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ドキドキ同棲編

龍臣の贖罪⑰【龍臣視点】

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園田の件は、あのあとあっさりと解決した。
とは言え、解決したのは希帆だ。



梅雨明け宣言が出た翌日の空は抜けるような青空で、夏の入り口どころかど真ん中なくらいの暑さだった。
そんな晴天の日に、希帆が忽然と姿を消したのだ。
三富たちと遊ぶ約束をしていた希帆が、猫神社に行く途中で行方不明になってしまったらしい。
待てど暮らせどやってこない希帆を心配して、三富たちが店まで知らせに来てくれた。

「源助さんが希帆のこと見たって言ってっから、タバコ屋までは歩いて来てんだよな…いくら方向音痴でも迷子ってこたぁねぇだろ……クソッ!やっぱり着いてけば良かった」
「龍臣さん、角屋かどやのおばあちゃんがさっき希帆ちゃんを見たって言ってます」
「高校生くらいの男も一緒だったって!希帆、誘拐されたんじゃない?早く助けに行かないと!」

祐一朗の言葉に全身の血の気が引いた。
実母とのいざこざが片付き、希帆の傷も癒えて来たことで失念していたが、園田の件が片付いていない。
まさか園田が希帆を拐ったのか…?

実母から解放された後、希帆は自分の武勇伝を聞かせてくれた。
『旦那』候補の男から最初に手をあげられた時、希帆はとっさに美由希直伝の【金蹴り】を喰らわせたらしい。
だからこそ、その後より酷く折檻されたようだが、希帆は自分でも男性に対抗出来るんだと気付いた。
あの時はお母さんも居て逃げれなかったけど、次は絶対に逃げ出してみせるよ、と希帆は胸を張る。
次なんて俺が許さねぇよ、と返すとふにゃりと頼りないけど、花の咲いたような笑顔を見せてくれた。

「園田の野郎…、ぶっ潰す…」

せっかく希帆に訪れた平穏を、脅かす因子は即刻排除したい。
その時の俺の顔は般若の面に近かったはずだ。
祐一朗はもちろん、普段表情筋が死んでいる三富でさえ顔を青くしていた。
俺が当てもなく駆け出そうとした時、角屋の先の曲がり角から希帆がひょっこり姿を見せる。

「…!希帆!!」

改めて地面を踏み込んだところで、希帆の背後に園田が立っているのに気が付いた。
引いた血の気が逆流するのが分かる。
俺の妹に何しやがった…!!クソッタレ!!

「ヲイ、コラ、園田ァ!!そこ動くんじゃねぇぞテメェ!!!」

園田に猛然と殴りかかる、けれど俺の行く手を阻んだのは希帆だった。

「りゅうにぃ、落ち着いて」

園田の前に両手を広げて立ちはだかった希帆は、俺にマテを申し付けると、背後に隠れるようにして立っている園田を振り返る。

「もう!園田くん!!そうやって泣いてちゃお話出来ないよ?ほら、りゅうにぃに言いたいことあるんでしょう?」

まるで幼児をあやすように、倍ほど年嵩としかさの男に優しく諭した。
呼び掛けられた園田は引くくらいに号泣している。

「……っく、……っく…、グスンッ!!……た、…龍臣…くん…いや……龍臣さんっ…!ぅぅ、グスングスン!…僕……僕ぅ………ぅ……うわぁぁぁん!!や、やっぱり…言えないよぉ~~!…あ、姐御あねご…僕…言えないっすぅ~~~~」

エーンと泣き出した園田を、希帆がため息混じりに慰める。
俺や、少し遅れて俺に追いついた三富と祐一朗は、小学生に慰められる男子高校生と言うシュールな風景を見守るしかなかった。




「ぅぅ…グスン、グスン!め、面目ないっす、姐御ぉ…ぅぅ…」
「はいはい。お鼻チーンして?」
「ぢーーーーんっ!!!」

俺は怒りで口角をピクピクと震わせながら、希帆が園田の世話を焼き終わるのを待つ。
逸弥と美由希も合流して、取り敢えず猫神社までやって来た。
三富が張り巡らしたトラップは、源助さんたち町内会の大人が全て撤去したらしい。
不満気な声を上げる三富を祐一朗が諌めていた。

