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あの謁見の日から半月ほど経って、またもや公爵が殿下の宮に押しかけてきた。
今度は元老院の議長も一緒だ。

「殿下!話が違うじゃないですか!!」

時候の挨拶など無視して、いきなり喚き散らす公爵を、隣席した議長が制す。

「公爵殿、いささか興奮なさり過ぎですぞ。その気持ちは分からぬでもないが、殿下の御前、言葉遣いには十分にご注意召されよ」
「し、しかし、議長…!」
「殿下も話せば分かってくださる。この国の第二王子を名乗っておいでなのだからな…」

いちいち鼻につく言い回しで議長が宣う。
その様子を面白そうに眺める殿下に倣って、わたくしも彼らを諫めず傍観した。

「……チッ…。…畏れながら申し上げます、殿下。先日証書を交わした鉱山から、あの新種の宝石は発掘されませんでした!それなのにあろうことか、侯爵家の他の鉱山からは次々と発掘されていると言うじゃありませんか!侯爵家と手を結び、私をたばかったのですね!!」
「公爵殿が仰ることが真実ならば、王族の貴殿きでんが一介の貴族にする仕打ちとは思えません。直ぐにでも元老院裁判を開いてつまびらかに致しましょう」

議長は恭しくこうべを垂れながら話し始め、言葉の結びで殿下にあざけりの混じった視線を送る。

「良い、その必要はない」

右手をあげながら殿下が短く答えた。
その合図で補佐官が動く。
殿下の言に噛み付いたのはやはり公爵だ。

「何故です!どうせそこの狡賢ずるがしこい女狐が、己の家紋の借金をなくすために、宝石が発掘されたのとは別の鉱山を私に寄越したのでしょう!?殿下もそれを知った上での行いなんでしょうが!」

興奮して目を血走らせて、公爵の顔は醜く歪んでいた。
議長はその顔を見て眉間を少しだけ寄せ、それから殿下に向き直り口を開く。

「公爵殿が買い上げた鉱山からは出ず、侯爵家の残りの鉱山からは次々に発掘されている、この事実をどうご説明なさるのですか、殿下?……何をそんなに笑っておいでなんですか。悲痛を訴えている者の姿がそんなに面白いのですか?」
「あぁ、面白い。昨日、公爵が譲り受けた鉱山から新たに出た宝石を見せてもらったばかりだぞ。公爵の話と全く食い違うな。よもや二人で私を騙すつもりではなかろうな?」
「なっ…!殿下、よくもそんな嘘が付けるものですな!!どれだけ掘り起こしても出てくるのは真っ黒な石ころばかり!あんな石ころが何の役に立つと言うんですか」
「…驚いたな。公爵は石の価値も見抜けぬほどにボンクラとは。お前が石ころと言ったそれが原石だ」

殿下の言葉に驚愕の色を隠せない公爵は、ガタガタと震え出した。
買い取った鉱山から宝石が出ないと腹を立てた公爵は、その利権を放棄してしまったらしい。
鉱山から出た公爵にとって価値のない石ころの処分に困り、その廃棄をするのを条件に鉱山を下げ渡したと領地からの報告書にあった。

本当に目先の利益にしか考えの及ばない人間ですわね。
そのお陰でわたくしとグレゴリオとの誓約破棄書も、すんなりと手に入ったのでしょうけれど…。
さすが肉欲に負けてラミア男爵令嬢の手を取った男の親だわ。

「……これは、これは、公爵殿の見識の甘さが露呈した結果と言えましょうな」

呆然とした様子の公爵を横目で見遣って、議長は殿下を静かに見据える。
殿下のグリーンアイは静かに議長を見下ろしていた。

「さて、議長。私は元老院裁判にかけられてしまうのか?」
「とんでもないことでございます、殿下。全ては公爵殿が無知過ぎた故のこと。この国の王位継承権2位である殿下を裁判にかけるなどできますまい」
「そんな…!議長!!」

公爵は議長に縋る素振りを見せるが、議長は素知らぬ顔をしている。

「ではそちらの話は終わりで良いか?良いのなら私から公爵へ確認したいことがあるのだが」
「…か、確認したいこと?」

補佐官が殿下の目礼で二人の前に洋紙を広げた。
その洋紙には公爵家が過去に領地統制で行って来た事業を一覧にしてある。
目の前の公爵が『行ったの功績表』なのだ。

「さて、公爵。お前はこの中のを成し遂げた?」
「……仰っている意味が分かりませんな、殿下。これは私が公爵の位を義父から引き継いで成したもの。むろん、全ての項目をが成し遂げたに決まってます!!」
「そうか。…書記官、今の公爵の言葉もちゃんと書き留めておるな?」
「は!先ほどからのげんは一句残らず認めております!」

殿下と書記官のやり取りに困惑する公爵と、何かを勘付いたのか盛大に顔を顰める議長。
その二人の様子をじっくりと見遣ってから、殿下はわたくしへ視線を移す。

「ではレミティ、二人に君の話を教えてあげてもらえるかな?」

二人に向ける厳しい顔とは全く違う蕩けるように甘い笑みを浮かべて、殿下が言った。
わたくしは殿下に同じような微笑みを返してから、反撃の狼煙のろしをあげたのだ。
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