吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

文字の大きさ
上 下
6 / 70
吾作、吸血鬼になる

目が覚めると

しおりを挟む
 夕方になり、おサエのお母さんが家に来た。

「吾作~。調子はどうだん? まだ起きれんかん?」

 部屋に上がるのがめんどくさかったお母さんは、土間から吾作に声をかけた。しかし吾作は全く身動き一つせず、返事もしない。

「吾作? 寝とるの?」

と、吾作に言ったがやはり吾作はピクリとも動かなかった。

「まあ、疲れてよう寝とるだな。まあええわ。帰ろ」

 お母さんはボソボソ言いながら家を出て帰って行った。

 日が暮れて、おサエが畑仕事から帰ってきた。

「おサエちゃん! おかえり!」

 目を覚ました吾作が大声で言った。自分でもびっくりするくらい大きな声だったので、当然おサエもびっくりした。そして吾作は普通に布団から飛び上がった。これには吾作本人もびっくりして、

「おお! わし! 元気戻っとる!」

と、おサエに言った。

「ほ、ほだねえ。ちょっとびっくりしたけど」

 おサエは嬉しい顔を見せて、

「ほ、ほいじゃお粥さん作るでちょっと待っとりん♪」

と、明るく夕食の準備を始めた。
 そうして夕食が出来たが、いざお粥が目の前に来ると、全く食欲が出ない。それでもと思った吾作はお粥を一口、サジにすくって口に持っていった。が、口に近づけるにつれて吐き気をもよおし、仕方なくサジに乗ったお粥をお椀に戻した。そんな状態なので、おサエも心配になり、吾作も(何で?)と、困ってしまった。

 それに元気になったと言っても、自分でも分かるぐらいに痩せてきて、肌の色も青白くなってしまった。

「ちょっとでもいいでご飯食べれん?」

 おサエは心配して聞いたが、やっぱり吾作は食べれんかった。

 そのかわり、何かが無性に飲みたくなってきた。ただ何かが分からない。でもやたら喉が乾いてる。
 それで吾作は水を飲めばいいかと思い、水を飲みに土間へ行って口に含んだ。しかしその場で、

 ブー!

 と吐き出してしまった。

 水じゃないみたい。じゃあ何だ?

と、吾作は思っていると、生暖かく、真っ赤な物が頭に浮かんだ。

 血だ。

 吾作は血が無性に飲みたくなってきている事に気がついた。

(え? 血? 血なのかん?)

と、思っていると近くにおサエがやってきて、

「大丈夫かん? どしたの?」

と、心配そうに吾作の顔を見た。
 そのおサエの顔を見た時、吾作はふいにおサエの首筋に口をつけたくなった。そこには薄く青白い血管が見える。そしてその中には生暖かい真っ赤な血がドクドクと流れている。吾作にはその流れている感じも読み取れた。

 飲んだらとっても美味しいんだろうなあ~。

 吾作は思わずおサエの両肩を掴むと、おサエの首筋を噛もうとした。

「何? どしたの? 吾作?」

 おサエは何の疑いもなく聞いてきた。するとその声で吾作は我に返り、両手をおサエから離した。

「い、今、わし、何した?」

 吾作の頭に昨日のあの男に首筋を噛まれた事がよぎった。吾作はひどく動揺した。

「わし、わし、あの男と同じになっとるっっ!」

と、吾作は叫びながら慌ててそのまま家を飛び出してしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

おシタイしております

橘 金春
ホラー
20××年の8月7日、S県のK駅交番前に男性の生首が遺棄される事件が発生した。 その事件を皮切りに、凶悪犯を標的にした生首遺棄事件が連続して発生。 捜査線上に浮かんだ犯人像は、あまりにも非現実的な存在だった。 見つからない犯人、謎の怪奇現象に難航する捜査。 だが刑事の十束(とつか)の前に二人の少女が現れたことから、事態は一変する。 十束と少女達は模倣犯を捕らえるため、共に協力することになったが、少女達に残された時間には限りがあり――。 「もしも間に合わないときは、私を殺してくださいね」 十束と少女達は模倣犯を捕らえることができるのか。 そして、十束は少女との約束を守れるのか。 さえないアラフォー刑事 十束(とつか)と訳あり美少女達とのボーイ(?)・ミーツ・ガール物語。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

真夜中の訪問者

星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。 ※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。

処理中です...