111 / 143
ドキドキ同棲編
龍臣の贖罪⑪【龍臣視点】
しおりを挟む
「なんだィ、アンタたち…喧嘩でもしちまったのかィ?」
よそよそしい態度の俺たちにババアが至らぬ世話を焼いて来る。
俺たちは喧嘩をした訳じゃない。
「なんもねぇよ…。希帆、今日も美由希が迎えに行くから寄り道せずに帰るんだぞ」
「…ん」
俺と目を合わすことなく頷く希帆は、俺の足先ばかり確かめるようになった。
あの日、園田の手下の男が希帆を拉致ろうとした日から、希帆と俺の間には壁が出来てしまったのだ。
即席家族の形は簡単に崩れ、俺は希帆の頭を撫でるどころか、手も握れなくなった。
「……行ってきます」
もじもじと床ばかりを見つめる希帆に念のため声を掛けてから家を出る。
弱い俺は、返事を待たずに玄関を閉めてしまった。
「かなりキてんな、龍臣」
「……あ゛?」
机に突っ伏していると、逸弥が揶揄い半分にやって来た。
「希帆ちゃんとは相変わらずなのか?お前、死相が出てるぞ」
「…うるせぇ……」
「うわ…、返しに覇気がねぇ…。そんなに気落ちすんなら早く謝っちまえよ」
「…そんな簡単じゃねぇんだよ」
「なんでお前も怒鳴り散らすかねぇ。襲われた後で慰めてくれるはずの兄貴に怒鳴られたら、そりゃ辛いよなぁ希帆ちゃん」
「…悪かったよ………あん時は頭に血が上ってたんだって…」
「俺に謝ったって仕方ねぇだろ。希帆ちゃんに土下座でもして許しを請うんだな」
「…目が合わねぇんだよ、あの日から…。徹底的に避けられてる………俺のこと嫌いになっちまったのかなぁ……俺のせいで怖い目に遭ったんだもんなぁ…こんなお兄ちゃん嫌だよなぁ…面と向かって嫌いって言われたら…言われたら……俺…俺……」
希帆に『嫌い』と言われる想像をして、その恐ろしさに涙が零れ落ちる。
そんな俺に、逸弥は心底面倒臭そうな顔を向けた。
コイツは希帆に嫌われる怖さを知らないからそんな顔が出来るんだ。
「そんな泣くほどのことか?あんま泣いてっと、俺の変態姉貴から追いかけ回されるぞ?アイツ、人の泣き顔が大好きなド変態だからな」
「…泣くほどのことだよ。お前ぇは希帆に嫌われる怖さをいつか思い知りやがれ!!」
「おーおー、そんな日が来るのを楽しみにしとくわ」
軽口を叩く逸弥の脛を蹴り上げようとして、簡単に避けられてしまう。
コイツの人を食ったような態度はどうにかなんねぇものか。
いつか他人に振り回される逸弥の姿を拝みたいものだ。
「……それより、アイツ、園田。今日も休みだってよ。…龍臣、どう動くつもりだ?」
急に真剣になった逸弥から園田の名前が出て、俺は奥歯を噛みしめる。
俺に恨みがあると言う園田は、希帆を使って俺に憂さを晴らす魂胆だったらしい。
「俺に恨みがあるんなら俺とサシで勝負すりゃ良いだろぉが…、クソ野郎が…!」
ついつい逸弥を睨み付けると、ため息を吐きながら両手を上げた逸弥に避難がましい目を向けられた。
「おいおい、俺を睨んでもしょうがねぇだろ?肝心の園田が学校休んでるんじゃ動くにも動けねぇ」
「アイツの家を知ってる奴はいねぇのか?つか、個人情報つって学校が教えてくんねぇのが腹立つよ!!」
「まぁまぁ、生徒間のイザコザに学校側も巻き込まれたくねぇだろ。いくらヤンキー校つってもさ。…園田と仲良い奴なんて一人も居ねぇみたいでよ、誰もアイツの住所知らねぇってさ。アイツの下で動いてた奴も、お前にビビってアイツの連絡先消しちまうし…」
「くそったれが!!!」
八方塞がりの今、俺たちはしらみつぶしに街中を探すしかない。
放課後は逸弥とバイクで町内を回った。
園田は俺らに自分の出身中学や近所の話をしていた気がする。
俺も逸弥も聞き流していたから、アイツがどの辺りに住んでいるのか見当もつかない。
