窓側の指定席

アヒルネコ

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平成30年1月16日

霧島家

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 そういえば、小さい頃は教師を目指していた。自分はやっぱり人と関わる仕事が好きなんだ、そう悠一は自宅の椅子でコーヒーを飲みながら思い出にふけていた。
 仕事も終わり、夜8時。こんな時間にカフェインを摂取したら眠れないかと思いきや、平気で眠れてしまう。なんて幸せな身体だろうか。

「ねえ、浩二くんのデートいつになった?」
ふと、綾に質問され悠一はハッとした。

「あ!浩二に返事してなかった!明日するわ!」
悠一はそう言いながら、携帯のアラームに
『浩二にデートOK伝える』とメモした。

 いま電話しても良いのだが、浩二のことだから、酒飲んで呂律回らず会話にならないことが安易に予測できるため、今日のところは止めておこう。

「そういえばこの前、新入社員とご飯食べたみたいだけど、どうだった?」

「どうだったって言われても。随分とアバウトな質問だね。なんてことない普通の食事会だったよ。強いて言うなら、少しだけ俺の愚痴を聞いてもらったかな。ちょっと申し訳ないことしたな」
そう言うと、悠一はコーヒーカップを流し台に下げた。

「え、どんな愚痴をいったの?家で愚痴なんか聞いたことないのに」
綾が物珍しそうに食い付いてきた。

「ちょっとね、上司との反りが合わなくてね。やりづらいなって話をしたんだよね。でも新入社員の大久保くんは案外上手くやってるみたいだね。学べることが沢山あります!なんて言っちゃう始末でさ」

「悠一にもそんなときあったんじゃないの?」
綾が少し首を傾げながら言った。

「東京で仕事してた時はあったかもね。でも、今は無駄に仕事にプライドもっちゃってるからね。違うことは違うって本心は言いたいんだよ。でもサラリーマンだからさ、そこはグッと堪えてる」

「あんまり無理しないでね?」
綾がすこし微笑みながら言った。


 ・・とは言いつつも、いつも霧島家は平和だ。
自分の居場所はいつもここにある。だから仕事もメリハリついて楽しくやっている。
 突然、立花主任が「独立してビックな男になってやる!」みたいなこと言い出したら面白いのにな。応援しつつ、心のなかでガッツポーズしてやるのに。

悠一は、妄想に浸っていた。


 普段は家で飲まないのだが、今日くらいは良いかなと思い、冷蔵庫を開けた。キンキンに冷えたビールが1缶入っている。
 プシュっと音をたてたとき、綾が悠一を睨んだ。

「もう、それ以上お腹でたら大変だよ?スーツ着れなくなるよ?妊娠安定期みたいなお腹して」

「ははは、富の象徴だよ」
悠一は笑いながら口にビールを運んだ。

 そういえば、そもそも浩二のやつ、ひかりちゃんのことデートに誘えるんだろうか。まさか俺に、デートのお誘いまでやらせるつもりなんだろうか?

 悠一は、若干、明日が憂鬱になっていた。

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