窓側の指定席

アヒルネコ

文字の大きさ
上 下
8 / 31
平成30年1月20日

逃避

しおりを挟む
「なあ浩二、ちょっといいか?」
「どうした?また一緒にトイレか?頻尿だな―」浩二は笑っている。

「真面目な話なんだ、こんなデートしてるときに申し訳ないんだけど」悠一は左手で頭を掻き、いかにも悩んでいる感じでしゃべっている。

 浩二と悠一は、綾たちと距離を置いたところに移動した。

「とっても言いづらくて申し訳無いんだけど・・でも言わなきゃ浩二のためにならないからさ・・」
「なんだよ、早く言えよ」


「ひかりちゃん、彼氏いるんだとさ。デートには来てくれたけどさ、まあ社交辞令みたいなもんだな」


「え、そうなのか・・」
浩二から笑顔が消えた。


「でもな、お前が彼女をデートを誘えたって事実は変わらない。自信を持っていいさ。成長したんだよ」悠一は浩二を慰めた。

「ゆうちゃん、ありがとね。とりあえずは、ひかりちゃんに悟られないように気を付けながら今日を終えるさ!」浩二は強がっているが、本心が透けて見える。辛いのだろうな。



 帰りの車、浩二は何事もなかったかのように話している。ある意味、屈強な精神力だと思う。悠一は感心していた。

 まず、霧島家に到着し、2人を降ろした。綾が「ちょっと待って!」と言い、足早に家に入り、みかんを1箱持ってきた。
「今日はありがとね!これ、食べて!運転代!」綾はニコニコしながら浩二に渡した。
「ありがとうございます!うまそ!酒の肴にします!」
 みかんが肴に?と悠一は疑問に思ったが、それはさておき、そのみかんは悠一が食べたくて買ってきたものなのだが・・

 そして、車は遠くへ走っていった。

「あの二人、大丈夫かな?変な空気になってないかな?」綾が浩二のことを気にかけていた。
「あいつなら大丈夫さ、きっと」
「そういえば動物園にさ、どっかで見たことあるひといたんだよね、名前は絶対に思い出せないけど」
「え、どんなひと?」
「頭がパーマかかってる人」
「いやそれ、浩二やん」

 家のなかに入り、1時間後だろうか悠一の携帯が鳴った。

「ゆうちゃん、俺、ちょっくら飲みに行ってくるわ」
浩二からの連絡だった。

「俺も行こうかな」悠一が送信する。

「いや、いい。たまには独り酒するさ。またゆうちゃんに介抱させて迷惑かけたくないしな」
浩二は、やっぱり落ち込んでいる。珍しい、いつも会社では太陽のような存在でみんなを笑顔にしているのに。

 ・・・とりあえず、浩二が立ち直ることを心の底から祈るばかりである。
 悠一は、窓から外をみてぼーっとしながら、今現在の複雑な感情を整理していた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...