吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吾作、吸血鬼になる

血を吸われたウサギ

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 吾作がトボトボと家に帰ってきたのはもう明け方近くだった。
 その間、おサエは心配で寝る気分になんてなれず、ひたすら家で待っていた。

 もう空の色が変わってきたなあ……

 と、おサエが思った時、

「ただいま…………」

 力ない吾作の声が聞こえた。おサエは家の扉を急いで開け、

「おかえり! 大丈夫だった?」

と、声をかけた。しかし、おサエは吾作の豹変した顔を見てびっくりしてしまった。

「わし……ウサギの血を飲みきって……殺してしまったわ……」

と、力なく言った吾作の左手には、骨と皮だけになったウサギが耳から握られていた。
 おサエはそのウサギの亡骸を見て、更にびっくりし、

「ご、吾作? あんた、顔……手も……なんか昨日のあの人みたいになっとるよ」

と、オロオロしながら吾作に言った。すると吾作は、

「え?」

と、自分の両手をまじまじと見た。
 その手は、あの男のように平たく広がり、指が細く長くなり、爪も一晩で伸びる長さではない長さに伸びており、先が尖っていた。
 ウサギを持っている左手も、器用に爪が刺さらないようにウサギの耳を握っていた。
 それに驚いた吾作は自分の顔を見るために土間の鍋にはってあった水に顔を写した。

 その顔は、まさにあの男と同じ、生気が抜けて頬はこけて青白くなり、目は窪んでいるが妙にギョロっとして、前歯は出っ歯じゃなかったのに出っ歯になっており、歯の先端は尖って鋭かった。
 さらに、何故か水面に写った顔は半透明のように顔の後ろの天井が透けて見えていた。
 この顔を見て愕然としていると、手に持っていたウサギの亡骸が急に、

 ビクビクッ!

と、動き出した。

「ひ、ひええ~!」

と、吾作はあまりにびっくりしてつい手を離した。
 するとそのウサギは地面に落ちた。
 が、すぐに起き上がると、ここはどこ? と、いう感じでキョロキョロし、慌てた様子で外に出た。

 外はもう朝日が差し込み始めており、それを浴びたウサギから、一気に炎が全身から吹き出し、一瞬にして燃えた。
 そして灰すらも残らなかった。

 その一瞬の出来事を見た吾作とおサエは、あまりの事に立ちつくしてしまった。

「わ、わしが血を吸ったウサギがあんな……あんな……わ、わしもああなるのか? わしも…………」

と、吾作はわなわなと震えながら言うと、

「ひいーーー!」

と、叫びながら慌てて布団の中に入った。
 家の入り口で見ていたおサエは、そこにウサギがいた辺りを見ながら、わなわなと震え、その場でヘタリとしゃがみ込んでしまった。
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