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あれからいくつかの季節を越えて、今ではわたくしも三児の母になりましたわ。
ティナは女領主として立派に家督を継いで、婿養子になったジュード様との間に双子をもうけました。
ラフマンはあれから勉強を重ね、今ではラフマン商会を手広く展開しております。
メリーとヴァニは和平が確約されたルネーブル王国の騎士たちに見初められ、それぞれ嫁いで行きましたの。
そうそう、謁見の間での断罪式から2年後に、あの国はルネーブル王国に滅ぼされました。
商魂たくましいあの国は、やはり武具を密輸してルネーブル王国に攻め入ったのですが、一夜にして殲滅されたそうですわ。
ルネーブル王国は好戦国ながら豊富な資源がある国ですから、その魅力に抗えなかったのでしょうね。
本当に莫迦な選択ほど身を滅ぼすものですわ。



「おかーーーーさまーーーー!」

わたくしは筆を置いて、わたくしを呼ぶ愛しい我が子の元へ向かう。

「お父様がお帰りなの!お母様も一緒にお出迎え致しましょう」
「僕が木に登ってお父様の馬車を見付けたんだよ!」
「僕はお兄様が木に登るお手伝いをしたよ!」
「あらあら、危ないことは控えるように言ったはずですよ。…わたくしに似てお父様が大好きだこと」

陽だまりのような笑顔を見せてくれる我が子たちを抱きしめて、殿下を迎えるために玄関ホールに歩を進めた。
先に到着した馬車から降りてきた補佐官に声を掛けると、これ幸いとばかりに書類を押し付けられる。

「殿下はこれから一週間の休養に入られるおつもりです。その間にこの書類をお願い致します」
「ハルト様ったら、また無理を通したのね…。いつも手間をかけるわ」
「そこが殿下の長所であり短所です。私は嫌いではございませんが、殿下のご希望を全て叶えると職務が滞ってしまいますので…」
「ありがとう。貴方もちゃんと休養を取ってね」

わたくしに一礼をすると補佐官は馬車に再び乗り込み、陛下が待つ宮殿へと向かった。
殿下は陛下の影として忠実に執務をこなしている。
時々、わたくしたちとの時間を大切にするあまり無理に長期休みをとることもあるけれど、公務に支障のない程度には抑えてくれていた。

「レミティ、ただいま!僕の愛しい宝石たちも、帰りを待ってくれていたのかい」

エメラルドグリーンの瞳を細めながら、殿下が馬車から降りて来る。
子供たちが駆け寄り、一人一人が大好きな父にハグを贈った。
次男を肩車し、右手に長女、左手に長男を連れた殿下がわたくしに歩み寄る。

「おかえりなさいませ、あなた。お疲れでしょう?湯浴みの準備は整えてありますよ」
「一緒に入ってくれるのかな?レミティ」

頬にキスをしながらニヤリと笑う殿下に、わたくしもニヤリと笑って答えた。

「あなたが無理を通したお陰で、わたくしに仕事が回ってきました。あなたの背中を追いかけるためには、この書類を片付けなくてはいけないわ。優秀な旦那さまを持つと、背中を託されるのも骨が折れるものよ」

そう言って先ほど預かった書類の束を見せる。
殿下は小さな笑い声を上げて、今度は唇にキスをくれた。

「さすが僕が愛を捧げる唯一の女性だ。君はますます気高く美しくなるね。今夜の君も楽しみだ」

また頬、額、そして耳元にキスをしてようやく帰宅の挨拶が終わる。
エントランスをくぐりながら、殿下がわたくしに尋ねてきた。

「君の髪から墨の香りがしたけれど、それ以外に書類仕事でもあったのかい?」
「あぁ…、いいえ、少し手紙を書いていただけよ」
「手紙?クリスティーナ嬢へかな?」
「ふふふ。いいえ、誰へ宛てるともなしに書いたの。わたくしの独り言みたいなものよ」

わたくしたちは揃って夕食を囲み、団らんの時を過ごした。
夜、殿下の床に向かう前に、わたくしは先ほどの書きかけの手紙を完成させた。
それから静かに殿下の元に向かい、あたたかな腕に抱かれる。



グレゴリオ公爵とラミア男爵令嬢については、処刑されたと言う話は聞きません。
しかし誠に申し訳がございませんが、わたくしはお二人に対して本当に興味がございませんで…。
その後のお二人のご様子はまったく存じ上げません。
生憎とわたくしはハルト様とそして子供たち、それからこの国の幸せを見届けることで精一杯でございます。
この国の民である限り、お二人ともそれなりに幸せに過ごせるとよろしいですわね。

END
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