吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吸血鬼 吾作とおサエの生活

庄屋さん、無理難題を押し付ける

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 部屋の外の縁側では与平がずっと様子を伺っていた。すると部屋の外に出る話になったので慌てて少し離れ、部屋からは見えない縁側の角に隠れた。ふすまが開くと吾作とおサエと庄屋さんが出てきて、吾作は玄関から草履を持ってきて縁側の外の庭に降りた。

「ほ、ほいじゃ、ネズミ捕ります」

 吾作はちょっと頼りない感じの声を出した。

「ん、早よやりん」

 庄屋さんは、大したことはないだろうと、たかをくくっていたのだ。しかし吾作は一瞬のうちに煙のようになったかと思うと、次の瞬間には両手にネズミを五匹づつ持ってきていた。
 そのあまりの速さに庄屋さんは何が起きたかさっぱり理解出来なかった。しかし吾作がネズミを捕まえてきたと言う事を理解すると、

「ひゃっっ!」

と、声を出してその場で尻もちをついた。庄屋さんは吾作はとんでもない化け物になってしまったと、本能で感じたが(これは使える)とも、思った。
 庄屋さんは、う~む、と、少し考えて縁側に座り直すと、一人「おお!」と、目を輝かせて吾作に話を持ちかけた。

「よし、吾作。これからその力を使って隣村の庄屋や代官の家のネズミ退治をしよまい。そしたら今日の事はなしにしたるわ」

「え! 本当ですか! わし、やります!」

「ほか! ほいじゃさっそくどの屋敷から回るか考えるか♪」

 これをすれば今日の事は許されると有頂天になった吾作と、新しい商売が出来ると思った庄屋さんは、すっかりその気になって相談をし始めた。しかしその話を聞いていたおサエはこの話に疑問を感じ始め、

「あの~……庄屋さん。その話、いいんですけど、でも先に村の人たちのネズミ捕りの話が先に出とるだもんで、そっちをまずはやらんといかんくないですかねえ……」

と、聞いてみた。しかし庄屋さんは、

「ほんなん、あいつらの家やったって金にな~へんだもんでやらんでええわ。それより他の村のネズミ退治して金にした方が全然儲かるて」

と、楽しそうに話し、おサエの考えを否定した。その話に吾作も考え直し、こう言った。

「あ……いや、ま、まあ、ほやほだけど……。でも約束しとるだもんで村の人達からやらんといかんと……」

と、吾作が話してる間に庄屋さんの顔はみるみる赤くなっていき、

「何だ? おまえ! わしの言う事聞けんだかん? おまえが化け物になったもんでこんな事になっとるじゃないだか?
 それとも何か? 今日の分の田植えを一晩でやれるんか? 出来いへんだらあ! ほいだもんでわしの言うこと聞いとりゃいいんだわ~!」

 庄屋さんはこの吾作の反論に顔を真っ赤にしてキレた。吾作とおサエは慌てて、

「ほ、ほんな怒らんでくださいっっ。わしはただ、約束を守りたいと思って言っただけだでっっ」
「ほ、ほですよっっ。ほんとにすんませんでした~!」

 吾作とおサエは慌てて頭を下げた。しかし庄屋さんは二人に意見された事に相当頭に来てしまっており、

「うるさいわ! ほんなん言うんだったら、一晩で田植えをやってみりん! ほいで出来んかったら、わしの言う事を全部聞いてもらうでなあ! 言っとくけどなあ! 今回の事が出来んかったら、おサエ! おまえもうちで奉公してもらうでな! 覚悟しときん!」

 その言葉を聞いた吾作とおサエは、

「ええ! 私!」

「あ、ええっっ! 何で?」

と、しどろもどろになって庄屋さんに質問した。しかし庄屋さんは、

「何もクソもあるか~! わしに楯突く奴はどうなるか見せてやるだけだわ~! 分かったら、とっとと消えろ~!」

と、更にすごい剣幕になって叫んだので、吾作とおサエは慌てて玄関へ走っていった。
 その一部始終を縁側の角でこっそり見ていた与平は、

「どえらい事になった……」

と、その場で固まってしまっていた。
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