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「欠陥品とは、また面白い。流石はレミエット嬢のお友達だ」

君主の顔からお義兄にい様の顔になった陛下が、わたくしにそっとウインクをした。
玉座の隣に座る王妃殿下からも柔和な笑みを送られる。
この国の統治者であるはずなのに、お二人を包む周辺の空気は嫌味がなく常に優しい雰囲気だ。
国内外から『寛容の主君』と評される新国王陛下と、いつもその隣で笑っている新王妃殿下。
この国の歴代の王は誰もが愛妻家なのが特徴だが、新国王陛下は殊にその傾向が顕著である。
王妃殿下もその愛にしっかりと応え、二人の間には既に二人の子供がいる。
国民からオシドリ夫婦として憧憬の的となっている二人だが、朗らかな印象は必ずしもプラスになるばかりではない。
王権派が貴族派に圧されている昨今では、その気質をそしる者もいた。
だからこそ、先日の晩餐会で自分の王位継承権を第二王子である弟に譲ると申し出たのだ。
しかし殿下もわたくしも分かっている。
目の前の君主はこの国を統べるのに相応しい器量の持ち主だと言うことを。

「ラフマン、その欠陥は君の落ち度か?それとも計略があってのことか?」
「畏れながら、後者にございます」
「君は一般的な読み書きしか出来ないと言ったな?それなのに公爵たちの陰謀にどうやって気付いたんだ?」
「恥ずかしながら、公爵家がこんな陰惨な計画を遂行しているとは露にも思っておりませんでした。お嬢様と親しくさせて頂いていたときに、ルネーブル王国や諸外国の好戦的な態度を教えて頂いておりましたので、もしかした本当に我が国に武具が必要なのかもと考えておりました」
「そうか、レミエット嬢は君たち平民にも珠算の他に歴史や外交についても指南していたそうだな」
「はい!わたくしは読み書きは今一つでしたが、お嬢様のご指導のお陰で女官になったものもおりますし、騎士団に入隊出来た者もおります!レミエットお嬢様はわたくしたち平民に、あることを繰り返し教えて下さいました」
「ほう、あること?」
「わたくしたち平民は、領主や貴族の行いを正しく見極める『目』であることです。時には間違った選択をしてしまうかもしれない領主や貴族を、わたくしたちの公平な目で判断し、必要な場合は糾弾する権利も平民にはあるとレミエットお嬢様は説いていらっしゃいました」
「まったく、レミエット嬢らしい!自分たちを糾弾する権利があるなんて、がある者には絶対に口にできない言葉だな。そう思わんか、公爵大公?」
「…さ……左様でございますな…」
「お前も5年という短くはない時間を貴族として過ごしているのだから、平民の前に立つ責任を少しは感じているか?男爵」
「は…はいぃぃ!も、も、もちろんにございますぅ!」
「ならばその責任を果たしてもらわねばな。さて、ラフマン。武具の欠陥について話を戻そうか?」
「かしこまりました。…わたくしは武具の設計をしているときに、この武具がこの国の敵対国に渡った場合のことを考えました。それは以前レミエットお嬢様が武具の危険性について説いてくださっていたからです。人の命を簡単に奪ってしまえる武具は慎重に扱わなければならないと仰せでした。だからこそ、この国で武具を使用する場合は国内で十分に試験利用をしてから運用すると伺っていました。わたくしはそのお嬢様の教えに従って、武具の設計にひと手間加えたのです」

ラフマンはそこでいったん言葉を切った。
公爵大公がギリギリと奥歯を噛みしめ、男爵はチラチラと陛下の顔色を窺うばかりだ。
ラフマンの意志の強い瞳とわたくしの瞳がぶつかる。
わたくしが目配せすると、ラフマンが今一度胸を張った。

「本当にこの国で利用する武具ならば、試験利用の最中に問題が起きればわたくしの耳に入ると思いました。反対に他国へ輸出するつもりならば、試し撃ちだけで十分な試験利用などせず欠陥に気付かないだろうとも。だからわたくしは、武具の耐久性を下げたのです。あの国へ渡った武具は、製造から1週間で壊れるように出来ています!」

最後まで言い切ったラフマンの顔は誇らしげに輝いていて、それまでの幼さが残る顔とは違い一人前の勇敢な男性のそれになっていた。
広間の誰も声を上げない。上げられない。
その静寂を破ったのは、国王陛下夫妻の笑い声だった。
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