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ドキドキ同棲編
終止符
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「そう言うんじゃない……違う……違うんだよ大輔くん」
「ん?」
ふつふつとした怒りが私のお腹に溜まっていくのが分かる。
何も言わずに一人悶々と悩んでいたのは自分で、大輔くんが何も知らないのは当然のことだ。
これは自業自得だ。
けれど、私は他でもない大輔くんのことで悩んでいるのだ。
なぜ目の前の恋人は、ニコニコと私とエッチする算段ばかり立てているんだろうか。
私の悩みを吹き飛ばす?
こちとら貴方の元カノのことで禿げそうなくらいに悩んでるんですけど?
お陰様で転職活動用の履歴書作成がちっとも進まないんですけど?
知ってるー! それも、これも、どれも、自分のせい!!!
サクッと大輔くん本人に聞けば良いようなことも、ビシッと聞けないチキンハートな自分のせい!
大輔くんより一回りも年嵩なのに、仕事も恋愛も上手く立ち回れない自分のせい!
だけど、安穏とした空気でエッチのことしか考えてない風な大輔くんに酷く腹が立ってしまった。
「この間のパーティーで、大輔くんの元カノさんに声を掛けられたんだよ」
「……元カノ?」
唐突な私の言葉に、大輔くんが怪訝な顔をした。
「すっごい美人さんで驚いた。私と同い年って言ってたけど、私なんかより綺麗で、スタイルも良くて、全身からエネルギーを放出してます~! みたいな感じで……。あの場に居たぐらいだから、きっと社会的なステータスもあるんじゃない? 美人で仕事も出来るなんて最強やん。ほんと、私との共通点って年齢だけなんじゃないかな」
大輔くんが口を挟む暇もないほど、私は早口でまくし立てる。
取り留めもない思考から、ポンポンとマイナスな言葉ばかり出てくる。
「ミスK大だけじゃなくてあんな美女まで元カノなんて、やっぱり大輔くんはモテモテだねぇ~。あの美人さん、私なんかより大輔くんにお似合いなんじゃない? 元鞘に戻りたいって言ってたし!!」
「希帆さん」
「ほら、私なんかこの歳で無職の危機に立ってる崖っぷちアラサーだし、何か取り柄があるわけでもないし、大輔くんが私を選び続ける義理もないって言うかね? だから……ーーー」
「希帆さん!」
だから『元鞘に戻りたいなら戻って良いよ』と続けるつもりだった私の言葉は、大輔くんの力強い声に阻まれた。
「俺が好きなのは希帆さんだよ。希帆さんだけ」
ゆっくりと落ち着いた口調で諭すようにそう言われ、真っ直ぐな大輔くんの瞳に射抜かれる。
その顔は怒っていると言うより、私の言葉に傷付いているような表情だった。
「俺の過去の付き合いのせいで希帆さんを不安にさせてごめんね」
膝の上で白くなるくらいに硬く握りしめていた私の手を、大輔くんの大きな手が覆う。
その温もりが私の気持ちまで溶かしてくれるようだった。
……それでもまだ、自分の濁流のような怒りが私を開放してくれない。
「……本当は、私がハジメテの相手じゃないんでしょ?」
パーティーで会った美女の勝ち誇った顔が頭から離れない。
「キスの仕方も、下着の外し方も、愛撫の方法も、全部その元カノさん好みに教えられたんでしょ?」
