吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吾作、吸血鬼になる

和尚さん、お経を唱える

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 そうしてみんなの前で吾作は地べたに正座をして、和尚さんがお経を唱えるのを待った。
 不思議と正座している足は全く痛くないのだが、それよりも和尚さんの光がとにかく痛かった。それでも、と、吾作は我慢をした。
 それをおサエは心配そうに見守り、村人達も神妙な面持ちで見守った。

 そして和尚さんが縁側に座って、お経を唱え始めた。
 すると吾作は全身に鋭い痛みが走った。その痛みはチクチクなんてものではなく、全身を無数の刃で切り裂かれるような痛みだった。

「痛いっっ!」

と、思わず吾作は叫ぶと、それと同時くらいに吾作の全身から煙が上がり始めた。
 おサエは海岸でのオロロックの最期を思い出し、

「和尚さん! やめて!」

と、叫んだ。和尚さんは、ハッとしてお経を止めた。
 しかし吾作の身体からは煙がもくもくと上がり始め、

「い、痛い! 痛い! 痛い! 痛い~! うわあああああ!」

と、叫びながら吾作はもう我慢の限界とばかりに、その場でのたうち始めた。しかし煙は治らず、おサエも慌てて火を消すように吾作の身体を叩いたが、一向に煙はおさまらない。
 権兵衛はオロオロし始め、

「ど、どうしたらええ?」

と、聞くが何もできない。村人達もこんな展開になるとは思っていなかったので、

「な、え!」

と、うろたえるしかなかった。
 その時、すぐ側に水を張っただけの田んぼがある事に気づいた権兵衛が、

「吾作! 田んぼに飛び込みん!」

と、叫ぶと、のたうち回っていた吾作は、一瞬で田んぼの中へ、

 ザブン!

 と、飛び込んだ。おサエはいきなり吾作が視界から消えたので、びっくりして周りを見回したが、水に飛び込んだ音の方を見ると、吾作は泥だらけになりながらも、まだ煙をあげている。

「ご、吾作ー!」

 田んぼの淵までおサエは走っていくが、

「痛い~! 痛い~!」

と、吾作は先程と変わらずのたうち回っている。

 吾作も自分の身に何が起こっているのか分からず、どうしたらいいかも分からない。しかしそんな時、

(血)

 頭の中で何かがささやいた。

(血)

 また誰かがささやく。

(血を飲むのデース!)

 今度は確実に誰かの声が聞こえた。

(アナタ、血を飲マナイと、コノママ焼ケテシマイマース! 血を飲ミマショウ~!)

「この声、おろろ~!」

 吾作はのたうち回りながら叫ぶと、目の前に手を伸ばす、おサエの姿が目に飛び込んできた。

「だ、大丈夫?」

 おサエは心配して田んぼから吾作を助け出そうと手を伸ばしているのだが、

(血を飲ミマショウ~!)

 吾作の頭の中でオロロックの声がこだましている。吾作は苦しみ、

(血を飲ミマショウ~!)

 こだましているオロロックの声が響き渡り、それと同時に目の前におサエの顔がどんどん近づいてくる。
 そして顔の下の首筋に目が行くと、

(血を飲ミマショウ~!)

 頭の中いっぱいにオロロックの声が響き渡り、吾作は気が狂いそうになり、おサエの体に抱きつくと、首筋をガッツリと見つめ、

(血を飲ミマショウ~!)

 吾作は言われるがまま口をつけそうになった。その時、

「吾作。私の血を飲む?」

 抱きついているおサエが言った。吾作はその信じきっている瞳でじっと見つめるおサエの顔を見て、一気に我に返った。吾作は、

「う~るっさいわ! おろろ~!」

と、今まで聞いた事のない大声で叫ぶと、いきなり身体を変化させて空へ羽ばたいた。
 その勢いで、おサエは吹っ飛ばされたが、そこに権兵衛や彦ニイがすぐに駆けつけた。

「だ、大丈夫かん?」

 権兵衛が心配そうに聞くと、おサエは、

「うん」

と、言ってすぐに立ち上がり、夜空を見た。
 しかし吾作の姿はもうそこにはなかった。
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