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ドキドキ同棲編
龍臣の贖罪⑭【龍臣視点】
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俺たちも馬鹿じゃない。
あの女が希帆に対して再び手をあげることなんて想像に難くない。
けれど『親権』を振りかざされてしまったら、他人の俺らじゃどうにもならない。
ババアは闇雲に母親と希帆を会わせようとしていた訳じゃなかった。
希帆の親権を制限する申し立てをする前に、希帆の母親の説得を試みたそうだ。
親権を喪失させてしまう手続きも出来るらしかったが、そうすると二度と親子関係は修復できない。
ババアは同じ人の親として、それだけは出来なかったそうだ。
一旦はまとまりかけた話も、希帆の母親が連れて来た『旦那』候補がひっくり返したらしい。
自分が責任を持って親子関係を取り持つから、実の親子を引き離さないでくれないか、と切々と訴えたそうだ。
それから希帆の母親は『親権』を主張するようになった。
きっと『旦那』候補が入れ知恵をしたんだろう。
とは言え、希帆は自分から母親を選んだ。
他人の俺には何も言えやしない。
「…ねぇ、美由希ちゃん」
「なによ」
「龍臣のあの腑抜け具合、いつまで続くと思う?」
「…さぁね」
「も~、こんな風になるなら希帆ちゃんのこと親元に戻さなきゃ良かったじゃん!『親権』があるから仕方ねぇだろ、なんて聞き分けの良い振りしやがってさ~。美由希ちゃんもそう思うでしょ?」
「…私は龍臣の決めた事に間違いはないと思ってるよ」
「美由希ちゃんは龍臣のやることなすこと反対しないからなぁ~。あ~ぁ、園田の件も片付いてないのに、ど~すんだろぉね、あの状態で」
俺は机に突っ伏して考えていた。
あれで良かったのか、と。
毎日考える。
希帆にとって本当に最善の選択だったのか、と。
希帆があの女の元に戻ってから二週間経つが答えは出ない。
「お~い、龍臣ぃ。そんなに調子悪いなら帰るぞ~。あとHRだけだし、居なくても問題ねぇだろ」
逸弥が弁当箱だけ入った俺の鞄を俺の頭に投げつけてくる。
もう夕方か。時間が経つのは早い。
こうやって毎日の反復を続けていれば、希帆のことも忘れられるだろうか。
「お?龍臣たちもう帰る?お客さん来てっけど」
廊下に面した窓際の席の俺に、ひょっこりと別クラスの友人が顔を出す。
その声に顔を上げると、自分の後ろを着いて来た『お客さん』にコイコイと手招きをした。
「お久しぶりです!龍臣さん!!」
眼鏡を人差し指で押さえながら登場したのは希帆の同級生の三富だ。
その背後には祐一朗まで居る。
「…お前ら……なんでここに?」
「いやー、龍臣さんシオシオのクタクタですね!こういう状態のことを覇気がないって言うらしいですね!!こんなことなら希帆ちゃんのこと放り出さなきゃ良かったのにって思ってます?思ってるでしょうね!」
「お、おい、三富!そんな言い方…」
「祐一朗は黙ってて!龍臣さんは希帆ちゃんのお兄ちゃんなんだから、最後まで守ってくれないと困りますよ!僕と希帆ちゃんはケチャップ取引の契約関係なんですから!!希帆ちゃんが学校に来なくなったら困るんですから!!」
珍しく感情を露わにしている三富に面食らうが、希帆には良い友人が出来たものだと安心した。
希帆は今までと同じ小学校に通わせると約束させたので、コイツらとの友人関係は長く続くだろう。
「…これからはお前たちで希帆のこと守ってくれや」
俺やババアは親権者であるあの女に、希帆に二度と近付くなと言われてしまった。
だから俺が希帆に会いに行ったら、ストーカーよろしく通報される危険があるのだ。
「でも!…希帆、この一週間学校に来てない!!家に行っても若作りおばさんに追い返されて会えないんだ!」
祐一朗が三富の背後から身を乗り出して訴えた。
その言葉に三富も続く。
「今日も追い返されました。希帆ちゃんは風邪を引いてるから会わせてあげられない、って言ってましたけど嘘だと思います。ソワソワしてるし、何かを隠してる雰囲気でした」
「それにあのおばさん、ちょっと前から希帆に会いに来てた奴だよな?学校で、希帆の肩掴んで無理やり揺さぶったりしてた」
「…どういうことだ?」
三富たちの話は俺の腑抜けた根性を叩き直すには十分で、俺はすぐさま希帆を助けに向かった。
祐一朗が言うには、希帆の母親は拉致未遂事件前から何度も学校に来ては希帆に『母親の元に帰りたい』と言えと強要していたそうだ。
赤の他人のお前が居てはあの家に迷惑だから、自分から家を出るように話せ、と。
希帆はずっと思い悩んでいたそうだ。
自分が俺たちの重荷になってるんじゃないか、自分は居ない方が良いんじゃないか。
そう思っていた矢先に、俺に叱り飛ばされて、俺から出ていけと言われるんじゃないかと怯えていたらしい。
それから、母親に『上手く喋れないと、あの家族も嗤われる。あんたのせいでみんな不幸になる』と言われて、学校で上手に喋る練習を繰り返していたそうだ。
「俺はとんだ馬鹿野郎じゃねぇか…」
校庭に出ると雨がサァサァと振り出した。
傘を打つ雨音を聞きながら、希帆の意思を確認した日のことを反芻する。
あの時、希帆はなんて言った?
りゅうにぃ、たすけて…
希帆の唇はそう動いていたんじゃないのか?