ここ数日で折り重なった怒りが、喉元までせり上がって来る。
あの夜の美女の亡霊に、じっとりと首を絞められているようで苦しい。
上手く息が出来なくて、呼吸の為に口を開けても出てくるのは恨み言ばかりだ。
自分の性格の悪さが嫌になる。
「私はその元カノさんの……代わり……だった……?」
震える声でそう尋ねて、傍らの大輔くんに視線を向ける。
彼の色素の薄い瞳は「なぜそんなことを言うのか」と私に問い掛けているようだった。
「……希帆さん、それ本気で言ってる?」
私の手を覆う大輔くんの手の平が、ぐんぐん体温を下げていく。
皮膚から彼の怒りが伝わって、ついつい萎縮してしまいそうになった。
「だって! もう、分かんないんだもん! パーティーの後から急に大輔くん忙しくなるし、理由聞いても教えてくれないし、色々とぐるぐる考えちゃって……もう……分かんない……」
すくみ上がりそうな身体を自身で鼓舞しながら、心に巣食う不安を大輔くんにぶつける。
「大輔くんだから大丈夫、って思ってても、それまでなかった一人の時間に悪い考えばかり浮かんで……。もしかしたら、今、元カノさんと会ってるのかな? 私に愛想尽かしちゃったのかな? ってどうしても……、後ろ向きに考えちゃうんだもん……」
一度こぼれ始めた気持ちは、堰を切ったようにあふれ出す。
心臓がバクバクと鳴ってうるさい。
「それなのに大輔くんはエッチばっかりでさ! そりゃ、ちゃんと話をしてなかった私も悪いんだけど、私がこんなに悩んでるのにエッチなことするの? エッチが出来たら良いの? ってイライラしちゃってさ……。もう、やだなって思って……」
そこまで一気に話してしまって、ふぅと息を吐く。
いつの間にか私の両手は、大輔くんの両手にギュッと包まれていた。
大輔くんの手が冷たいのか熱いのか分からない。
何しろずっと両手を握りしめていたせいで、手の感覚がもうなかった。
「元カノさんに会ってから、大輔くんに触れられてもキスされても……何されても……私以外の人にも同じことしたのかなとか、このキスは誰に習ったんだろうとか……考えちゃっ……て…………」
私はとうとう、堪え切れずに雫を落とす。
一つ、二つと落ちて、それは直ぐに滂沱の涙になった。
「でも、大輔くんのこと好きだから、触られたら気持ち良いし、嬉しいし、もっと訳が分からなくなっちゃうし、もう……もうぅぅぅ……っ」
嗚咽混じりにそう吐き出して、それからは感情のままワンワン鳴き声を上げる。
「もう……分かんないぃぃぃ……」
この感情の終止符が、自分でも分からなかった。
「ん?」
ふつふつとした怒りが私のお腹に溜まっていくのが分かる。
何も言わずに一人悶々と悩んでいたのは自分で、大輔くんが何も知らないのは当然のことだ。
これは自業自得だ。
けれど、私は他でもない大輔くんのことで悩んでいるのだ。
なぜ目の前の恋人は、ニコニコと私とエッチする算段ばかり立てているんだろうか。
私の悩みを吹き飛ばす?
こちとら貴方の元カノのことで禿げそうなくらいに悩んでるんですけど?
お陰様で転職活動用の履歴書作成がちっとも進まないんですけど?
知ってるー! それも、これも、どれも、自分のせい!!!
サクッと大輔くん本人に聞けば良いようなことも、ビシッと聞けないチキンハートな自分のせい!
大輔くんより一回りも年嵩なのに、仕事も恋愛も上手く立ち回れない自分のせい!
