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「まず、武具はルネーブル王国へは渡っておりません。この場で議長を取り押さえるための一芝居でございました。議長に届いた統領からのお手紙もわたくしが認めた偽物でございます。もちろん国王陛下…太上皇の御前で認め、その内容に許可は頂いております」

わたくしは目の前の囚われの身の人間にも分かるように、順を追って説明することにした。
議長が再び深く項垂れて「私のやってきたことはなんだったんだ…」と呟く。

「ルネーブル王国へは渡っておりませんが、武具は間違いなく公爵大公の命令で製造され、男爵の指示で運搬されました。そして、へ渡ったのです」
「あ…ある……国?」
「ど、どこだって言うんだぁ!」
「公爵大公も、男爵も所縁ゆかりのある国ですよ。お忘れでしょうか?我が侯爵家の事業解体の火元となった国のことを。あの商いの国、お金を積めばなんでもしてくれるお二方とあの国です」

公爵大公と男爵が尋常じゃないほどの汗を掻き、お互いで身を寄せ合っている。

「お二人とも思い当たる国がおありのようですね?仲良しであれば当然ご存知のことと思いますがあの国は『信用第一』、時にはわざと信用を失墜させて貿易先を買い叩きますわ」

そう、過去我が家にそうしたように、あの国は輸入品が紛い物だったと虚偽の噂を流し、その噂を流した相手の国内で業績拡大を狙う別の業者と手を結び、より安い金額で品物を仕入れては他国へ高く売り渡して財を成してきたのだ。
元老院の中にあの国に親戚を持つ者を見つけた。
その手引きで我が家の事業を男爵家へ移す計画を立てたのだろう。
けれど、それが今分かったところで男爵家の事業は拡大し過ぎている。もう我が家には戻せない。

それなら、そのまでですわ。

「それから、もちろんご存知ですわよね?あの国が貴方がたから買い取った武具を南国へ転売して多額の利益を生み出していることを。…あぁ、それは、ジュード様の報告書にも記してございます。貴方がたがあの国からその見返りに賄賂を受け取っていた証拠がございますので」
「「………!!」」

声も出ない様子の公爵大公たちを、公爵夫人教育で繰り返し教えられた『淑女の笑み』を持って見つめる。

「さて、大量に生産した武具は全てあの国へ渡したのですが、一つ問題がございますの」

ニッコリと口角を上げれば、公爵大公がブルリと震えた。
目を細めてみると、今度は男爵の呼吸が荒くなる。

「ラフマン、お二人にご説明をお願いできますか?」
「もちろんです!レミエットお嬢様!!」

ようやく積年の恨みを晴らせるぞ!と、顔と身体でやる気みなぎる様子を表しながら、ラフマンが一歩前に出た。
新国王陛下も殿下も、同じその新緑の瞳を光らせる。

「畏れながら申し上げます、陛下。わたくしは公爵家に不本意ながらも従い、武具の製造という悪事に加担してしまいました。しかし、この場でその武具について申し開きをさせて頂きます」
「うむ。是非聞かせて貰えるか?」

ラフマンを見つめる陛下の瞳は慈愛に満ちたものだった。
それは陛下が『寛容の主君』と謳われるのを裏付けるかのように、深く深く民を包み込むような色だ。
陛下の慈愛を受けて、ラフマンが大きく息を吸う。
一瞬の静寂のあと、彼の口が大きく開く。

「わたくしが設計した武具は、欠陥品にございます!」

先ほどとは打って変わって、どこか誇らし気にラフマンが朗々と告げた。
その声は謁見の間に集まった全員の耳にちゃんと届いたことだろう。
人間は誰だって罪の告白よりも、自分の英雄譚を語る時の方が声が大きくなるものだ。
ラフマンだって御多分に洩れず、自分が成し遂げた謂わば『武功ぶこう』と言うべき内容をこの場で述べたくてウズウズしてしているのだろう。
わたくしは目の前の友人に向かって応援するような気持ちで笑いかけた。
彼は大きく胸を張って、意志の強い瞳を輝かせる。
わたくしはその瞳に勝利の宣言を見た。

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