吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吾作、吸血鬼になる

目が覚めると

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 夕方になり、おサエのお母さんが家に来た。

「吾作~。調子はどうだん? まだ起きれんかん?」

 部屋に上がるのがめんどくさかったお母さんは、土間から吾作に声をかけた。しかし吾作は全く身動き一つせず、返事もしない。

「吾作? 寝とるの?」

と、吾作に言ったがやはり吾作はピクリとも動かなかった。

「まあ、疲れてよう寝とるだな。まあええわ。帰ろ」

 お母さんはボソボソ言いながら家を出て帰って行った。

 日が暮れて、おサエが畑仕事から帰ってきた。

「おサエちゃん! おかえり!」

 目を覚ました吾作が大声で言った。自分でもびっくりするくらい大きな声だったので、当然おサエもびっくりした。そして吾作は普通に布団から飛び上がった。これには吾作本人もびっくりして、

「おお! わし! 元気戻っとる!」

と、おサエに言った。

「ほ、ほだねえ。ちょっとびっくりしたけど」

 おサエは嬉しい顔を見せて、

「ほ、ほいじゃお粥さん作るでちょっと待っとりん♪」

と、明るく夕食の準備を始めた。
 そうして夕食が出来たが、いざお粥が目の前に来ると、全く食欲が出ない。それでもと思った吾作はお粥を一口、サジにすくって口に持っていった。が、口に近づけるにつれて吐き気をもよおし、仕方なくサジに乗ったお粥をお椀に戻した。そんな状態なので、おサエも心配になり、吾作も(何で?)と、困ってしまった。

 それに元気になったと言っても、自分でも分かるぐらいに痩せてきて、肌の色も青白くなってしまった。

「ちょっとでもいいでご飯食べれん?」

 おサエは心配して聞いたが、やっぱり吾作は食べれんかった。

 そのかわり、何かが無性に飲みたくなってきた。ただ何かが分からない。でもやたら喉が乾いてる。
 それで吾作は水を飲めばいいかと思い、水を飲みに土間へ行って口に含んだ。しかしその場で、

 ブー!

 と吐き出してしまった。

 水じゃないみたい。じゃあ何だ?

と、吾作は思っていると、生暖かく、真っ赤な物が頭に浮かんだ。

 血だ。

 吾作は血が無性に飲みたくなってきている事に気がついた。

(え? 血? 血なのかん?)

と、思っていると近くにおサエがやってきて、

「大丈夫かん? どしたの?」

と、心配そうに吾作の顔を見た。
 そのおサエの顔を見た時、吾作はふいにおサエの首筋に口をつけたくなった。そこには薄く青白い血管が見える。そしてその中には生暖かい真っ赤な血がドクドクと流れている。吾作にはその流れている感じも読み取れた。

 飲んだらとっても美味しいんだろうなあ~。

 吾作は思わずおサエの両肩を掴むと、おサエの首筋を噛もうとした。

「何? どしたの? 吾作?」

 おサエは何の疑いもなく聞いてきた。するとその声で吾作は我に返り、両手をおサエから離した。

「い、今、わし、何した?」

 吾作の頭に昨日のあの男に首筋を噛まれた事がよぎった。吾作はひどく動揺した。

「わし、わし、あの男と同じになっとるっっ!」

と、吾作は叫びながら慌ててそのまま家を飛び出してしまった。
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