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あの一件で公爵は爵位をはく奪された。…はずだった。
やはり元老院が不服を申し立てて来たため、その家督を息子に譲ると言うことで決着がついてしまったのだ。
私文書偽造という罪を犯しておいて何の罪にも問われないなんて莫迦げている。
「レミエット様、この度のご婚約、誠におめでとうございます!」
「こうしてレミエット様とお茶会が出来て、皆も光栄に思っておりますわ」
今日は友人であるメリーナ伯爵令嬢の招待で気の置けない仲間たちとお茶会だ。
ヴァネッサ伯爵令嬢が西部で流行っていると言う珍しいお茶を淹れてくれ、皆で思い思いに語らって過ごしている。
「こんなことを言ってはなんですけれど、グレゴリオ小公爵との縁談が白紙となって本当にホッと致しましたわ」
「あら、メリーナ様、今はグレゴリオ公爵ですわよ」
「ま、私としたことが…。けれど彼には勿体ない爵位ですわ。あのまま公爵家解体となれば良かったのに…」
「それはこの会場の皆が思っていることですわ。わざわざ口に出さなくても、ね!」
メリーナ伯爵令嬢とヴァネッサ伯爵令嬢はとりわけ仲が良い。
二人が語らう声は、まるでカナリアが囁き合うように楽し気で軽やかだ。それでいて美しい声色に、わたくしもついつい頬を緩めてしまう。
それそれがお茶や焼き菓子に舌鼓を打ちながら、歓談を続けていた時だった。あの男爵令嬢が会場に現れたのは。
「まぁ!みなさま御機嫌よう♡酷いですわぁ、私に内緒でこのようなお茶会を開かれるなんてぇ~♡」
いつもの様に語尾を長ったらしく伸ばして、ピンクのフリフリのドレスをワッサワッサと翻しながらこちらへ近寄って来る。
それまで鈴が鳴るような笑い声を上げていた令嬢たちが、しーんと水を打ったような静けさを見せた。
「えぇ~?みなさま、どぉ~してそんな顔をなさるの?…あぁ♡未来の公爵夫人となる私に緊張しておいでなのね♡ご安心くださいませ、私は爵位で物を考えたり致しませんわ♡例え私よりも下であっても分け隔てなく接して差し上げますわ♡」
彼女の恐ろしいところは、本気でそう思っているところだ。
五等爵の中で一番下の階級である男爵家の令嬢にもかかわらず、この会場に居る誰よりも自分の身分が上であると本気で思っている。
相変わらず脳内お花畑で羨ましい限りだ。
「…ラミア男爵令嬢、このお茶会は私が主催している私的なものですわ。私が大切にしている友人だけでの楽しい席ですの。申し訳ありませんが、ラミア男爵令嬢の席は設けておりません。お引き取りになって?」
「まぁ!まぁ!メリーナ様?この国唯一の公爵夫人となる私の席がないなんて、どうしたことですの?よろしくてよ、私その席で。そこのアナタ、退いてくださる?」
「……」
ラミア男爵令嬢に「退け」と扇を指されたヴァネッサ伯爵令嬢が静かにティーカップを置く。
それを了解の合図と受け取ったラミア男爵令嬢は、ドレスをテーブルの脚にぶつけてガチャガチャと音を鳴らしながら座る準備をしていた。
「…では皆さん、わたくしたちは温室で演奏会でも致しましょうか」
わたくしはため息を吐きながら席を立つ。
このお茶会で一番爵位の高いわたくしが一番に席を立たないと、他の令嬢は身を動かせないからだ。
わたくしの声の後に、一斉に席を引く令嬢たち。
もちろん、誰もが優雅な身のこなしで物音ひとつ立っていない。
「…っ!ひっどぉぉぉぉい!!やっぱり、レミエット様は意地が悪い方ですわぁぁ!!アラン様もスティード様もそう思われますよねぇ♡」
彼女が振り返った先には、メリーナ伯爵令嬢とヴァネッサ伯爵令嬢の婚約者たちの姿があった。
アラン侯爵令息とスティード侯爵令息だ。
二人とも貴族派の生家の生まれで、どちらも嫡男である。
「あぁ、アラン様が彼女をご招待なさったのね?それでは、責任を持って彼女のことをおもてなしなさったらよろしいのでは?」
「メリー!お前はどうしてそんなに冷たい人間なんだ!!」
「ヴァネッサ、お前も仲間外れをするような人間だと思わなかったよ」
「スティード様こそ、ラミア男爵令嬢と親密な関係だったとは思いませんでしたわ」
会場の雰囲気が一気に張り詰める。
「きゃ~♡お二人ともお顔が怖いですわぁ♡だから男性から愛情を頂けませんのよ?私のように男性を立てて差し上げなくちゃぁ♡」
場違いな声色を出し続ける男爵令嬢は、本当の莫迦なのか、それとも一周回った天才なのか分からない。
わたくしが再び口を開こうとした時、珍しいご令嬢の姿が目に入った。
