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第二章 先王と思惑
対談
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全 思風によく似た男は、数人の侍女を連れて近づいてきた。
桃色の漢服を着た侍女たちの見た目は、人間とは似ても似つかぬ者ばかり。頭部が蛇の者もいれば、背中に翼を生やす者もいる。なかには人間の姿だけど、額から角が生えている人もいあ。
「え? こ、この人……たち? で、いいのかな?」
人と呼ぶべきか。それとも、別の何かか。
初めて見る光景に、華 閻李は混乱していった。隣に並ぶ彼は、ただ、微笑むばかり。
──ちょっと思!? 僕、何が何だかわからないんだけど!?
恨みをこめた視線を送った。
「ん? ああ、ごめんごめん。私にとっては当たり前の光景でも、小猫からすると異様だよね?」
落ちこみから回復した彼は起き上がり、華 閻李の頭を撫でる。
「彼女たちは冥界に住む妖怪だよ。くそじ……父亲の侍女をしているんだ」
「こらこら。親に、嫌悪感たっぷりの言葉を送るんじゃないよ? おっと。自己紹介がまだだったね? 初めまして。俺の名は全 温狼。隠居した、しがないおじさんさ」
相変わらずだねと、男が親しげに話しかけていた。
「──ところで阿風、お前はこんなにも表情豊かだったか?」
「ふん! 私の表情はすべて、小猫だけのもの。小猫以外に媚びて、笑顔なんぞ見せるわけがない!」
無表情で男の手を振りほどく。男を見ず、ほうけている華 閻李へとよっていった。腰に手を回して抱きよせ、ひたすら頬ずりをしている。
置いてきぼりを食らっている少年は、甘えてくる彼へ苦笑いを送った。そして突然現れた男を注視し、両目を瞬きさせる。
──思に似てる。髪の色や、雰囲気。顔の作りとかも……
「思が双子みたいに見える」
大きな瞳に興味を乗せ、ふたりを交互に見た。
親子なだけあり、彼らはよく似ている。背格好や顔立ち、人当たりよさげで頼りになる姿勢まで。下手をすると親子ではなく兄弟。そう感じてしまうほどに、ふたりは似ていた。
ただひとつ。似ていないとすれば、彼が黒なのにたいし、男性は緑色を主体とした服装をしている。
「……思をさらに大人にした感じがする」
ボソッと呟く。再び彼らを見、小首を傾げた。ふと、視界が一気に暗くなる。どうやら、全 思風に抱きしめられてしまったよう。彼の厚い胸板に顔を埋めるかたちでモゴモゴした。
「ちょっと思!?」
なんとか彼の支配から逃れ、顔を出す。
見上げれば、頬を膨らませて口を尖らせている彼がいた。彼の瞳は優しいままに、ぶう垂れている。まるで、甘え足りない大きな忠犬のよう。
ようは、すねていた。
──ええ? 何でここですねるの? あ、もしかして……
背伸びをする。彼の頭を撫で、笑顔を向けた。
「大丈夫だよ思、親子水入らずだもんね? ふたりの邪魔はしないから!」
「え? あ、いや……小猫? そうじゃなくてね?」
「そうだよね。顔を見せたときぐらい、ふたりで語り合いたいもんね」
「いやだから、そうじゃなくて!」
「僕は適当に見学してるから」
動揺する彼の気持ちを無視し、ひとりで納得しては頷く。
頭の上に蝙蝠を乗せた。踵を返して胸をはる。彼に親子水入らずでお話していいよと伝え、満面の笑みで見学に勤しんだ……瞬間、背後から彼の声が聞こえて振り向く。
「うわっ!?」
全 思風の腕が、華 閻李の腰に巻きついた。
「小猫、相手をしておくれよおー。寂しいじゃないか」
ぐりぐりと、これでもかと甘えてくる。大人の見た目なのに子供。そんな彼を前に、少年は苦笑いした。
──大きな犬みたいなだなぁ。なんか、かわいい。
ふっと、微笑みを彼に落とす。
そのとき、彼の首根っこは父亲に掴まれてしまった。やれやれといった様子でふたりを交互に見ている。
「阿風、その子のことが好きなのはわかったから、離してやりなさい。それから私は、少々彼女とお話してみたいと思う。あと、お前は仕事を片づけなさい」
若干、あきれ気味に彼を見ていた。しかしすぐに視線を華 閻李へと向け、おいでおいでと手招きする。
華 閻李は迷った。腰を掴んで構ってと言い続ける彼を注視し、ため息を溢す。
「思……」
「……私はこれから、残った仕事を片づけるよ。小猫、くそじじ……父亲と話してくるといいよ」
彼は直前までの情けなさを消し、すっと立ち上がった。踵を返して背中を向ける。やがて、どこかへと行ってしまった。
残された華 閻李は戸惑う。
──思がいない。ほんの少し離れるだけだってわかっていても、何か……
胸の奥がモヤモヤする。
今に限って、寄り添ってはくれない。普段はどこに行くにも一緒なのに、今だけは離れてしまった。
これが寂しさなのかなと、改めて実感した。
桃色の漢服を着た侍女たちの見た目は、人間とは似ても似つかぬ者ばかり。頭部が蛇の者もいれば、背中に翼を生やす者もいる。なかには人間の姿だけど、額から角が生えている人もいあ。
「え? こ、この人……たち? で、いいのかな?」
人と呼ぶべきか。それとも、別の何かか。
初めて見る光景に、華 閻李は混乱していった。隣に並ぶ彼は、ただ、微笑むばかり。
──ちょっと思!? 僕、何が何だかわからないんだけど!?