「…っ」
俺は水飛沫を上げながら、地面を強く蹴った。
あの女が希帆に対して再び手をあげることなんて想像に難くない。
けれど『親権』を振りかざされてしまったら、他人の俺らじゃどうにもならない。
ババアは闇雲に母親と希帆を会わせようとしていた訳じゃなかった。
希帆の親権を制限する申し立てをする前に、希帆の母親の説得を試みたそうだ。
親権を喪失させてしまう手続きも出来るらしかったが、そうすると二度と親子関係は修復できない。
ババアは同じ人の親として、それだけは出来なかったそうだ。
一旦はまとまりかけた話も、希帆の母親が連れて来た『旦那』候補がひっくり返したらしい。
自分が責任を持って親子関係を取り持つから、実の親子を引き離さないでくれないか、と切々と訴えたそうだ。
それから希帆の母親は『親権』を主張するようになった。
きっと『旦那』候補が入れ知恵をしたんだろう。
とは言え、希帆は自分から母親を選んだ。
他人の俺には何も言えやしない。
「…ねぇ、美由希ちゃん」
「なによ」
「龍臣のあの腑抜け具合、いつまで続くと思う?」
「…さぁね」
「も~、こんな風になるなら希帆ちゃんのこと親元に戻さなきゃ良かったじゃん!『親権』があるから仕方ねぇだろ、なんて聞き分けの良い振りしやがってさ~。美由希ちゃんもそう思うでしょ?」
「…私は龍臣の決めた事に間違いはないと思ってるよ」
「美由希ちゃんは龍臣のやることなすこと反対しないからなぁ~。あ~ぁ、園田の件も片付いてないのに、ど~すんだろぉね、あの状態で」
俺は机に突っ伏して考えていた。
あれで良かったのか、と。
毎日考える。
希帆にとって本当に最善の選択だったのか、と。
希帆があの女の元に戻ってから二週間経つが答えは出ない。
「お~い、龍臣ぃ。そんなに調子悪いなら帰るぞ~。あとHRだけだし、居なくても問題ねぇだろ」
逸弥が弁当箱だけ入った俺の鞄を俺の頭に投げつけてくる。
もう夕方か。時間が経つのは早い。
こうやって毎日の反復を続けていれば、希帆のことも忘れられるだろうか。
「お?龍臣たちもう帰る?お客さん来てっけど」
廊下に面した窓際の席の俺に、ひょっこりと別クラスの友人が顔を出す。
その声に顔を上げると、自分の後ろを着いて来た『お客さん』にコイコイと手招きをした。
「お久しぶりです!龍臣さん!!」
眼鏡を人差し指で押さえながら登場したのは希帆の同級生の三富だ。
その背後には祐一朗まで居る。
「…お前ら……なんでここに?」
「いやー、龍臣さんシオシオのクタクタですね!こういう状態のことを覇気がないって言うらしいですね!!こんなことなら希帆ちゃんのこと放り出さなきゃ良かったのにって思ってます?思ってるでしょうね!」
「お、おい、三富!そんな言い方…」
「祐一朗は黙ってて!龍臣さんは希帆ちゃんのお兄ちゃんなんだから、最後まで守ってくれないと困りますよ!僕と希帆ちゃんはケチャップ取引の契約関係なんですから!!希帆ちゃんが学校に来なくなったら困るんですから!!」
珍しく感情を露わにしている三富に面食らうが、希帆には良い友人が出来たものだと安心した。
希帆は今までと同じ小学校に通わせると約束させたので、コイツらとの友人関係は長く続くだろう。
「…これからはお前たちで希帆のこと守ってくれや」
俺やババアは親権者であるあの女に、希帆に二度と近付くなと言われてしまった。
だから俺が希帆に会いに行ったら、ストーカーよろしく通報される危険があるのだ。
「でも!…希帆、この一週間学校に来てない!!家に行っても若作りおばさんに追い返されて会えないんだ!」
祐一朗が三富の背後から身を乗り出して訴えた。
その言葉に三富も続く。
「今日も追い返されました。希帆ちゃんは風邪を引いてるから会わせてあげられない、って言ってましたけど嘘だと思います。ソワソワしてるし、何かを隠してる雰囲気でした」
「それにあのおばさん、ちょっと前から希帆に会いに来てた奴だよな?学校で、希帆の肩掴んで無理やり揺さぶったりしてた」
「…どういうことだ?」
三富たちの話は俺の腑抜けた根性を叩き直すには十分で、俺はすぐさま希帆を助けに向かった。
祐一朗が言うには、希帆の母親は拉致未遂事件前から何度も学校に来ては希帆に『母親の元に帰りたい』と言えと強要していたそうだ。
赤の他人のお前が居てはあの家に迷惑だから、自分から家を出るように話せ、と。
希帆はずっと思い悩んでいたそうだ。
自分が俺たちの重荷になってるんじゃないか、自分は居ない方が良いんじゃないか。
そう思っていた矢先に、俺に叱り飛ばされて、俺から出ていけと言われるんじゃないかと怯えていたらしい。
それから、母親に『上手く喋れないと、あの家族も嗤われる。あんたのせいでみんな不幸になる』と言われて、学校で上手に喋る練習を繰り返していたそうだ。
「俺はとんだ馬鹿野郎じゃねぇか…」
校庭に出ると雨がサァサァと振り出した。
傘を打つ雨音を聞きながら、希帆の意思を確認した日のことを反芻する。
あの時、希帆はなんて言った?
りゅうにぃ、たすけて…
希帆の唇はそう動いていたんじゃないのか?
「…っ」
俺は水飛沫を上げながら、地面を強く蹴った。
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