吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吸血鬼 吾作とおサエの生活

吾作、久しぶりに海岸へ行く

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 こんな日々を幾日か過ぎた頃、ネズミ捕りの名前に、おサエのお母さんの名前が出てきた。

 おサエのお母さんは、吾作を子供の頃から知っているので、両親のいない吾作にとっても今やホントのお母さんのような存在だった。
 しかし自分が化け物になってから、まだ一度も会えていなかったので、吾作は恐がられたんじゃないかと心配していたのだ。
 しかしこういった形で会う事が出来るのが分かって吾作はホッとしていた。
 吾作は手土産のたんまりもらった野菜を持っておサエのお母さんの家へさっそく出かけた。

 お母さんの家へ着くと、

「お、お義母さん! ご無沙汰してます~! 吾作です~! あ、あの、今からネズミ捕るでね~。あ、あの、お義母さんはそこにおればええでね。あ、後これお礼に頂いた野菜、ウチじゃ食べきれんで持ってきた~。ここ置いとくでね~」

 吾作は家の入口であいさつをしてさっそくネズミ捕りを始めようとした。すると、おサエのお母さんが、

「は~い」

と、言いながら家の中からゴソゴソ出てきた。そして吾作のすぐ近くまで来てまじまじと眺めながら話してきた。

「おお、吾作~。起きとるトコは初めて見たわ~。えらい事になっちゃったねえ」

「え? お義母さん、わしの寝とる時に見に来てくれとったん?」

「ほだよ。毎日行っとるよ。あんたの寝とる顔、どえらい恐いもんで、声なんかかけれへんだよ~。ほんでも起きとる時は、いつもの吾作だねえ。ちょっと顔色悪いけど」

「ほんな事言わんで~っっ」

 吾作はお母さんに毒つかれたが、こういう事を言ってもらえて少し嬉しかった。

 そしていつものようにネズミ捕りをして、お母さんを驚かした。そしていつものように持っている麻袋にネズミを入れると、

「ほんじゃこれで終わりだで。また何かあったら呼んで♪」

 吾作はごきげんで、おサエのお母さんの家からオオカミに変わりながら次の家へ走って行った。その様子をお母さんは見ながら、

「大変な事になっちゃったねえ……」

と、一言こぼすと、家の中へ戻った。
 そして、吾作の変貌に少し恐怖を感じていた。

 吾作は意気揚々とネズミ捕りをその後二軒ほど終わらせると、麻袋の中のネズミを一匹残らず血を吸い尽くし、首の骨を折って地面に埋めた。
 吾作は毎日、これをしていたが、何回やっても嫌な気分になった。

(毎日こんな事してるけど、これを何とも思わない時なんて来るんだろか? 逆に来たら、その時のわしは正真正銘の化け物かも知れんなあ)

 しかし喉の渇きは満たされたし、実際にはだいぶ満足していた。
 それよりも最近ネズミが以前より捕れなくなっている事が気になっていた。

(自分一人が毎日七、八匹のネズミを捕まえているとはいえ、最近の数の減り方はおかしい気がする。わし、そんなにネズミを殺しちゃったのかなあ?)

 吾作はそんな事を考えていた。そしてこの日のネズミ捕りは終わった。

 ほいじゃあ今日もあのお寺さんに行こうかな……と、吾作は考えたのだが、それよりも少し前から気になる場所があるので、この日はそちらへ向かう事にした。

 そこはあの海岸である。
 久しぶりというのもあるのだが、何故か呼ばれている気がしていたからだった。
 そんな訳で数日振りに海に向かう道をオオカミになって走った。

(前回歩いた時は、おサエと二人で楽しく歩いたけど、まさかこんな事になるなんて思わなかったな。もうおサエちゃんと楽しくお日様の下で散歩がてら歩くなんてないのかな?)

などと、考えてたら少し悲しくなった。そんな事を考えているうちに川沿いまで来て、いつも手を合わせていたお地蔵さんの前まで来た。
 吾作はあんなに手を合わせていたお地蔵さんに何故か嫌悪感を感じ始めているのに気がついた。

(このお地蔵さんにも、もう手は合わせられないな。やっぱり眩しいし、チクチク刺さっていたいし。それに何か分からんけど、このお地蔵さん、こんなやな感じだったかやあ? よう分からんなあ。)

 そんな事を思いながら走っていると、海の近くまで来たが、吾作は普段と変わっている事に気づき、すぐに足を止め、静かに海岸の見える所まで行くと、その様子をうかがった。
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