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吾作、吸血鬼になる
おサエ、畑に行く
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吾作は暗闇の中をさまよっていた。
なんでこんな所を歩いているかよく分からなかったが、とても寒くて妙に落ち着かなくて、心が不安定になりそうな場所だったので、とにかく歩いて抜け出そうとしていた。
しかし走れど走れどその暗闇からは抜け出せない。
吾作はとても心細くなった。そこにおサエの影が見えた気がした。
「おサエちゃん!」
吾作は走っていくが、それは幻影。かわりにそこには無数の腕が吾作を捕まえようと向かってきた。
「ひいいい~!」
吾作はその無数の手から逃げた。すると無数の人影が現れたので、その人たちに向かって、
「た、助けて~!」
と、声を出した。人影の一人がその声に反応して、
「オロロックデース!」
と、変な日本語で話しかけてきた。
「でえ~!」
「オー! ニゲナイで、クダサーイ! アナタはニンゲンのー、チをー、スワナイとー、ズット、クルシミマース!」
吾作はもう逃げていた。遠ざかるオロロックからこんな声が聞こえた。
「ニンゲンのー、ココロをー、ナクサナイとー、クルシムのデース!」
でも、吾作は聞いている余裕はない。
とにかく逃げなければ、逃げなければ……
吾作は目を覚ました。
いつもの布団の中だ。やな夢を見た気がするけど、全く覚えていない。でもすっきりしたから起きよう。
と、体を起こした時、
「ご、吾作が起き上がった~!」
「ば、化け物だあ~!」
と、家の中にいた村人たちが慌てふためいて家から出て行った。吾作は何にも分からなかった。
時間を昼に戻すと、朝から寝ていたおサエは昼過ぎに起きた。吾作も布団を頭までかぶって寝ているようだ。
おサエは今朝あった事を思い返し、ゾッとした。
(この人は本当に、化け物になってしまったのだろうか? でも昨日は自分が恐くなって布団に入ったから、心は吾作のままなはずだけど……でもまた血が欲しくなった時、この人はどうするんだろう?)
おサエは寝ている吾作を見た。吾作は相変わらず布団を頭までかぶって寝ている。
おサエはその布団をはがして顔を見る勇気はなかった。
吾作は吾作だ。あんな優しい人が化け物になってるはずがない。きっと昨日の出来事は夢か何かだ。
おサエはそう自分に言い聞かせ、畑仕事に出かけた。
おサエは畑に着くと一人で耕し始めた。
ただでさえ吾作が出て来れないのにもうお昼過ぎで、この日は仕事にならないとおサエは思っていた。
そこに姉のおタケと旦那の与平がやってきた。
おタケは一回りくらい歳が上で、おサエを小さい頃からよく面倒を見ていた。
ほんわかしたおサエとは違い、竹で割ったようなはっきりした性格で、気も強く、旦那の与平を完全に尻に敷いていた。
村でもそのはっきりした性格は有名で、周りでおタケに意見できる人は庄屋さんぐらいであった。
一方、与平は背が高く体格もがっしりしていて、いかにも大工でもやっていそうな風貌。
実際子供の頃には、村祭りの相撲大会の常連で出ては毎度優勝をしていた。
だが、大人になった今はただの大食らいの農家だった。
その風貌に似合わず小心者で、自分より弱そうな者には威張り、自分より強い者にはヘコヘコする小さい男であった。
そのせこい性格で上手く庄屋さんに取り入って、村ではそこそこの地位にいるが、村の人達からはあまりよく思われてはいなかったのだが、与平本人は全くその事には気がついていない。
家庭では先程も書いた通り、嫁のおタケの尻に敷かれっぱなしの情けない男である。
そして今回も嫁のおタケに尻を叩かれる形で様子を見に来たと言う訳だった。しかし普段は吾作を義理の弟とはいえ馬鹿にしており(面倒臭い)が、本音であった。
おタケと与平の夫婦には二人の子供がいるが、今は寺子屋に行っていて畑には来ていない。
寺子屋のない日などには畑仕事を手伝ってくれるが子供たちはよく吾作とあサエのところに遊びにも来ていた。
それをおタケは子供を面倒見てくれているとありがたく思っていた。
そんなおタケと与平が、
「あんたんトコ、吾作が寝込んだんでしょう? ウチらんトコ、まあ終わったで、手伝ったるわ~!」
と、申し出てきてくれた。
おサエにはその申し出がとてもありがたかった。
こうして三人で畑を耕した。
おかげで予想よりも仕事がはかどり、日もだいぶ傾いてきたあたりで、もう仕事の先が見えてきた事もあり、少し休憩をする事にした。
おサエはこの休憩の後、日が沈むまで仕事をして家に帰れば吾作が起きて待っていると思っていたし、昨晩は人生で初めての徹夜をしたのでちょっと疲れが出てきていた。
なのでこの休憩はありがたかった。姉のおタケはそんなおサエの様子を見て、
「おサエ? 眠たかったらちょっと寝りん」
と、優しくおサエに声をかけた。そして横にいた与平に、
「あんた! 吾作の様子見といでん!」
と、命令した。与平は、
「ええ? 何でえ? 行かんでもええだらあ」
と、面倒くさそうに言ったので、
「何言っとるだん! おサエは内心心配でしょうがないだで、様子見てこりん!」
と、おタケはかなりキツい調子で与平に言った。
「わ、分かったわあ~。行ってくるで~っっ」
と、ちょっと慌てふためきながら与平は走っていった。