やはり元老院が不服を申し立てて来たため、その家督を息子に譲ると言うことで決着がついてしまったのだ。
私文書偽造という罪を犯しておいて何の罪にも問われないなんて莫迦げている。
「レミエット様、この度のご婚約、誠におめでとうございます!」
「こうしてレミエット様とお茶会が出来て、皆も光栄に思っておりますわ」
今日は友人であるメリーナ伯爵令嬢の招待で気の置けない仲間たちとお茶会だ。
ヴァネッサ伯爵令嬢が西部で流行っていると言う珍しいお茶を淹れてくれ、皆で思い思いに語らって過ごしている。
「こんなことを言ってはなんですけれど、グレゴリオ小公爵との縁談が白紙となって本当にホッと致しましたわ」
「あら、メリーナ様、今はグレゴリオ公爵ですわよ」
「ま、私としたことが…。けれど彼には勿体ない爵位ですわ。あのまま公爵家解体となれば良かったのに…」
「それはこの会場の皆が思っていることですわ。わざわざ口に出さなくても、ね!」
メリーナ伯爵令嬢とヴァネッサ伯爵令嬢はとりわけ仲が良い。
二人が語らう声は、まるでカナリアが囁き合うように楽し気で軽やかだ。それでいて美しい声色に、わたくしもついつい頬を緩めてしまう。
それそれがお茶や焼き菓子に舌鼓を打ちながら、歓談を続けていた時だった。あの男爵令嬢が会場に現れたのは。
「まぁ!みなさま御機嫌よう♡酷いですわぁ、私に内緒でこのようなお茶会を開かれるなんてぇ~♡」
いつもの様に語尾を長ったらしく伸ばして、ピンクのフリフリのドレスをワッサワッサと翻しながらこちらへ近寄って来る。
それまで鈴が鳴るような笑い声を上げていた令嬢たちが、しーんと水を打ったような静けさを見せた。
「えぇ~?みなさま、どぉ~してそんな顔をなさるの?…あぁ♡未来の公爵夫人となる私に緊張しておいでなのね♡ご安心くださいませ、私は爵位で物を考えたり致しませんわ♡例え私よりも下であっても分け隔てなく接して差し上げますわ♡」
彼女の恐ろしいところは、本気でそう思っているところだ。
五等爵の中で一番下の階級である男爵家の令嬢にもかかわらず、この会場に居る誰よりも自分の身分が上であると本気で思っている。
相変わらず脳内お花畑で羨ましい限りだ。
「…ラミア男爵令嬢、このお茶会は私が主催している私的なものですわ。私が大切にしている友人だけでの楽しい席ですの。申し訳ありませんが、ラミア男爵令嬢の席は設けておりません。お引き取りになって?」
「まぁ!まぁ!メリーナ様?この国唯一の公爵夫人となる私の席がないなんて、どうしたことですの?よろしくてよ、私その席で。そこのアナタ、退いてくださる?」
「……」
ラミア男爵令嬢に「退け」と扇を指されたヴァネッサ伯爵令嬢が静かにティーカップを置く。
それを了解の合図と受け取ったラミア男爵令嬢は、ドレスをテーブルの脚にぶつけてガチャガチャと音を鳴らしながら座る準備をしていた。
「…では皆さん、わたくしたちは温室で演奏会でも致しましょうか」
わたくしはため息を吐きながら席を立つ。
このお茶会で一番爵位の高いわたくしが一番に席を立たないと、他の令嬢は身を動かせないからだ。
わたくしの声の後に、一斉に席を引く令嬢たち。
もちろん、誰もが優雅な身のこなしで物音ひとつ立っていない。
「…っ!ひっどぉぉぉぉい!!やっぱり、レミエット様は意地が悪い方ですわぁぁ!!アラン様もスティード様もそう思われますよねぇ♡」
彼女が振り返った先には、メリーナ伯爵令嬢とヴァネッサ伯爵令嬢の婚約者たちの姿があった。
アラン侯爵令息とスティード侯爵令息だ。
二人とも貴族派の生家の生まれで、どちらも嫡男である。
「あぁ、アラン様が彼女をご招待なさったのね?それでは、責任を持って彼女のことをおもてなしなさったらよろしいのでは?」
「メリー!お前はどうしてそんなに冷たい人間なんだ!!」
「ヴァネッサ、お前も仲間外れをするような人間だと思わなかったよ」
「スティード様こそ、ラミア男爵令嬢と親密な関係だったとは思いませんでしたわ」
会場の雰囲気が一気に張り詰める。
「きゃ~♡お二人ともお顔が怖いですわぁ♡だから男性から愛情を頂けませんのよ?私のように男性を立てて差し上げなくちゃぁ♡」
場違いな声色を出し続ける男爵令嬢は、本当の莫迦なのか、それとも一周回った天才なのか分からない。
わたくしが再び口を開こうとした時、珍しいご令嬢の姿が目に入った。
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