窓側の指定席

アヒルネコ

文字の大きさ
上 下
19 / 31
平成30年1月13日 坂本かえで

遭遇

しおりを挟む
 砂川駅に着いた。相変わらず寂れているが、空いていて丁度よいのかもしれない。かえではチケットを購入した。砂川から札幌までは短距離であるが、札幌から帯広までは少々長旅になるため、ゆっくり座って行けるよう札幌から帯広までの指定席を購入した。

 スマートフォンの画面を見て、集合時間と場所を再確認した。昼食を札幌駅で食べたのち、帯広へ向けて出発する。宿泊地は、真っ黒い温泉で美肌効果が望める『モール温泉』がある十勝第一ホテルである。とても楽しみである。

 今日も雪が深々と降っている。そんな寒い中、ホームで電車を待っていた。
 今日は人がまばらだ。若い夫婦が1組、あと3人程度だろうか。
 この程度であれば、自由席でも悠々と座れそうだ。

 電車に乗り込むと、予定通り席を確保した。
 普段なら窓側の席に座るが、待ち合わせの時間を考えると、今回はあえて通路側に座った。また、昨日の飲みすぎが影響して、頻繁にトイレに行きたくなりそうなのも理由の1つである。
 かえでは、キャリーケースを窓側に寄せることで、転がって通路に行かないように自分自身の身体で止めていた。

 ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・

 揺れが気持ち良い。でも、2日酔は気持ち悪い。

 ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・

 胸焼けがする。


 かえでは、反射的に座席を倒した。
すると、後ろの男性から「なんだよ、断りくらいいれろよ」と文句を言われてしまった。

 これはイケない。謝罪しようと座席から顔を出した。
 どうやらこの男性は、先ほど砂川駅のホームで見かけた若い夫婦のようだ。
 チラッと奥さん側を見ると、雑誌を読んでいる。しかも帯広特集である。もしや行先が一緒なのでは?
 かえでは、謝罪ついでに話しのネタとして、行先をきいてみた

「あら、ごめんなさい。起こしちゃったのね。あなたたちはどこまで行くの?」

 すると男性は、少し怪訝そうな顔で
「帯広です」と答えた。

「あら!わたしもなのよ?奇遇ね、お名前は?」
 かえでは職業癖で、つい名前を尋ねてしまった。お客さんのボトルキープをするとき、酔いが回る前に聞き出すためである。

「『キリシマ』です」

 『キリシマ』かなかなか珍しい名字である。
 
「へー、珍しい名字なのね。どういう漢字書くの?桐タンスの桐?それとも天気の霧?」

 また職業癖が・・

「天気の霧です。島は普通の島です。ヤマドリじゃない方の」
 男性はめんどくさそうに答えた。

 ここまで来たら、もう少し話してみよう。携帯で名前の由来を調べた。

「霧島って名字はね、鹿児島とかに多いみたいよ。両親、九州の人?」
「いいえ違います。北海道生まれですよ」

 そういうと、男性は携帯をいじり始めた。
流石に嫌がっているのだろうか。とりあえず話を切ろう。

「そうなのね、珍しいわね」
そう言い残し、前を向いた。

 絶対、私のこと『不思議なおばさん』って思ってるだろうな・・
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...