こんなことなら園田の話に耳を傾けておくべきだった。
「龍臣。今日も希帆ちゃんと下校したら艶子さんのお店で待ってれば良いの?」
拳を白く血が巡らなくなるまで握り締めていた俺に、美由希が教室の窓越しに声を掛けてくる。
ババアの店の一階は託児所になっている。
自分の店で働くホステスの子供や、近所の理由を抱えた親が利用出来るように夜遅くまで子供を預けられるようにしていた。
由香里はいつもババアの出勤のときはその託児所に預けられている。
あの事件以来、希帆もその託児所に預かってもらうようにしたのだ。
「おお、頼むな美由希」
「………。ウチの道場じゃだめ?」
「あ?…なんで?」
美由希は理由もなく俺の言うことに反対することはない。
あの託児所になにか問題があるのだろうか。
「見間違いかもしれないけど…、昨日、希帆ちゃんたちのお母さんが居たみたいなの」
「……あ?」
「私も艶子さんに写真をチラッと見せてもらっただけだから自信ないけどさ…。道路を挟んだ向かいのレストランに、よく似た女の人が居た気がする。…多分、希帆ちゃんたちを見に来たんだと思う」
そう言う美由希の表情は硬く、思いつめたような目をしている。
「…そのことババアには?」
「言ってない。艶子さんは希帆ちゃんたちと会わせようとするでしょ?そんなの…」
「……ありがとな、美由希」
ギュッと唇を嚙みしめる美由希の頭を少し乱暴に撫でてやると、美由希から「痛い」と肩パンを食らった。
俺は希帆たちを実母に会わせるつもりはねぇ。
あんな虐待女にこれ以上希帆の人生を委ねたくない。
けれど、『母親』であるババアは、希帆たちが望むなら実母に会わせるのも必要なことだと思っているようだった。
「取り敢えず、今日は道場に頼むわ」
「…わかった」
俺は胸騒ぎを抑えつつ、取り急ぎ園田を捕まえる算段を練ることにした。
よそよそしい態度の俺たちにババアが至らぬ世話を焼いて来る。
俺たちは喧嘩をした訳じゃない。
「なんもねぇよ…。希帆、今日も美由希が迎えに行くから寄り道せずに帰るんだぞ」
「…ん」
俺と目を合わすことなく頷く希帆は、俺の足先ばかり確かめるようになった。
あの日、園田の手下の男が希帆を拉致ろうとした日から、希帆と俺の間には壁が出来てしまったのだ。
即席家族の形は簡単に崩れ、俺は希帆の頭を撫でるどころか、手も握れなくなった。
「……行ってきます」
もじもじと床ばかりを見つめる希帆に念のため声を掛けてから家を出る。
弱い俺は、返事を待たずに玄関を閉めてしまった。
「かなりキてんな、龍臣」
「……あ゛?」
机に突っ伏していると、逸弥が揶揄い半分にやって来た。
「希帆ちゃんとは相変わらずなのか?お前、死相が出てるぞ」
「…うるせぇ……」
「うわ…、返しに覇気がねぇ…。そんなに気落ちすんなら早く謝っちまえよ」
「…そんな簡単じゃねぇんだよ」
「なんでお前も怒鳴り散らすかねぇ。襲われた後で慰めてくれるはずの兄貴に怒鳴られたら、そりゃ辛いよなぁ希帆ちゃん」
「…悪かったよ………あん時は頭に血が上ってたんだって…」
「俺に謝ったって仕方ねぇだろ。希帆ちゃんに土下座でもして許しを請うんだな」
「…目が合わねぇんだよ、あの日から…。徹底的に避けられてる………俺のこと嫌いになっちまったのかなぁ……俺のせいで怖い目に遭ったんだもんなぁ…こんなお兄ちゃん嫌だよなぁ…面と向かって嫌いって言われたら…言われたら……俺…俺……」
希帆に『嫌い』と言われる想像をして、その恐ろしさに涙が零れ落ちる。
そんな俺に、逸弥は心底面倒臭そうな顔を向けた。
コイツは希帆に嫌われる怖さを知らないからそんな顔が出来るんだ。
