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吸血鬼 吾作とおサエの生活
夜中の田植え
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玄関まで来た吾作とおサエは、そこで待っていた権兵衛、権兵衛の父親、彦ニイ、長三郎に今あった事を話した。
「え! 田植えを一晩で全部?」
「吾作、おまえほんなん出来んだら?」
「庄屋さんも無茶苦茶言うなあっっ」
三人は自分達も寝坊した手前、庄屋さんの文句も言えず、その無茶振りに困ってしまった。吾作は困り果てて頭が混乱してその場で立ち尽くしていた。しかしおサエは少し考えると、
「私、吾作なら出来ると思うじゃんねえ♪」
と、つぶやいた。
「ええええ!」
と、吾作はじめみんな驚いたが、おサエは続けてこう言った。
「ほいだって、吾作のネズミを捕る速さ考えたら、けっこうすぐ田植え終わらせれると思うだけど。吾作はそう思わんかった?」
「ほ、ほりゃほうかも知れんけど……。村の田植え全部は~……」
吾作はやっぱり消極的に言う。
「吾作なら大丈夫だて! まっと自信持ちん!」
おサエは自信満々で言った。吾作は、
「ええ~っっ。でもわしが出来んかったらおサエちゃんが~……」
「大丈夫!私は吾作を信じとるに!」
おサエは笑顔で吾作の背中をポンと叩いた。権兵衛と彦ニイも、
「ま、まあ、行っといでん。このままここで駄弁っててもしゃーないし」
「ほだよ。とりあえずやっといでん」
と、背中を押した。吾作は、
「う、うん。ほんじゃあ行ってくる」
と、言うと、一瞬のうちに消えてしまった。
吾作は庄屋さんの屋敷を出てすぐ横の苗代(苗をまとめて育てる場所)へ着くと、これまた目にも止まらない速さで苗を取り、田んぼへと向かった。
この時、吾作本人も自分がオオカミに変身してるのでは? と、疑問を持ったが、実際には人のまま、すごい速さで移動できた。
そして田んぼへ着くと苗を植えるために足を田んぼに入れた。この時に吾作は、
(田んぼの中を速く走ったりしたら、泥が舞い上がってめちゃくちゃになっちゃう!)
と、すぐに察した。
(しかし村中の田植えをしなければいけない。これはどうしたら……)
吾作は少し考え込んでしまった。とりあえず田んぼを出た吾作は、田んぼの端っこから苗を植える事にした。
(しかし手の届く範囲では苗を植えるには端っこ過ぎてダメだ。どうしよう)
と、悩みながらも手を少しづつ少しづつ伸ばすと、なんとか苗が植えれた。
「やったーー!」
吾作は喜ぶと、その横の苗も植えれる、その横も植えれる! と、調子に乗って吾作はどんどん苗を植えていった。
こうして田んぼの一番外側をぐるっと一周分、苗を植えた。次にその内側を植えないといけない。
(どうしよう……)
吾作は不安ながらに手を伸ばした。すると不思議な事に一列奥の所に苗を植える事が出来た。
(あ! 植えれるじゃんか!)
嬉しくなった吾作は更に奥のところに手を伸ばした。
(やっぱり植えれるじゃんかあ!)
吾作はもう有頂天になって、どんどん苗を植えていった。そして田んぼの半分くらいを植えたところでようやく吾作は我に帰った。
(あれ? こんなに植えれるのおかしいて。わし、どうなっとるん?)
そこで吾作は恐る恐る自分の体を見てみると……
吾作の体は、上半身を下にする形で宙に浮いているのであった。
「え!」
吾作はびっくりし、我に返ったせいか急に顔から田んぼに落っこちた。
「わ、わし、今、浮いとった! こないだみたいに浮いとった!」
吾作は、完全泥まみれで自分の事を考えたが、当然さっぱり分からないし、のんびり考えてる時間などなかったので、とりあえず今は同じ感じで苗を植える事に集中した。するとやはり体が自然と宙に浮いたので、
(こ、この感じだ! 間違いわ!)
