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あの日の執務室での参謀から、わたくしたちはひっそりと、けれども確実に準備を進めている。
わたくしはラミア男爵令嬢とグレゴリオについて、殿下は元老院について動いた。

「レミティ、そろそろお茶にしようか」
「もうそんなお時間ですか?何かに没頭していると、時が経つのが早いですね」

執務室にほど近いサロンで午後のお茶会を楽しむのがわたくしたちの日課になっている。
準備を進めているのは謀略ばかりではない、わたくしたちの婚約披露宴についても着々と準備は整えられた。
その準備は殿下が率先して行ってくれている。
今日のお茶会の議題も、披露宴で着るドレスについてがメインだった。

「マダムリューリューのドレスは少し派手過ぎるかな…。レミティはシンプルな形と色が似合うからね」
「そうなんですか?わたくしにはよく分かりませんが…」
「神前に立つ結婚披露宴では白いドレスと決まっているから、婚約披露宴では派手な色を選ぶのが常だけど、僕としては真っ赤なドレスや今流行の黄色や黒を散りばめたドレスは着て欲しくないなぁ」
「…殿下、女性のドレス選びを男性が指図するものではありませんよ。先日も王妃殿下にお叱りを受けたばかりではないですか」

殿下のご両親、つまり国王陛下、王妃殿下とも懇意にしていただいて、先日も4人でディナーを楽しんだばかりだ。
わたくしのドレス選びに難航する殿下に対して、妃殿下は「男が女の裏事情に首を突っ込むんじゃない!」と一喝していた。
わたくしとしては何色のドレスでも構わないのだけど、どうせなら殿下に可愛いと思われたい。

「…では、わたくしはエメラルドグリーンのドレスが着たいです、ハルト様」

パートナーの瞳の色のドレスを着るのは、貴族令嬢の嗜みだ。
とは言え、わたくしはグレゴリオの瞳の色である黄色は苦手で袖を通したことがない。
それを考えると、あの夜のラミア男爵令嬢はド派手な黄色のドレスを着ていた。
あのドレスを選んだ時点から、公爵夫人の座は自分のものだと確信していたのかしら。

「僕の瞳の色を…、……。…レミティ!!こうしちゃいられない、明日にでも婚約披露宴をして、明後日には結婚披露宴をしよう!結婚式を終えるまで、君とねやを共に出来ないなんて拷問だ!!」
「殿下、ご自分に正直過ぎるご意見です。私は嫌いではございませんが、淑女の侯爵令嬢様には刺激が強過ぎます」

今にもわたくしに抱き着かんとしている殿下を補佐官が諫める。
殿下のスキンシップはわたくしにとっては多少過激なところもあって、心音の高鳴りを休められる日は一日もない。

「レミティからの愛情表現は僕を一気に高まらせるから厄介だ。けれど、こんな気持ちは今まで経験したことがなくて心地が良い。レミティ、僕のお姫様、僕の愛しいひと、大好きだよ」
「…わたくしもお慕い申し上げております、ハルト様」

補佐官の柔らかな窘めの後は、必ず殿下の愛の囁きで結ばれる。
もちろん、甘言のあとには甘い口付けも待っている。
最近はその口付けも深いものになってきた気がしてならない。
昨日は唇の裏側を殿下の舌先でひとなめされてしまったのだ。

「レミティ、その赤いかんばせが僕の心を揺すぶってならない。可愛い、可愛い僕のレミティ…」
「ハルト様…んっ」

殿下の唇がわたくしの唇に重なり、殿下の濡れた舌先がノックをするように固く結ばれた隙間を叩く。
その感触に僅かに口元を綻ばせると、瞬時に入って来た舌先がわたくしの舌先と絡んだ。
最後にわたくしの口内の唾液を吸い出して、唇を離した殿下は妖艶に微笑む。

「…うん、これで夜までの公務が捗りそうだ。君は僕の潤滑油だからね」

わたくしの大好きな緑色の瞳を細くして、ため息が出るくらいに美しい笑顔の殿下。
殿下は惚けたわたくしの唇に残る雫を指で掬い取って、口付けるようにして自分の口に含む。

「レミティ、いつまでもそんな顔をしていたら本当に襲ってしまうよ?」
「…っ!」

指先を繰る殿下に見惚れていると、耳元で殿下に囁かれてしまう。
わたくしはビクンと肩を鳴らしたのち、全力で殿下と距離を取った。

「ハ、ハ、ハルト様!最近のハルト様は御戯れが過ぎますっ!!」
「戯れではなく本気なのだから仕方がない。さぁ、レミティ、執務室に戻ろうか」
「…もうっ!」

自然な仕草で差し出された殿下の手を取りながら、わたくしはネズミ駆除の計略に戻った。
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