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第二章 溺愛が加速する

関所でのひと波乱の幕開け

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 香港へ向かうことになった冋 花月ケイ ホワユエたちは、関所で一泊することになった。そして昼間のうちに到着し、彼らは明日の朝まで自由時間を満喫する。

「ここが、あの有名な観光地がある関所かぁ……」
  
 冋 花月ケイ ホワユエ留 王龍ル ワンロンを連れて、関所の冒険に出ていた。

 関所の隅に庭があり、少しだけ広い。山茶花さざんか睡蓮すいれんといった花が植えられていて、とても自然豊かな場所だった。
 そこを横切ると井戸があり、中をのぞいている。すると底が見えないほどに深く、冋 花月ケイ ホワユエはゾッと背筋を凍らせてしまった。

「お、落ちたら、絶対に這い上がってこれないよ」

「心配はいらぬ。小兎シャオトゥは、私が守る」

 人目もはばからず、冋 花月ケイ ホワユエの額に口づけをする。冋 花月ケイ ホワユエがやめてよと言おうとする前に、彼は微笑んだ。

 ──うう。そんな嬉しそうな顔されたら、嫌だなんて言えないじゃん。

「……小兎シャオトゥ、出発は明日の早朝だ。それまで、どうするのだ?」

「え? うーん。日が暮れる直前までは、敷地内を散歩したいなぁ。夜ご飯の後は、関所の中を探索しようかなって思う」

「そうか。なら、私もそうしよう」

 とどのつまり、一緒に行動したい。だった。特別嫌というわけではなかったため、ともに行動することを了承ふる。

「うーん。だけど、せっかくの自由な時間だよ? 僕と一緒にいるよりも、好きなことをするべきじゃない?」

 何気なくそう、呟く。
 けれど彼は首を左右にふって、冋 花月ケイ ホワユエの肩を抱いてきた。

「私が好きなことは、小兎シャオトゥと一緒に過ごす時間だ。それを君、自ら奪うことはしないでくれ」

 ──大男の癖に、無駄に捨てられた犬みたいな表情をする。そんな姿を見せられたら、嫌だって言えなくなるよ。

 この男、留 王龍ル ワンロン冋 花月ケイ ホワユエの前では素の顔でいることを選んだのだろう。微笑みを絶やさずに、ひたすら端麗な幼い笑みを浮かべていた。

 当然、鬼になれるはずもない冋 花月ケイ ホワユエが先に折れてしまう。はあーとため息をつき、苦笑いをした。

「……わかったよ。一緒に探索しよっか」

「……っ! ああ」

 ──うわっ。めちゃくちゃ喜んでる。ないはずの尻尾が、幻として見えてしまうぐらいだ。

 撫でてあげたいという思う気持ちを抑え、彼を隣に置いて歩く。




 ──関所の庭を探索して気づいたけど……ここは、植物がかなり多かった。悪いことじゃなく、とてもいいことだ。だけど、なぜだろう。

 関所は庭以外にも、建物や門がある。そこにはほとんど植物がなく、簡潔に整備された道だけが残っていた。

「うーん。特段、おかしなことってわけじゃないけどさ」
 
「うん? どうした、小兎シャオトゥ

 どうやら留 王龍ル ワンロンに独り言を聞かれていたよう。腕組みしながら悩む冋 花月ケイ ホワユエの顔をのぞきこんできた。

 ──彼と視線を合わせることは、悪い気がしない。撫でられるのだって……むしろ心地よくて、ほわほわした暖かな気持ちになる。これが何なのか。僕にはわからない。だけど、幸せだってことはわかった。

「ううん、何でもないよ。それよりも留然ルラン、何でここだけ花畑なの?」

 脱線してしまいそうになる気持ちをしまい、咲き誇る花を凝視する。そこにある花はきれいで、殺伐とした関所とは思えないような光景だ。

「ああ、そうか。小兎シャオトゥは、この國に来たばかりだから知らぬのだな? ……ここは元々、他國同士を結ぶ國境だったのだよ」

「え? でも、関所の先はどっちも留斗ルトだよね?」

「……今は、な。留斗ルトとして統一される前、関所の東側は、別の國だった。龍吮リュウセンよりも小さく、名すら、ほとんど知られていない無名に近い國だった」

 留斗ルトは今でこそ、大陸一の土地を誇る。けれど遥か昔、留斗ルトが出来るよりも前は、この國そのものの名前が違っていたそうだ。
 仙人や妖怪の争いが絶えず、内戦は当たり前とも言われていた。

「この國の昔は、朝王チョウワンという名だったらしい。この関所の東側の國と、常に対立していたとも聞くな。それで、東側の國王が亡くなったと同時、朝王チョウワンが吸収したとも聞く」

 ようは、合併だった。

 この関所はその名残りとして、歴史物として置かれているようだ。

 ──だけどそうなると、あの花畑はなんだろうか? 花畑自体が珍しいとかじゃない。どうしてあそこだけが、あんなにも花でいっぱいになっているんだろう?

 そのことが気になってしかたない冋 花月ケイ ホワユエは、彼に再度尋ねてみた。

「國境だったということもあり、ここでは他國同士の戦争が多かったそうだ。あの花畑は、ここで死した兵たちを弔うためのもの。そう、聞き及んでいる」

 留 王龍ル ワンロンの低い声が、静かな関所に響いていく。
 ざあーと、冬の風が彼らの体を横切っていった。
 冋 花月ケイ ホワユエは自身の長い髪を押さえながら、心の中で兵士たちの魂が眠れるようにって願う。

「……今度、時間を見つけて、お墓参りしたいなぁ」

「今からは無理だな。小兎シャオトゥさえよければ、今度また、ここに来よう」
 
「……っ! う、うん!」

 留 王龍ル ワンロンが死者の魂を弔う気持ちがあることに、ホッと胸を撫で下ろした。

「さあ、小兎シャオトゥ、そろそろ夕御飯の時間だ。宿舎へ戻ろう」

「あ、うん」

 彼に手をひかれながら、冋 花月ケイ ホワユエは建物の中へと入っていった。
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