窓側の指定席

アヒルネコ

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平成30年1月13日 坂本かえで

転換期

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 何故、私の娘の名前を知っているのだろう。こんな若い子が店に遊びに来た記憶がない。話をした記憶もない。かえでは唾をゴクリと飲み、間をあけて尋ねた。

「何故、娘の名前を知ってるの?」

「それは、彼氏だからですよ?」

 そういえば、前にひかりが言っていたような気がした。あの金遣いの荒いうちの子が。
でも、この男は、私達親子の『秘密』を知っているのだろうか?

「あなたは、ひかりの名字わかる?」
「当然ですよ!横山ですよね?」
「ちなみに、私の名字はわかる?」
「え?同じ横山ではないんですか?」

 やはり、そこまでは知らなかったか。ただ、これ以上の情報を話しても意味はないだろう。
かえでは、とりあえずこの男をひかりの彼氏だと信じた。

「それで、私達に何の用事ですか?」
「このあと、どちらへ行かれますか?もしかして帯広だったりしませんか?」

・・なぜここまで知っている?あ、ひかりが情報を流したのかな?
 確かにこの前、電話で話したとき帯広に行くんだって言っていた気がする。

・・・正直、酔っ払って全く憶えてないが。

「そうですよ、帯広ですよ」

 かえでが言うと、男はにやりとした。

「2人とも、私が送っていきますよ!たまたま私も帯広に用事があって。車、北口のところに止めてます」
「いや、いいですよ。帯広までの指定席までとってますし」
「緑の窓口で返金もできるんですよ!そしてらお金浮きますよ!そこまでするのは面倒ですかね?」
「あ、いや・・・」

 正直、今回の旅行は陽子に半ば強制で誘われ、金欠のなかで参加した旅行でもある。
すこしでもお金が浮くなら、それはそれで良いのかもしれない。

「いいじゃんかえで!乗せてもらお!ほら、その分美味しい豚丼でもたべようよ!」
「・・まあ、その方がいいか」

 男は、小さく頷き笑顔を見せた。

 かえでは、ひとつ男に尋ねた。

「そういえば、名前聞き忘れてた。お名前は?」

「・・・南野です。あ、下の名前は健介です」

 なにか妙な間があったが、とりあえず放っておいた。

「そしたら、健介くんって呼ぶね。よく私達のことわかったね、こんなおばさん2人」
「頻繁に、ひかりさんから写真を見させてもらってましたからね。とても親子仲いいんですね。」

 それはそれで恥ずかしい。でも、そのおかげでお金が浮いたなら良いだろう。

「そしたら、とりあえず返金してくるから。多分何も言われないと思うけど、拾った券を換金してると思われたくないから、陽子もついてきて」
「オッケー。そしたら健介くん、その辺で時間つぶしてて。何時ころにどこに行けばよい?」
「北口に止めてる車の中にいます。駐禁とられたら、たまったもんじゃないですからね。返金終わったら早めにきてください」
「わかったよ、そしたら後ほどね~」

 かえでと陽子は、返金手続きを行った。指定席分までちゃんと返金できるのか。かえでは、戻ってきた現金を見てすこし安心感を得た。やはり、財布にはお金があった方が良い。


 ただ、1つ疑問が解決しない。
 

 ・・・なぜ、車で札幌駅に寄っていたのだろう?
あとで、直接教えてもらおう。

 
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