「園田くん、お水飲む?」
「はいっす」
「…………ヲイ」

そろそろ我慢の限界だったので眼前の二人に声を掛ける。
すると、水を飲んでいた園田が驚いたのかペットボトルを握り潰し、顔面にミネラルウォーターを引っ被った。
それを見た希帆がワタワタとまた世話を焼くものだから、俺の怒りは最高潮に達してしまう。

「いい加減にしろやぁ!!!オメェ、なんで希帆に世話焼かれてんだコラ!!テメェでしたこと忘れやがったのかよ?オメェは希帆の拉致を指示した張本人だろーがっ!!!」

そう一気に捲し立てると、園田が俯いて肩を落とす。
俺の後ろで逸弥と美由希が腕組みをして頷いていた。

「…その件は……本当に申し訳ないことをしたと…思ってる………ます」

園田がボソボソと話し出す。
その態度が俺の神経を逆撫でした。

「思ってるますだぁ?オメェ舐めた口利いてんなよ?俺と逸弥に馴れ馴れしくして来たかと思えば泣いて希帆に慰められて…、…ふざけんじゃねぇぞ!!」

逸弥が背後でボソリと「お前、希帆ちゃんに構われてる園田が羨ましいだけじゃん」と呟く。
園田には聞こえなかったみたいだが、三富たちの耳にはバッチリ届いたようで、二人の肩が僅かに震えていた。

「……僕は…僕は…、龍臣くん…、…龍臣…さん、たちと…友達になりたかった!……です…」
「ダチだぁ?」

盛大に顔を顰めた俺に、希帆がキッと鋭い視線を寄越す。
情けないがその強い瞳にたじろいだ。

「りゅうにぃ、いちいち怖い顔しないで。園田くんが怯えちゃうでしょ!ほらほら、園田くんも頑張って伝えなきゃ」

そう言って園田の背中を優しく叩く希帆は、すっかりお姉ちゃんの顔をしている。
由香里の相手をしている時と同じ顔だ。

「はいっす…。…僕は……中学校でいじめられてて…自分を変えたくて知り合いの居ない今の高校を受けました。所謂いわゆる高校デビューってやつで…けど、入学式で三年の先輩に目を付けられて…そっからパシられてました…。でも!龍臣くん…龍臣さんたちが、その先輩たちをシめてくれたお陰で解放されたんだ!……です…。だから…僕にとっては…二人はヒーローで、仲良くなりたくて…ついつい…あんな態度を………ぅぅ…すいませんっす…ぅぅ……」

俺は逸弥と顔を見合わせると、大きなため息を吐く。

「だからって希帆の拉致を見逃すわけにゃいかねーよ」

頭を掻きながらそう言うと、代わりに希帆がそれに答えた。

「それはあのお兄さんが勘違いしたんだって。園田くんはまず私と仲良くなって、りゅうにぃに謝ろうって思ってたらしいよ。そうだよね?園田くん?」

聖母のような希帆の問い掛けに、園田はブンブンと首を縦に振る。
気に入らねぇが、希帆のこの様子だと園田を跳ね返す訳にもいかなそうだ。

「…」

うるる、と瞳を潤ませて希帆が無言で「ダメ?」と問うた。
俺の後頭部に逸弥の愉快そうな視線が突き刺さる。
せめてもの抵抗として目を瞑り、深い深い息を吐き出した。

「……園田、勘違いつったってお前の指示で希帆が危ない目に遭ったのは事実だ。悪いと思ってんならこれから巻き返せ。取り合えず……今日は俺のメシ食いに来い」

今日は希帆が好きなオムライスだからな、と付け加えると希帆と園田は手を握り合って喜んだ。
ちっとも面白くないが、希帆が笑ってられるなら何でも良いかとも思う。
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