恨みをこめた視線を送った。
「ん? ああ、ごめんごめん。私にとっては当たり前の光景でも、小猫からすると異様だよね?」
落ちこみから回復した彼は起き上がり、華 閻李の頭を撫でる。
「彼女たちは冥界に住む妖怪だよ。くそじ……父亲の侍女をしているんだ」
「こらこら。親に、嫌悪感たっぷりの言葉を送るんじゃないよ? おっと。自己紹介がまだだったね? 初めまして。俺の名は全 温狼。隠居した、しがないおじさんさ」
相変わらずだねと、男が親しげに話しかけていた。
「──ところで阿風、お前はこんなにも表情豊かだったか?」
「ふん! 私の表情はすべて、小猫だけのもの。小猫以外に媚びて、笑顔なんぞ見せるわけがない!」
無表情で男の手を振りほどく。男を見ず、ほうけている華 閻李へとよっていった。腰に手を回して抱きよせ、ひたすら頬ずりをしている。
置いてきぼりを食らっている少年は、甘えてくる彼へ苦笑いを送った。そして突然現れた男を注視し、両目を瞬きさせる。
──思に似てる。髪の色や、雰囲気。顔の作りとかも……
「思が双子みたいに見える」
大きな瞳に興味を乗せ、ふたりを交互に見た。
親子なだけあり、彼らはよく似ている。背格好や顔立ち、人当たりよさげで頼りになる姿勢まで。下手をすると親子ではなく兄弟。そう感じてしまうほどに、ふたりは似ていた。
ただひとつ。似ていないとすれば、彼が黒なのにたいし、男性は緑色を主体とした服装をしている。
「……思をさらに大人にした感じがする」
ボソッと呟く。再び彼らを見、小首を傾げた。ふと、視界が一気に暗くなる。どうやら、全 思風に抱きしめられてしまったよう。彼の厚い胸板に顔を埋めるかたちでモゴモゴした。
「ちょっと思!?」
なんとか彼の支配から逃れ、顔を出す。
見上げれば、頬を膨らませて口を尖らせている彼がいた。彼の瞳は優しいままに、ぶう垂れている。まるで、甘え足りない大きな忠犬のよう。
ようは、すねていた。
──ええ? 何でここですねるの? あ、もしかして……
背伸びをする。彼の頭を撫で、笑顔を向けた。
「大丈夫だよ思、親子水入らずだもんね? ふたりの邪魔はしないから!」
「え? あ、いや……小猫? そうじゃなくてね?」
「そうだよね。顔を見せたときぐらい、ふたりで語り合いたいもんね」
「いやだから、そうじゃなくて!」
「僕は適当に見学してるから」
動揺する彼の気持ちを無視し、ひとりで納得しては頷く。
頭の上に蝙蝠を乗せた。踵を返して胸をはる。彼に親子水入らずでお話していいよと伝え、満面の笑みで見学に勤しんだ……瞬間、背後から彼の声が聞こえて振り向く。
「うわっ!?」
全 思風の腕が、華 閻李の腰に巻きついた。
「小猫、相手をしておくれよおー。寂しいじゃないか」
ぐりぐりと、これでもかと甘えてくる。大人の見た目なのに子供。そんな彼を前に、少年は苦笑いした。
──大きな犬みたいなだなぁ。なんか、かわいい。
ふっと、微笑みを彼に落とす。
そのとき、彼の首根っこは父亲に掴まれてしまった。やれやれといった様子でふたりを交互に見ている。
「阿風、その子のことが好きなのはわかったから、離してやりなさい。それから私は、少々彼女とお話してみたいと思う。あと、お前は仕事を片づけなさい」
若干、あきれ気味に彼を見ていた。しかしすぐに視線を華 閻李へと向け、おいでおいでと手招きする。
華 閻李は迷った。腰を掴んで構ってと言い続ける彼を注視し、ため息を溢す。
「思……」
「……私はこれから、残った仕事を片づけるよ。小猫、くそじじ……父亲と話してくるといいよ」
彼は直前までの情けなさを消し、すっと立ち上がった。踵を返して背中を向ける。やがて、どこかへと行ってしまった。
残された華 閻李は戸惑う。
──思がいない。ほんの少し離れるだけだってわかっていても、何か……
胸の奥がモヤモヤする。
今に限って、寄り添ってはくれない。普段はどこに行くにも一緒なのに、今だけは離れてしまった。
これが寂しさなのかなと、改めて実感した。
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