だけど、安穏とした空気でエッチのことしか考えてない風な大輔くんに酷く腹が立ってしまった。
「この間のパーティーで、大輔くんの元カノさんに声を掛けられたんだよ」
「……元カノ?」
唐突な私の言葉に、大輔くんが怪訝な顔をした。
「すっごい美人さんで驚いた。私と同い年って言ってたけど、私なんかより綺麗で、スタイルも良くて、全身からエネルギーを放出してます~! みたいな感じで……。あの場に居たぐらいだから、きっと社会的なステータスもあるんじゃない? 美人で仕事も出来るなんて最強やん。ほんと、私との共通点って年齢だけなんじゃないかな」
大輔くんが口を挟む暇もないほど、私は早口でまくし立てる。
取り留めもない思考から、ポンポンとマイナスな言葉ばかり出てくる。
「ミスK大だけじゃなくてあんな美女まで元カノなんて、やっぱり大輔くんはモテモテだねぇ~。あの美人さん、私なんかより大輔くんにお似合いなんじゃない? 元鞘に戻りたいって言ってたし!!」
「希帆さん」
「ほら、私なんかこの歳で無職の危機に立ってる崖っぷちアラサーだし、何か取り柄があるわけでもないし、大輔くんが私を選び続ける義理もないって言うかね? だから……ーーー」
「希帆さん!」
だから『元鞘に戻りたいなら戻って良いよ』と続けるつもりだった私の言葉は、大輔くんの力強い声に阻まれた。
「俺が好きなのは希帆さんだよ。希帆さんだけ」
ゆっくりと落ち着いた口調で諭すようにそう言われ、真っ直ぐな大輔くんの瞳に射抜かれる。
その顔は怒っていると言うより、私の言葉に傷付いているような表情だった。
「俺の過去の付き合いのせいで希帆さんを不安にさせてごめんね」
膝の上で白くなるくらいに硬く握りしめていた私の手を、大輔くんの大きな手が覆う。
その温もりが私の気持ちまで溶かしてくれるようだった。
……それでもまだ、自分の濁流のような怒りが私を開放してくれない。
「……本当は、私がハジメテの相手じゃないんでしょ?」
パーティーで会った美女の勝ち誇った顔が頭から離れない。
「キスの仕方も、下着の外し方も、愛撫の方法も、全部その元カノさん好みに教えられたんでしょ?」
ここ数日で折り重なった怒りが、喉元までせり上がって来る。
あの夜の美女の亡霊に、じっとりと首を絞められているようで苦しい。
上手く息が出来なくて、呼吸の為に口を開けても出てくるのは恨み言ばかりだ。
自分の性格の悪さが嫌になる。
「私はその元カノさんの……代わり……だった……?」
震える声でそう尋ねて、傍らの大輔くんに視線を向ける。
彼の色素の薄い瞳は「なぜそんなことを言うのか」と私に問い掛けているようだった。
「……希帆さん、それ本気で言ってる?」
私の手を覆う大輔くんの手の平が、ぐんぐん体温を下げていく。
皮膚から彼の怒りが伝わって、ついつい萎縮してしまいそうになった。
「だって! もう、分かんないんだもん! パーティーの後から急に大輔くん忙しくなるし、理由聞いても教えてくれないし、色々とぐるぐる考えちゃって……もう……分かんない……」
すくみ上がりそうな身体を自身で鼓舞しながら、心に巣食う不安を大輔くんにぶつける。
「大輔くんだから大丈夫、って思ってても、それまでなかった一人の時間に悪い考えばかり浮かんで……。もしかしたら、今、元カノさんと会ってるのかな? 私に愛想尽かしちゃったのかな? ってどうしても……、後ろ向きに考えちゃうんだもん……」
一度こぼれ始めた気持ちは、堰を切ったようにあふれ出す。
心臓がバクバクと鳴ってうるさい。
「それなのに大輔くんはエッチばっかりでさ! そりゃ、ちゃんと話をしてなかった私も悪いんだけど、私がこんなに悩んでるのにエッチなことするの? エッチが出来たら良いの? ってイライラしちゃってさ……。もう、やだなって思って……」
そこまで一気に話してしまって、ふぅと息を吐く。
いつの間にか私の両手は、大輔くんの両手にギュッと包まれていた。
大輔くんの手が冷たいのか熱いのか分からない。
何しろずっと両手を握りしめていたせいで、手の感覚がもうなかった。
「元カノさんに会ってから、大輔くんに触れられてもキスされても……何されても……私以外の人にも同じことしたのかなとか、このキスは誰に習ったんだろうとか……考えちゃっ……て…………」
私はとうとう、堪え切れずに雫を落とす。
一つ、二つと落ちて、それは直ぐに滂沱の涙になった。
「でも、大輔くんのこと好きだから、触られたら気持ち良いし、嬉しいし、もっと訳が分からなくなっちゃうし、もう……もうぅぅぅ……っ」
嗚咽混じりにそう吐き出して、それからは感情のままワンワン鳴き声を上げる。
「もう……分かんないぃぃぃ……」
この感情の終止符が、自分でも分からなかった。
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