吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吾作、吸血鬼になる

変化のはじまり

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 吾作は暗闇にいた。
 やはり寒く、空気が刺さるような痛さがあった。
 心細くなった吾作は恐くなって走り始めた。足の感触も何だかちゃんと土を踏んでいるんだか踏んでいないんだかよく分からない。とにかくグニョグニョした感触で気持ち悪かった。そんな場所をなんとか走っていると、暗闇が無数の木々に変わり、襲ってきた。

「何かここ、来た気がする~!」

と、何とか逃げると走っている先に人影を見つけた。吾作は助かったと思ったのだが、その人影は振り向くなりこう言った。

「チをスウツモリはー、ナカッタのデース。シカシワタシはアノトキー、トテモツカレてイター。ダカラースッテシマイマシター。ホントデース。ユルシテ、クダサーイ」

 オロロックだった。

「でえ!」

 驚いた吾作はまたオロロックの話をちゃんと聞くわけもなく、反対側に走っていった。

 吾作は目を覚ました。
 また何か悪夢を見た気がする……。でも吾作は何も思い出せなかった。

 そしてこの日も吾作はずっと寝ていた。それよりも意識はあるのに、とにかく体に力が入らず、痛みはなかったが動くことが出来ない。

 そんな訳で嫁っ子のおサエ一人で畑仕事に行ってもらった。悪いなあ……と、思いつつも本当に体が動かなかった。
 横になっている間、今回の件を考えていた。

 あの『おろろ~』と、いう人はなんだったんだろう?

 やはり化け物だったのかな?

 お日様の日を浴びたら燃えてしまったけど、わしがあの人を殺してしまったんだろうか。ああ、だとしたらわしは罪人だわ。なんて事だ。
 ほんでも、そもそもあれは全部、夢だったって事はないかやあ? ほんだといいんだけど。でも今わし寝てて起きれんから、やっぱ本当の事だったんだよなあ。

 などと、ぐるぐる答えの出ない問答をひたすら繰り返していた。

 おサエが畑仕事の合間に家に帰ってきてお粥を作ってくれたが、吾作はまだ起き上がることも出来ず、全く食べれなかった。

 そして吾作自身も意味が分からなかったが、昼の明るさがとても眩しすぎて目を開けていられなくなっていた。

 おサエは心配そうな顔をしながらも、

「ほいじゃ、また行ってくるでね。ゆっくり休んどき」

と、声をかけて、畑に戻っていった。
 吾作は微笑んで返事をしたが、一人になってから更に症状が悪化していった。

 目は開けられないし、体も動かせない。
 おかしいなあ。なんであの『おろろ~』に噛まれて血を吸われただけでこんなに動けないものなんだ?

 吾作はそんな事を考えながら、部屋の中を見るなら眩しくないかもと思い、目をそっと開け、天井を仰いだ。しかし朝より断然目を開けているのが辛くなるくらい眩しく感じた。

 しかし何だか体が動かないにもほどがないか? あれ? ホントに動かんぞ? 今、気が付いたけど、体全体の感覚がなくなってきとるぞ。指の先まで全く感覚がなくて動かせーへん! 何だ? 今度は目が閉じなくなっちゃったぞ! まぶた一つ動かせんてなんて事ある? わし、これホントに死んどるんじゃないのか? でも前聞いた話だと、よく死んだら体から魂ってのが離れて自分を部屋の上から見るとかだったけど……目線が動かんのは、わしは生きとるという事だよな? ほんじゃこれ何だ? 体全部が痺れとるんか? ほんな事あるのか? 声を出したくても口も動かんし……おサエちゃん早よ帰ってきてくれ~! 助け…………

 吾作は全く動かせなくなったこの状態に恐怖していたが、だんだんと視界が真っ白になっていき、吾作はそのまま気を失ってしまった。
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