吾作は感覚で宙の浮き方のコツをつかんだ。
こうして次から次へと苗を植える事ができ、田んぼの一面を植え終えた。
「よし! これだわ!」
コツをつかんだ吾作の行動はここから凄まじく速かった。次から次へと田んぼに苗を植えに植え、本当に日が登る前には村中の田んぼの田植えを終えてしまった。
「あ~! 終わった~!」
吾作はとても清々しい気分になった。自分の植えた田んぼをじっくり眺めると、
「おサエちゃんが待っとる!」
と、慌てて庄屋さんの屋敷へ向かった。
「え! 田植えを一晩で全部?」
「吾作、おまえほんなん出来んだら?」
「庄屋さんも無茶苦茶言うなあっっ」
三人は自分達も寝坊した手前、庄屋さんの文句も言えず、その無茶振りに困ってしまった。吾作は困り果てて頭が混乱してその場で立ち尽くしていた。しかしおサエは少し考えると、
「私、吾作なら出来ると思うじゃんねえ♪」
と、つぶやいた。
「ええええ!」
と、吾作はじめみんな驚いたが、おサエは続けてこう言った。
「ほいだって、吾作のネズミを捕る速さ考えたら、けっこうすぐ田植え終わらせれると思うだけど。吾作はそう思わんかった?」
「ほ、ほりゃほうかも知れんけど……。村の田植え全部は~……」
吾作はやっぱり消極的に言う。
「吾作なら大丈夫だて! まっと自信持ちん!」
おサエは自信満々で言った。吾作は、
「ええ~っっ。でもわしが出来んかったらおサエちゃんが~……」
「大丈夫!私は吾作を信じとるに!」
おサエは笑顔で吾作の背中をポンと叩いた。権兵衛と彦ニイも、
「ま、まあ、行っといでん。このままここで駄弁っててもしゃーないし」
「ほだよ。とりあえずやっといでん」
と、背中を押した。吾作は、
「う、うん。ほんじゃあ行ってくる」
と、言うと、一瞬のうちに消えてしまった。
吾作は庄屋さんの屋敷を出てすぐ横の苗代(苗をまとめて育てる場所)へ着くと、これまた目にも止まらない速さで苗を取り、田んぼへと向かった。
この時、吾作本人も自分がオオカミに変身してるのでは? と、疑問を持ったが、実際には人のまま、すごい速さで移動できた。
そして田んぼへ着くと苗を植えるために足を田んぼに入れた。この時に吾作は、
(田んぼの中を速く走ったりしたら、泥が舞い上がってめちゃくちゃになっちゃう!)
と、すぐに察した。
(しかし村中の田植えをしなければいけない。これはどうしたら……)
吾作は少し考え込んでしまった。とりあえず田んぼを出た吾作は、田んぼの端っこから苗を植える事にした。
(しかし手の届く範囲では苗を植えるには端っこ過ぎてダメだ。どうしよう)
と、悩みながらも手を少しづつ少しづつ伸ばすと、なんとか苗が植えれた。
「やったーー!」
吾作は喜ぶと、その横の苗も植えれる、その横も植えれる! と、調子に乗って吾作はどんどん苗を植えていった。
こうして田んぼの一番外側をぐるっと一周分、苗を植えた。次にその内側を植えないといけない。
(どうしよう……)
吾作は不安ながらに手を伸ばした。すると不思議な事に一列奥の所に苗を植える事が出来た。
(あ! 植えれるじゃんか!)
嬉しくなった吾作は更に奥のところに手を伸ばした。
(やっぱり植えれるじゃんかあ!)
吾作はもう有頂天になって、どんどん苗を植えていった。そして田んぼの半分くらいを植えたところでようやく吾作は我に帰った。
(あれ? こんなに植えれるのおかしいて。わし、どうなっとるん?)
そこで吾作は恐る恐る自分の体を見てみると……
吾作の体は、上半身を下にする形で宙に浮いているのであった。
「え!」
吾作はびっくりし、我に返ったせいか急に顔から田んぼに落っこちた。
「わ、わし、今、浮いとった! こないだみたいに浮いとった!」
吾作は、完全泥まみれで自分の事を考えたが、当然さっぱり分からないし、のんびり考えてる時間などなかったので、とりあえず今は同じ感じで苗を植える事に集中した。するとやはり体が自然と宙に浮いたので、
(こ、この感じだ! 間違いわ!)
吾作は感覚で宙の浮き方のコツをつかんだ。
こうして次から次へと苗を植える事ができ、田んぼの一面を植え終えた。
「よし! これだわ!」
コツをつかんだ吾作の行動はここから凄まじく速かった。次から次へと田んぼに苗を植えに植え、本当に日が登る前には村中の田んぼの田植えを終えてしまった。
「あ~! 終わった~!」
吾作はとても清々しい気分になった。自分の植えた田んぼをじっくり眺めると、
「おサエちゃんが待っとる!」
と、慌てて庄屋さんの屋敷へ向かった。
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