香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

文字の大きさ
上 下
37 / 172
金明《ジンミン》妃の侍女

新たな出会い

しおりを挟む
 中で二人を待っていたのは数人の侍女、そして厚化粧だけれど幼い少女だった。
 桃色の漢服を着た侍女たちは化粧が似合う美人ばかり。彼女たちは自分の顔に自信があるようで、田舎臭い香 麗然コウ レイランを見ては鼻で笑っていた。
 そんな侍女たちに、幼い少女は口を挟もうとする。けれど侍女たちの目力に蹴落とされ、彼女たちに取り囲まれてしまった。部家の中心にある椅子に腰かけながら、震えている。

(うわぁー。思ってた以上に、酷いわね。こいつら、妃を妃とも思ってないっぽいし。それに何より……やっぱり、香死かしの匂いがする。しかも、かなり強い)

 侍女たちの行動に反吐が出るのを我慢し、営業的な笑顔を作った。

「──金明ジンミン妃、お久しぶりでございます。私は此度より侍女になりました、香 麗然コウ レイランと申します」 

 軽く拱手する。
 つられて楊凛ヨウリンも挨拶と拱手をした。

「宜しくお願いしま……わっ!」

 挨拶もそこそこに、侍女たちに華服を渡される。

「部屋の奥に、着替え室があるわ。そこで着替えてきなさいな。まあ、あんたたちみないな田舎者だと、服の方が目立つのでしょうけど」

 侍女たちはクスクスと、嫌味を連呼した。

 楊凛ヨウリンは顔を真っ赤にさせ、半べそ状態になってしまう。けれど香 麗然コウ レイランは何のそのだった。彼女たちに笑顔を向け、楊凛ヨウリンの手を引っぱって部家の奥へと行く。

(私は別に、あんなの嫌味とすら思ってないわ。あれよりも、もっと酷い言葉を知っているから。でも、楊凛ヨウリンは違うんでしょうね)

 奥の部屋についた頃には、楊凛ヨウリンは涙をボロボロ流していた。帰りたい、侍女にならなくてもいい。そんな言葉を吐き捨てている。

 香 麗然コウ レイランはそれには答えることをしなかった。同情はするけれど、共感はしない。さっぱりとした考えのまま、無言で着替えていった。

「わ、私……侍女に向いてないんでしょうか?」

「んー? 向いてるかどうかは、やってみないとわからないんじゃない?」

 まだ何もは始まってはいない。その段階で決めつけられては、たまったものではない。香 麗然コウ レイランは強い意思を持ちながら、泣き言を口にする楊凛ヨウリンへ布を渡した。

「第一、さっきのあれはどう見ても、新人の私たちで鬱憤うっぷんを晴らそうとしているだけでしょ? そんなのにいちいち付き合ってたら、好きなこともできなくなんじゃない?」

「……香 麗然コウ レイランは強い、ですね」

「そう? ……っと。よし! 完了」 

 あっという間に着替えを終える。そして未だに着替えていない楊凛ヨウリンを見て、にやっとほくそ笑んだ。両手をワキワキさせ、ふふふと不気味に笑う。

「ふふ。大丈夫だっぺ。おらに、すべて任せてけろ」

「え? 香 麗然コウ レイラン!? な、何かこわ……」 

「さあ。おとなしく、おらの着せかえ人形になるっぺさ」

 両目を光らせ、楊凛ヨウリンへと手を伸ばしていった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~

山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝 大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する! 「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」 今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。 苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。 守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。 そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。 ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。 「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」 「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」 3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

後宮の才筆女官 

たちばな立花
キャラ文芸
後宮の女官である紅花(フォンファ)は、仕事の傍ら小説を書いている。 最近世間を賑わせている『帝子雲嵐伝』の作者だ。 それが皇帝と第六皇子雲嵐(うんらん)にバレてしまう。 執筆活動を許す代わりに命ぜられたのは、後宮妃に扮し第六皇子の手伝いをすることだった!! 第六皇子は後宮内の事件を調査しているところで――!?

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

処理中です...