は大きくなり、
[成仏]
[成仏]
耳が割れそうな程の大声が吾作を包みこみ、それと同時に眩いばかりの輝きが吾作を包んだ。
「うわああああああああああああ~!」
吾作は目を覚ました。ここは自分の家で、いつもの布団だ。
あ~よかった。何だかとっても恐ろしい夢を見た気がする。しかし思い出せない。でも何だか自分が自分でなくなりそうな、そんな恐い夢だった気がする……
そんな事を思いながら土間の方へ目をやると、おサエが夕飯を作っていた。
そのいつもの風景を見て吾作は心の底から安心した。
「おはよ♪」
「あ、おはよ~」
吾作のあいさつにおサエは返事をかえしたが、どこかおかしい。
「何かあった?」
と、吾作は聞くと、おサエは少し躊躇しながらこう言った。
「あのねえ吾作。ちょっと困った事が起こってねえ。権兵衛が言っとっただけど……お寺にどうやらネズミが集まっとるみたいで、和尚さんが困っとるみたいじゃんねえ」
それを聞いた吾作は、
「ええ? お寺のネズミ?」
何故か吾作は自分でも分からないが、とてもお寺に嫌悪感を持った。それが態度と言葉に思いっきり出た。それを見たおサエは、
(やっぱりダメかなあ~)
と、思いつつ、
「難しいかもしれんけど、何とかならん?」
と、聞いてみた。しかし、
「ほんなん無理だて~」
吾作はあからさまに断固拒否した。しかしすぐに、
「あ」
と、吾作は声を出して考え込んだ。吾作には少し思い当たる事があったのだ。おサエはつかさず聞いた。
「何? 何かあんの?」
「あ、いや、ネズミ、ネズミね。最近、家を回ってもあんまり捕れんくなっとったんだわ。だからわしは、てっきりまあ全部退治しちゃったんかなあ~……って。で、でもほんなトコにネズミは避難しとったんだねえ」
「へえ~」
吾作の妙に納得した表情におサエも一緒になって感心し始めたが、そういう事じゃない。
「いやいや、吾作! ほんなん吾作もちょっと関係あるじゃん! 何とかできん?」
「えええ~! ほんなん言われても~! ほりゃ少し責任感じるけど、お寺さんの中だらあっ! 無理だてえ~」
吾作はおサエのお願いをあっさり断った。おサエは少しガッカリした。
「ほうか、ダメかん。吾作はまあちょっと考えてくれると思っとったんだけど……」
「まあ~勘弁してよ~! わしお寺も和尚さんの顔も全く見たくないんだで~!」
吾作はつい本音を出してしまった。それを聞いたおサエはカチンときた。
「何て事言うだん! あんなにお世話になったのに! 分かったわ! 和尚さんに何か無理っぽいって伝えとくでね!」
「ほ、ほんな怒らんでよ。わしだって出来ん事あるだで~っっ」
吾作は(やらかした)と、思った。つい本音を出しておサエを怒らせてしまった。
しかし実際、吾作にはどうしていいか分からなかったし、どうしようもなかった。それにやっぱりお寺には嫌悪感があるので、近づきたくはない。
そんな話をしていると、権兵衛が家にやってきた。
「何かよう分からんのだけど、庄屋さんが、隣村の庄屋さんからネズミ捕りを頼まれたらしいんだわ。詳しい話は聞いとらんだけど、庄屋さんが来いっつっとったもんでな。呼びに来たんだわ。ほいだもんで今から行こまい」
権兵衛はそれだけ言うと外で待ってると言い、家の外に出た。吾作は、
「え? 今から庄屋さんとこ行かんといかんの。何かやだなあ~」
と、愚痴をもらしたが、おサエはまだ怒っていたので、
「さっきから吾作はグチグチうるさいわ! 早よ支度しりん!」
「わ、分かったわ~っっ」
と、吾作は完全に怒られて、少しオロオロしながら支度をし、権兵衛と庄屋さんの家に向かった。
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