吸血鬼 吾作

広田川ヒッチ

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吾作、吸血鬼になる

暗闇の中

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 吾作は暗闇の中にいた。

 足元さえ見えないくらい真っ暗闇。そしてやたら寒く、空気が肌に刺さるような痛さがある。吾作は心細く、不安な気持ちになり、

 とにかく脱出しなければ!

 と、いう思いから、手探りながら歩き出した。
 しかし歩けど歩けど暗闇から抜け出せる感じがしない。
 そのうち心細さから走り始めていた。
 暗闇は気がつけば大量の枯れた木々に変わり、その木の枝が更に無数の手のようになり、襲ってくるような感覚に襲われ、さらに吾作は恐怖のあまり走って逃げた。
 その逃げている先に人影らしきものが見えてきた。吾作はそれを人影と確認すると、

「た、助けて!」

と、叫び、走って行った。
 するとその人影が振り向くなり、こう言った。

「スイマセーン! アナタのー、チをー、スウツモリはー、ナカッタのデース!」

 そのへんな日本語で謝ってきたのは、まさにオロロックであった。吾作はびっくりして、

「お、おろろ~っっ」

と、叫ぶと、その場で慌てて立ち止まった。

「オロロックデース!」

と、オロロックがにこやかに言った。続けて、

「シカシー、アナタもー、ヨクナカッタデース! ワタシをカンオケからー、ダソウとシタデショー。ナノデ~、ついカンデシマッタね~」

と、難癖をつけてきた。吾作はじりじりと後ずさりしながらも、

「え、え? わしがいかんかったの?」

と、返すと、オロロックは続けてこう言った。

「アナタはー、コレからー、ヴァンパイアデース! ヒトのチをー、スッテー、ナカマにナリマショー!」

 吾作はヴァンパイアという言葉は分からなかったが、

[血を吸って仲間になる]

と、というオロロックの言葉は聞き取れ、驚いた。吾作は、

「な、何、訳の分からん事言っとるだん!」

と、叫ぶとオロロックから離れ、走り出した。オロロックは、

「ハヤク、ヒトのチを、スイマショー! スワナイと、ナカマにナレマセーン!」

と、離れていく吾作に向かって言った。が、吾作は必死で走っていたのでその声は届いていなかった。

 吾作は目を覚ました。

 よかった……何だかもう思い出せないけど、とても恐くて嫌な夢だった。

 吾作はほっと一息ついた。そして、ここはどこだ? と、我に返った。
 この天井は見覚えがある。あ、わしの家だわ! と、ようやく吾作は自分の家の自分の布団で仰向けになって寝る事に気がついた。

(あれ? なんでわし、ここで寝てんだ?)

と、吾作は思い、起き上がろうと動いたが、思う様に体が動かない。

 その代わりに目の前で涙ぐんでいるおサエの顔が目に入った。
 そして、おサエの横にはおサエのお母さんが来ていて、それ以外にも家の中に仲のいい村人の権兵衛や長三郎や彦ニイなど、近所の村人たちがわんさかいる事に気がついた。

「おお! 吾作が目を覚ましたにー!」

と、彦ニイが家の外へ声をかけた。するとさらに多くの村人たちが家に押し寄せてきた。
 まだ事態を把握していない吾作だったが、村人たちが親切に話してくれた。

「おサエちゃんがな、『ウチの旦那さんが倒れとるで助けてくれ~!』って、わんわん泣きながら走ってきたんだわ」
「ま~びっくりしたで~! 小屋で倒れとるおまえさん、死んどるようにしか見えんかったもんでよお~」

 その話を聞いて吾作は、ようやく自分の身に起こったことを思い出し、オロロックのことも思い出した。

「あの、あの」

 吾作がオロロックのことを聞こうとした時、

「あ、沈没船かん? 今、お役人たちがいっぱい来て、浜は大騒ぎになっとるわ。
 ほんでなあ、おサエちゃんがその~なんだー……化け物の話かん? その話も全部お役人さんに話したで。ほんでその化け物なあ。ほんなんおらんかったに。安心しりん」

と、権兵衛が教えてくれた。おサエも、

「まあどんだけ心配したか~……」

と、言うとまた泣き始めてしまった。おサエのお母さんも、

「まあ、勘弁してえ。どえらい心配しただで~」

と、ほっと胸をなでおろしていた。
 その話を聞いてしっかり安心した吾作は、またパタリと寝てしまった。
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