香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

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金明《ジンミン》妃の侍女

侍女の死の謎

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 金明ジンミン妃を見れば、期待に満ちた眼差しをしている。

(……ああ。これは、私の方が折れるしかないのかしらねぇ。あ、そうだ!)

 ダメもとで、思いついたことを提案してみる。

「でしたら、こうしましょう。誰もいない時だけ、その呼び方にするというのはどうですか? さすがに公の場で、妃が侍女相手に姉というのは、ダメだと思いますし」

「……っ!? は、はい!」

 どうやら納得してくれたようだ。

 香 麗然コウ レイランは、ほっと胸を撫で下ろす。軽く咳払いして、 金明ジンミン妃と視線を交わした。
 真剣な面持ちになり、少女へと質問をする。

金明ジンミン妃、お話を戻しますけど……あなたの周りで起きた大きな事件は妓女の死と、昨日の毒草のあれだけですか?」

「あ、はい。そうです。侍女の名前は権姜クォンカン、後宮に来て、右も左も分からなかった私に、色々教えてくれた優しい方です」

 妓女のことを思い出してしまったようで、少しだけしょぼくれてしまった。そんな少女の頭を優しく撫で、権姜クォンカンという妓女について深く聞く。

「性格、ですか? ……すごく真面目な方でした。曲がったことが大嫌いで、正義感がとても強かったんです。孤立していた私の、唯一味方をしてくれた方でもあるんです」

「へえ……いい方、だったんですね? それじゃあ、その方が発見されたときのことを、詳しく教えてください」

 金明ジンミン妃は黙って頷いた。

 権姜クォンカンという妓女は礼儀正しく、仕事熱心だった。嘘や、人をおとしいれることを嫌う。そして何よりも、幼子を苛める人を許しはしなかった。
 金明ジンミン妃の侍女たちは亡くなった女性に、よく叱られていたという。金明ジンミン妃を苛めていたからだ。
 正義感の強かった権姜クォンカンにとって、妓女たちは嫌悪感の対象でしかなかったよう。つねに妓女たちを叱り飛ばしていたそうだ。

 そんな権姜クォンカンはある日、暗い顔をして現れた。理由を聞いても答えてくれず、数日が経つ。
 そしてある翌日の朝、ショウの上で遺体となって発見された。

「兄上が教えてくれたのですが……権姜クォンカンの死因は不明だそうです。病気、はたまた自殺なのか。それとも、誰かに殺されたのか」

金明ジンミン妃は、どう思ってるの?」

 金明ジンミンは下を向く。全身を震わせ、幼い顔に涙を忍ばせた。

「自殺するような人じゃない。そう、思っているんですけど……」

 だんだん、声に力がなくなっていく。蚊の鳴くような声になり、嗚咽すら混じってしまった。
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