吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吾作、吸血鬼になる

村人達、吾作の家に集まる

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 村人たち十数人が吾作の家に着くまで、吾作とおサエは縁側で座って待っていた。
 たいまつの火がゆらゆらとこちらに迫ってくる。
 吾作にはそのたいまつの灯りの奥に、更に何か眩しく光る物が見えた。しかし何かは分からず、おサエに聞いても、

「?」

と、なるだけで、どうやら自分しか見えていないようだった。
 そのたいまつの灯りを二人が見ていると、一つの灯りがこちらへ走って来て、

「吾作! 吾作がおるぞ!」

と、叫んだ。すると、後ろのたいまつの灯り軍団が、駆け寄ってきた。
 そして縁側に座っている吾作とおタケの目の前までやってきた。が、すぐに吾作の変貌ぶりを見て、

「わあああっっ!」

と、後ずさった。そのたいまつの灯り軍団は十数人おり、その中にはおタケの旦那の与平や権兵衛もいた。

「や、やっぱり、ご、吾作、ば、化け物になっちまったのかん!」

「それとも何かに取り憑かれちまったのか?」

と、長三郎と彦ニイが話してきた。それらを聞いていた権兵衛は少し困った顔で、

「ちょっとまあ待ちんて~。ほんないきなり怒鳴らんでも~っっ」

と、村人達をなだめに入るが、

「うるさいわ! たわけー! おまえもあれを見て何とも思わへんのか?」

と、言い返され、権兵衛はしぶしぶ黙るしかなくなってしまった。
 与平はそのやり取りを見て、みんなの凄みにやや戸惑っていた。

「ほ、ほんな恐がらんでくれや~。わしだってよく分かっとらんだもんで~」

 吾作はオロオロしながら嘆いたが、彦ニイが、

「おサエちゃん! 早よ吾作から離れりん! いつ襲われるか分からんに!」

と、吾作の話など無視して叫んだ。それを聞いたおサエは、

「ほんな、たわけな事言うな! 離れーへんわ!」

と、彦ニイに返した。その時おサエの姉の旦那の与平も、

「おサエちゃん。その吾作はまあ吾作じゃないだで。もう駄目なんだよ」

と、ちょっと困った顔でなだめるように言ってきた。おサエは顔を真っ赤にして、

「何で? 与平はなんちゅう事言うだん! このアホンダラ! たわけ!」

と、怒鳴った。そして吾作は悲しくなった。権兵衛も、

「おまえ、身内だら? 正気か?」

 マジマジと与平の顔を見ながら言った。
 与平はそんなに言い返されると思っていなかったのか、とても驚いた。その時彦ニイが、

「おい、与平。おまえ、庄屋さんにこの事言って来ただかん? 知らせんとまずいだら」

と、凄みのある声で聞いた。

「あ、いや、まだ言っとらん。おタケに今日は言うな! って言われちゃって……」

 与平はしょぼくれた感じで返事をすると、

「は! 情けねえ野郎だ! 好きにせい!」

と、彦ニイは吐き捨て、与平から離れた。
 与平は、周りの村人が自分を見ていない事を確認すると、静かに他の村人達の後ろへ下がって行った。

 そんな間も村人達と吾作、おサエ、権兵衛との押し問答は続けていた。あまりに村人達は二人が言う事を聞かないので、

「おっしゃ! 吾作! おサエ! 今、和尚さん連れて来とるで、覚悟しりん! 和尚さん! よろしくお願いします!」

と、彦ニイが大声で叫んだ。すると少し間があった後、

「おまえら、歩くの速いわ~」

と、和尚さんがうんしょ、うんしょ、と、ゆっくり現れた。
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