おサエはちょっと疲れている事もあったが、その様子を何も考えず見ていた。
なんでこんな所を歩いているかよく分からなかったが、とても寒くて妙に落ち着かなくて、心が不安定になりそうな場所だったので、とにかく歩いて抜け出そうとしていた。
しかし走れど走れどその暗闇からは抜け出せない。
吾作はとても心細くなった。そこにおサエの影が見えた気がした。
「おサエちゃん!」
吾作は走っていくが、それは幻影。かわりにそこには無数の腕が吾作を捕まえようと向かってきた。
「ひいいい~!」
吾作はその無数の手から逃げた。すると無数の人影が現れたので、その人たちに向かって、
「た、助けて~!」
と、声を出した。人影の一人がその声に反応して、
「オロロックデース!」
と、変な日本語で話しかけてきた。
「でえ~!」
「オー! ニゲナイで、クダサーイ! アナタはニンゲンのー、チをー、スワナイとー、ズット、クルシミマース!」
吾作はもう逃げていた。遠ざかるオロロックからこんな声が聞こえた。
「ニンゲンのー、ココロをー、ナクサナイとー、クルシムのデース!」
でも、吾作は聞いている余裕はない。
とにかく逃げなければ、逃げなければ……
吾作は目を覚ました。
いつもの布団の中だ。やな夢を見た気がするけど、全く覚えていない。でもすっきりしたから起きよう。
と、体を起こした時、
「ご、吾作が起き上がった~!」
「ば、化け物だあ~!」
と、家の中にいた村人たちが慌てふためいて家から出て行った。吾作は何にも分からなかった。
時間を昼に戻すと、朝から寝ていたおサエは昼過ぎに起きた。吾作も布団を頭までかぶって寝ているようだ。
おサエは今朝あった事を思い返し、ゾッとした。
(この人は本当に、化け物になってしまったのだろうか? でも昨日は自分が恐くなって布団に入ったから、心は吾作のままなはずだけど……でもまた血が欲しくなった時、この人はどうするんだろう?)
おサエは寝ている吾作を見た。吾作は相変わらず布団を頭までかぶって寝ている。
おサエはその布団をはがして顔を見る勇気はなかった。
吾作は吾作だ。あんな優しい人が化け物になってるはずがない。きっと昨日の出来事は夢か何かだ。
おサエはそう自分に言い聞かせ、畑仕事に出かけた。
おサエは畑に着くと一人で耕し始めた。
ただでさえ吾作が出て来れないのにもうお昼過ぎで、この日は仕事にならないとおサエは思っていた。
そこに姉のおタケと旦那の与平がやってきた。
おタケは一回りくらい歳が上で、おサエを小さい頃からよく面倒を見ていた。
ほんわかしたおサエとは違い、竹で割ったようなはっきりした性格で、気も強く、旦那の与平を完全に尻に敷いていた。
村でもそのはっきりした性格は有名で、周りでおタケに意見できる人は庄屋さんぐらいであった。
一方、与平は背が高く体格もがっしりしていて、いかにも大工でもやっていそうな風貌。
実際子供の頃には、村祭りの相撲大会の常連で出ては毎度優勝をしていた。
だが、大人になった今はただの大食らいの農家だった。
その風貌に似合わず小心者で、自分より弱そうな者には威張り、自分より強い者にはヘコヘコする小さい男であった。
そのせこい性格で上手く庄屋さんに取り入って、村ではそこそこの地位にいるが、村の人達からはあまりよく思われてはいなかったのだが、与平本人は全くその事には気がついていない。
家庭では先程も書いた通り、嫁のおタケの尻に敷かれっぱなしの情けない男である。
そして今回も嫁のおタケに尻を叩かれる形で様子を見に来たと言う訳だった。しかし普段は吾作を義理の弟とはいえ馬鹿にしており(面倒臭い)が、本音であった。
おタケと与平の夫婦には二人の子供がいるが、今は寺子屋に行っていて畑には来ていない。
寺子屋のない日などには畑仕事を手伝ってくれるが子供たちはよく吾作とあサエのところに遊びにも来ていた。
それをおタケは子供を面倒見てくれているとありがたく思っていた。
そんなおタケと与平が、
「あんたんトコ、吾作が寝込んだんでしょう? ウチらんトコ、まあ終わったで、手伝ったるわ~!」
と、申し出てきてくれた。
おサエにはその申し出がとてもありがたかった。
こうして三人で畑を耕した。
おかげで予想よりも仕事がはかどり、日もだいぶ傾いてきたあたりで、もう仕事の先が見えてきた事もあり、少し休憩をする事にした。
おサエはこの休憩の後、日が沈むまで仕事をして家に帰れば吾作が起きて待っていると思っていたし、昨晩は人生で初めての徹夜をしたのでちょっと疲れが出てきていた。
なのでこの休憩はありがたかった。姉のおタケはそんなおサエの様子を見て、
「おサエ? 眠たかったらちょっと寝りん」
と、優しくおサエに声をかけた。そして横にいた与平に、
「あんた! 吾作の様子見といでん!」
と、命令した。与平は、
「ええ? 何でえ? 行かんでもええだらあ」
と、面倒くさそうに言ったので、
「何言っとるだん! おサエは内心心配でしょうがないだで、様子見てこりん!」
と、おタケはかなりキツい調子で与平に言った。
「わ、分かったわあ~。行ってくるで~っっ」
と、ちょっと慌てふためきながら与平は走っていった。
おサエはちょっと疲れている事もあったが、その様子を何も考えず見ていた。
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