「そんな泣くほどのことか?あんま泣いてっと、俺の変態姉貴から追いかけ回されるぞ?アイツ、人の泣き顔が大好きなド変態だからな」
「…泣くほどのことだよ。お前ぇは希帆に嫌われる怖さをいつか思い知りやがれ!!」
「おーおー、そんな日が来るのを楽しみにしとくわ」
軽口を叩く逸弥の脛を蹴り上げようとして、簡単に避けられてしまう。
コイツの人を食ったような態度はどうにかなんねぇものか。
いつか他人に振り回される逸弥の姿を拝みたいものだ。
「……それより、アイツ、園田。今日も休みだってよ。…龍臣、どう動くつもりだ?」
急に真剣になった逸弥から園田の名前が出て、俺は奥歯を噛みしめる。
俺に恨みがあると言う園田は、希帆を使って俺に憂さを晴らす魂胆だったらしい。
「俺に恨みがあるんなら俺とサシで勝負すりゃ良いだろぉが…、クソ野郎が…!」
ついつい逸弥を睨み付けると、ため息を吐きながら両手を上げた逸弥に避難がましい目を向けられた。
「おいおい、俺を睨んでもしょうがねぇだろ?肝心の園田が学校休んでるんじゃ動くにも動けねぇ」
「アイツの家を知ってる奴はいねぇのか?つか、個人情報つって学校が教えてくんねぇのが腹立つよ!!」
「まぁまぁ、生徒間のイザコザに学校側も巻き込まれたくねぇだろ。いくらヤンキー校つってもさ。…園田と仲良い奴なんて一人も居ねぇみたいでよ、誰もアイツの住所知らねぇってさ。アイツの下で動いてた奴も、お前にビビってアイツの連絡先消しちまうし…」
「くそったれが!!!」
八方塞がりの今、俺たちはしらみつぶしに街中を探すしかない。
放課後は逸弥とバイクで町内を回った。
園田は俺らに自分の出身中学や近所の話をしていた気がする。
俺も逸弥も聞き流していたから、アイツがどの辺りに住んでいるのか見当もつかない。
こんなことなら園田の話に耳を傾けておくべきだった。
「龍臣。今日も希帆ちゃんと下校したら艶子さんのお店で待ってれば良いの?」
拳を白く血が巡らなくなるまで握り締めていた俺に、美由希が教室の窓越しに声を掛けてくる。
ババアの店の一階は託児所になっている。
自分の店で働くホステスの子供や、近所の理由を抱えた親が利用出来るように夜遅くまで子供を預けられるようにしていた。
由香里はいつもババアの出勤のときはその託児所に預けられている。
あの事件以来、希帆もその託児所に預かってもらうようにしたのだ。
「おお、頼むな美由希」
「………。ウチの道場じゃだめ?」
「あ?…なんで?」
美由希は理由もなく俺の言うことに反対することはない。
あの託児所になにか問題があるのだろうか。
「見間違いかもしれないけど…、昨日、希帆ちゃんたちのお母さんが居たみたいなの」
「……あ?」
「私も艶子さんに写真をチラッと見せてもらっただけだから自信ないけどさ…。道路を挟んだ向かいのレストランに、よく似た女の人が居た気がする。…多分、希帆ちゃんたちを見に来たんだと思う」
そう言う美由希の表情は硬く、思いつめたような目をしている。
「…そのことババアには?」
「言ってない。艶子さんは希帆ちゃんたちと会わせようとするでしょ?そんなの…」
「……ありがとな、美由希」
ギュッと唇を嚙みしめる美由希の頭を少し乱暴に撫でてやると、美由希から「痛い」と肩パンを食らった。
俺は希帆たちを実母に会わせるつもりはねぇ。
あんな虐待女にこれ以上希帆の人生を委ねたくない。
けれど、『母親』であるババアは、希帆たちが望むなら実母に会わせるのも必要なことだと思っているようだった。
「取り敢えず、今日は道場に頼むわ」
「…わかった」
俺は胸騒ぎを抑えつつ、取り急ぎ園田を捕まえる算段を練ることにした。
0
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる